4話 実技試験
今日は王都の辺境にある森に集合して実技試験。街に近い関係で危険な魔物は根こそぎ排除されているから、まだ未熟な学生でも安心できるということだろう。
「おはよー!」
「おはよう」
相変わらず元気なアズサの声が眠気を遠ざけてくれた。細身な剣……レイピアを腰に提げていて、アズサらしいなと考えてしまう。女性が近接武器を持っている姿はギルドでもあまり見かけない。武器を持つ場合は弓や高価ではあるが魔法銃を使う人が多いイメージ。
そんな中でも剣などを使う人はよほど身体能力が高いのだろうと思っていて、アズサの印象はそれに違わなかった。
「アクトも剣使うんだね、見せて!」
アズサに言われて、背負っている剣を軽く引き抜く。緑の柄と白銀に輝く刀身に、アズサがおぉ、と声を上げた。平均よりもかなり軽く作られていて、恐らくアズサの持つものと重さ自体はそこまで変わらないだろう。
「きれいな剣……」
その言葉に笑って頷く。作るときにアクトの要望を全て答えてくれた恩人には頭が上がらない。
「俺も、気に入ってる」
もちろん剣がもっともオーソドックスな武器であることは違いないが、そもそも魔法が万能なので武器を持たない人が大多数を占める。周りを見渡しても武器を持っているのは三分の一程度に見えた。
「二人とも早いね。おはよう」
ユリとキリトが道中で会ったのか揃って姿を見せて、軽く挨拶を交わす。ユリは多くの人と同じように手ぶらで、キリトは大きな弓と矢筒を背負っていた。大きな特徴は、矢筒に入っているものが矢そのものではなく魔力という点だろう。
「珍しい、魔法弓?」
アズサが興味津々、といった様子でキリトの背後に回る。
「ああ。これなら負担少ないからな」
「なるほどね。初めて見た」
魔法弓はその名のごとく魔力を矢として打ち出せるものだが、最大の特徴は付属する矢筒。その中には使用者本人の魔力をストックでき、その量は武器の質にもよるが本人が普段持っている以上の魔力を貯めておくこともできる。
確かに闇属性という不安定な魔力をその場その場で操るよりは、用途は限定されてるとはいえ本人の負担なく扱えるのは大きなメリットになるのだろう。かなり高価なものだったはずだが、それでも持つだけの意味がある。
「まあ、魔法弓って全部オーダーメイドだからな。見たことないのも無理はねえだろ」
オーダーメイドというのは初めて聞いたが、おかげで高価であることも合点が行った。
「みんな武器持ってるなんて珍しいね」
唯一武器を持っておらず会話を静観していたユリが呟く。彼女も武器が使えてもおかしくはない……というか、アクトから見れば持っていないのは意外でしかないのだが。
「ユリは武器とか持ってないんだ。なんか銃とか持ってそうなイメージだったけど」
「えっ? ううん、私あまり戦闘得意じゃないから……治癒魔法とかは得意だけど」
魔法特性は母に似たのだろう。ファミリーネームが違うのも家柄のイメージとユリの特性が違うから……いわゆる世間体というものだろうか。
彼女の母だって有名な人なのだから隠さなくてもいいと思うのだが、わざわざそうしている理由があるのだろう。どうせいつかはアクトとユリの両親に面識があることはユリにはわかってしまうだろうし、そのときに聞けるかもしれない。
程なくしてイルガが軍の者を二人連れて現れて、自然と静かになった。人数を数えて揃っていることを確認し、バラバラと広がっている生徒に近寄るように促す。
「おはようございます。これから今日の審査の説明するからよく聞いておけ。十分安全に配慮はしているが、実際に戦闘を行う可能性がある以上は危険が伴っているからな」
凄みのある声で念を押されて、先程まで賑やかだった空気が張り詰めたのがわかった。軍人の二人の紹介を軽く済ませて、全員に念話魔法陣が書かれた紙が配られる。
「これを使えば俺たち三人の誰かが対応する。もし身の危険を感じたら迷わずに使ってくれ。今回の審査はあくまで今の実力を把握するためで成績には関わらない。助けを求めてもなにかが不利になるということは無いし、むしろ正しい状況判断ができるのは強みだと考えろ」
この森にそこまでの危険があるとは思えないが、先生という立場として生徒の命を預かっている責任があるのだろう。念には念を、というやつか。
「この森の様々な場所に魔法陣が書かれた紙を設置している。それを探し出して起動、紙を持ち帰って来るまでが審査の内容だ。魔法陣には罠がしかけられているから起動する時には十分注意するように。質問がある奴はいるか?」
内容は至極単純なもので、特に手は上がらない。全員が理解したことを確認して、イルガがそれじゃあ、と手を叩く。
「はじめ!」
キリト含め気合いの入っている者たちが一斉に森の中へ駆け出して行って、イルガがあまり騒ぐなよと注意する。森の中で大きな音を立てるのはご法度に近く、それは全員がわかっているはずなのだが。
「がんばろ!」
私も! と意気込んだアズサが走り去りながら声をかけてくれ、うなずいた。
「また後で」
同じようにうん、と応えるユリの声が少し震えていて、思わず微笑む。
「ユリ、無理するなよ」
「……大丈夫、ちょっと緊張しちゃった。がんばろうね」
彼女なら気が弱くとも実力は申し分ないはずだから大丈夫だろう。アクトからもがんばろうと声をかけて、森を入ってすぐに別れた。




