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ハレを望む  作者: 明深 昊
8章『実技試験』
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3話 悪魔退治

 農園に戻ると既に襲ってきた魔物の掃討は終了していて、アクトを見て風帝がおかえりと微笑む。


「戻りました。お任せしちゃってすみません……ショウ、強いんだな」


 風で真っ二つにされていたり氷漬けや氷に串刺しになっていたりする魔物が倒れているが、ショウが倒したものの方が多そうだ。風帝は手助け程度だったのだろう。


「え、今さら?」


「想像以上だった」


 ふぅんと満更でもなさそうに笑うショウを他所に、風帝が話を進める。


「アクト、どこにいるのかわかったのか?」


 うなずいて、素直にわかったことを話すことにした。


「洞窟内にいるのは悪魔です。この三人だと光使えるの俺だけなので無理ですね」


「悪魔!?」


 風帝とショウの声が重なる。そうか……と風帝はしばらく考えて、よし、と手を叩く。


「お前らの任務はここで終わり。農園の防衛自体には成功しているからな。アクト、魔物避けの魔法陣だけ再起動できるか」


 うなずいて、その場で三箇所点在していた魔法陣をかけなおす。ショウがここから……と驚いていたが、昼間に一周して魔法陣の位置を把握していたからできたことだ。


「これで大丈夫かと」


「よし。それじゃあ明日の朝ショウは学校に帰してやる。アクトは夢幻荘に送るから幻光さんに出動要請してくれ」


「わかりました」


 悪魔討伐は本来光属性使いが複数人いないと話にならない。ショウもそれを知っていたのだろう、素直にうなずいた。


「とりあえず寝るか」


 一人だけ寝ていない風帝がそう言って伸びをする。


「俺、ほとんど戦ってないし最初見張ってますよ」


「お前も寝るぞ。それで気づけるってわかったからな」


 風帝がアクトの言葉を一蹴し、それもそうかなと洞窟の方へ目を向ける。場所がわかったのだから、先程よりも探知精度は上がっているはずだ。


 結局その後は襲撃を受けることなく朝を迎え、ショウに起こされた。


「おはよう。今風帝がコルダさんに報告に行ってる。朝ごはん食べててだってよ」


「……わかった」


 用意してくれていたパンをつまんでいると、風帝がコルダと共に戻ってきた。


「昨日は農園を守っていただきありがとうございました。原因の追求もしてくださったそうで」


「いえ、根本解決はまだこれからなので」


 アクトの言葉にショウもうなずく。コルダは頼もしいですねとやわらかく笑って、二人にこちらをと紙袋を手渡してくる。


「こんなもので恐縮ですが、さまざまな魔法食をご用意しております。今後の任務にお役立てください」


 双風として動いていたころのペースですら一ヶ月は持ちそうな数が入っていて目を見開く。元々日持ちするものだし、学校でこうして誰かと行動することを考えたら助かる数だ。


「ありがとうございます」


 お帰りまではごゆっくりとコルダがお礼を言いながら離れて、風帝が話を切り替える。


「任務お疲れ様。昨日話してた通り試験としてはちゃんと成功として報告しておいてやるからな」


「風帝、とても貴重な実習になりました」


「こちらこそありがとう。お前が軍に来て活躍する日が楽しみだ」


 アクトにまた学校で、と言い残してショウは風帝の転移で帰っていく。行くか、と風帝が洞窟の方へ目を向けてアクトの背中を叩いた。


「お前に光帝と幻光さんが加われば大丈夫だろ」


「悪魔は俺一人で大丈夫だと思います。ただ……この悪魔の性質的に魔物を呼び寄せると思うので、外でその対処をしてほしいです」


「本気で言ってるのか」


 セトがアクト一人でと言ったのだから、力不足なことはないだろう。眉をひそめた風帝に、大丈夫と繰り返した。


「洞窟内は狭いので」


「……光帝は呼んでおく。難しいと思ったら迷わずに呼べ」


 優しい言葉。外で魔物を引き受けてくれるだけでアクトとしては充分すぎる。ありがとうございますと微笑んで、洞窟へと足を進めた。


「アクト君! 会いたかったわ」


 風帝に呼ばれて現れた光帝がアクトを見るなり抱きしめ、オレンジ色の瞳が愛しげに見つめてくる。


 歳は既に三十五を超えていると聞いたことがあるが、アクトが生まれたころには光帝の地位にあったはず。それを裏付ける煌々とした魔力と、陽の光に反射する金の長い髪がアクトの眠気を吹き飛ばした。


「光帝、お久しぶりです」


「えぇ、本当に。すいちゃんやハル君から元気そうだったと聞いて安心したんだから」


 頭を撫でられ、恥ずかしくなってやめてくださいとつぶやいてしまう。


「ふふ、がんばってる子を甘やかすのは大人の特権なのよ。ふうも任務の引率お疲れ様でした」


 よしよし、と風帝の頭も撫でる光帝に、風帝が呆れたようにため息をつく。


「本番はこれからだけどな」


 光帝はそれもそうね、と笑って、数十メートル先の洞窟へ目を向ける。相変わらず洞窟内からはなんの気配も感じられず、本来ならそこに住み着く魔物の気配が複数あるはずだと考えると逆に不自然だと気づいた。


「アクト君、本当に一人で大丈夫?」


「はい。お伝えしたように入口を守ってもらえたら。行ってきます」


 洞窟に入るとさすがに異質な空気が漂っていて、深呼吸。


「セト」


『お前の影にいる。気をつけろよ』


 入口の奥に伸びていく自分の影を見ると、ゆらりと揺れる。なにかあれば手を貸してくれるだろうとほっとして、二層目までを一気に解放した。


 鎌鼬として荒れる魔力を一度押さえ込んでいる間に、刺激された悪魔が敵対心を露わに姿を見せる。


 真っ黒な人型の体。上半身だけのそれがアクトの三倍の大きさはあるように見えた。握りつぶさんと迫ってきた手をかわし、光弾を打ち付ける。手首から先を落とすと、悪魔が叫び声をあげ切り口から無数の触手が襲いかかってきて、結界で防いだ。


 物量を増して力技で破ろうとしてくるが、その程度で割れるようなやわな結界ではない。光の熱線が触手を焼いて視界を確保し、先ほどよりも大きい光弾が悪魔の頭を貫いた。


 残っていたのは胴体の半分ほどだったが、焼けるような音をたてながらぼこぼこと再生していく。


 アクトにはわからない言葉を発しながら再び襲ってくる。気色の悪い光景にゾッとして、悪魔の真下に巨大な魔法陣を描き始めた。


「与えるは神の罰。罪は底へ、悔いは天へ――」


 詠唱をしている間も鋭い光が幾重にも悪魔を刺し貫く。再生の暇すら与えぬ飽和攻撃。


「――晴れなき罪は身を焦がす。"光芒神裁"」


 膨大な魔力が放たれているのに淡々と、静かに告げられた魔法。"光芒"と呼ぶにはあまりにも太く激しい光が魔法陣から放たれ、悪魔を塵に変えた。


 復活する気配がないのを確認して肩の力を抜く。


「最高等魔法か。詠唱なんて珍しい」


 封印をかけなおしていると、セトが影から姿を現しながらそうつぶやいた。そもそもアクトは制御が苦手なせいで上級魔法の無詠唱すらこなせるのは転移くらいだ。だからこそ速攻できる初級魔法がアクトの主力になっている。


「さすがにあれを光の初級魔法一つで消し去るのは難しそうだったから。外でまだ戦ってるみたいだし、早く……」


 そう言いながら振り返って、周囲の様子がおかしいことに気づいて言葉が止まる。


「あれ」


 なにも見えない。セトがアクトを呼んでいる。さっきまで傍にいたのに声が遠くて。


 まずいと思ったときにはもう、闇の中に引きずり込まれていた。

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