1話 エリート組
十一月に入り、風の冷たさを感じるようになった頃。二クラス合同で修練場に集められ、さらに進路希望ごとに分けられた。
アクト、アズサ、キリトが集まった戦闘職は全体の四分の三程度で、やはりここが魔法使いのための学校であることを自覚させてくる。
「明日から実技試験が始まります。ここにいる戦闘職を選んだ人は三人から四人でグループを組み、軍の協力のもとで実際に任務を受けてもらう」
ある程度想定していた通りの話をされて、各々うなずいたり盛り上がったり、初めての実戦的な授業に意気込みを見せていた。
「事前にギルドに登録している者はそのギルドランク、していない者は現時点での我々の評価によって戦力ごとにチーム分けすることになるからな」
「アクトと一緒なら楽勝なんだろうなぁ」
キリトのつぶやきに、アクトは思わず笑ってしまった。こういう素直な言葉はむしろ心地いい。
「一緒だといいな」
アクトにとっても二人となら気負わなくていいのだから好都合。とはいえ判断基準は戦力ごと。どんな組み方になるかはわからないが、キリトたちと一緒になる可能性は低いように思えた。
実技試験当日。朝早くに再び修練場に集められて次々チーム分けが発表されていく。軍の人たちも来ていて、だいたいのグループはその人とともにそのまま任務へ向かっている様子。
アズサとキリトとはやはり別の班になってしまい、がんばろうとだけ声をかけあって先に呼ばれた二人が離れていった。
戦力差を均等にして分けていくのかと思っていたが、集められている班を見るに似たような実力同士で組まれているらしい。
「次、アクトとショウ」
三人か四人の班がほとんどだったため、少し疑問に思いながらイルガの元へ近寄る。ショウと呼ばれた一組の男子生徒は、想像通り他の生徒に比べて魔力の質が高いように見えた。短く切りそろえられた青い髪と吊り長の目。アクトと同じように彼もアクトのことを値踏みするように見てくる。
「お前らは一度軍の区間転移陣まで来てくれとのことだ。詳細もそこで伝えられる。がんばれよ」
ショウ、次にアクトを見て、イルガが大丈夫とでも言うかのようにうなずく。
「わかりました」
イルガから離れて、校門へ向かいながらどう話を切り出すべきか迷っていると、少し前を歩くショウの方から口を開いた。
「ショウ・テンバータ。得意属性は水。よろしく」
「アクト・ストード。風と光が得意。こちらこそよろしく」
「グループ分け、どうなってるかわかったか?」
そう聞かれて、軽くうなずく。恐らく今の魔力制限されたアクトを見て、ショウとアクトが同じ組になるとは到底考えられなかったのだろう。
「同じような実力同士だったな」
「今、魔力隠してんの? お前より強そうな奴他にもいたけど」
自分が一番だという自負があるらしい。それはアクトさえ除いてしまえばまちがっていないように思える。
「制御があまり得意じゃないから、必要なとき以外は抑えてるだけ」
そう言うと、ふぅんと納得のいかない様子でアクトへ振り向いた。
「……まあいいや。ギルドカードを元にしてるんなら別に足引っ張るようなことはしないだろ」
アクトのことをなにも知らない人物と関わるのは久しぶりで、どのように応対すればいいのか迷ってしまう。アズサたちに伝えたことや受け入れてもらったことは双風としての立場、アクトとしての立場のどちらにも支えになっているが、三人がいなければそれは意味をなさない。
足手まといだと思われるのは心外だが下手に自分のことを話す気にもなれず、そのまま黙って着いていくことにした。
軍に向かえる区間転移陣に着いて、ショウにどうぞと促される。
「俺が使うよ」
「わかった」
ショウのスムーズな起動で軍の前に転移し辺りを見回すと、見知った緑の髪を持つ人物がアクトを見て来た来たと手を振ってきた。整った顔立ちで爽やかな笑顔。
「えっ」
「よう! 久しぶりだな、アクト」
「風帝……!?」
アクトの驚いた声に、ショウがぎょっとして風帝とアクトを交互に見やる。二人の呆然とした顔にひときしり笑ってから、どこかよそよそしい様子を見て首を傾げた。
「二人は今日が初めましてか?」
「そうですけど……」
「じゃ、自己紹介も兼ねて腹ごしらえしてから行こう。朝からやってるうまいハンバーガー屋があるんだ」
大通りから少し奥まったところにあるお店に案内され、当然のように奢られてしまう。二人で支払いますと伝えたが、風帝はいいんだよと首を横に振った。
「たまには大人ぶらせてくれ」
アクトの知る限り風帝は帝の中でも歳下のほう。まだ十代なのは雷帝と彼だけのはずだ。少し茶目っ気のある言葉に、アクトは思わず笑ってしまう。
「いただきます」
ボリュームたっぷりのハンバーガーにかぶりつきながら、あらためてと風帝が名乗った。
「今日からの任務に同行する風帝です。ショウは初めましてだな。よろしく」
「は……はい、ショウ・テンバータです。両親共に軍に所属しております。いつもお世話になっております」
丁寧な挨拶に、風帝がへぇ、と感心したようにうなずく。
「それならその実力も納得だな。こちらこそいつもありがとうございますとお伝えしておいてくれ。アクトもショウにちゃんと挨拶したか?」
挨拶すらできない人間だと思われているのだろうか。とはいえ愛想が悪い自覚はあるのであまり強くは言い返せない。
「名前は……」
そう言うと、そっかと風帝は微笑んだ。
「家のことくらいは話しといた方がいいぞ」
この任務を一緒に行うとしたら隠し通すのは難しい、ということだろうか。ショウに目線を向けられて、わかりましたとため息をつく。風帝と関わりがある理由付けもできると考えればそこまで話すのを忌避することでもない。
「夢幻荘のマスター、幻光が父親」
比較的静かだったショウにえぇ! と大きく反応されて、思わずのけぞってしまう。
「まじかよ。え、てか幻光さんってお子さん一人じゃなかったんだ」
「俺は……そんなに広く交流を持ってるわけじゃないから。それよりなんで風帝が学校の試験に同行なんて」
話題を逸らすと、それは、と風帝が任務の内容が記された紙を見せてきた。
「この実技試験は軍が同行するのもあって、基本的に生徒たちの実力の一つ上のランクに行くんだけどな。Aランク任務をこなした記録があったのがお前らだけだったんだよ。今回やるのは規格外任務だ。つまりエリート組ってことだな」
「へ」
ショウが気の抜けた声を発して紙を凝視する。
「マジックリーフ農園の守護? 結界がはられてるんじゃないんですか?」
そう聞いてから、アクトにも紙を見せてくれた。マジックリーフは魔法食や魔法関係の薬の原料になる薬草の総称。豊富な魔力を持つ土壌が必要になるため、この農園も例に漏れず山頂付近にあるらしい。対策を講じないと魔物の格好の餌になってしまうため、本来なら強固な魔物避けが敷かれているはずだ。
「それじゃ足りなくなってしまうような事態ってことだ。詳しいことは行って聞いてみないとわからないんだけどな。襲ってくるのは夜だろうが、この試験って何日もらってる?」
「一応明日が休日なので、最大二日ですかね。でも……着替えはおろか野宿用の装備もなにも持ってきてないですけど」
一応物資補給用の魔法陣は持ってきていたが、まさかここまで大きな任務だったとは当然考えていない。アクトの言葉に、風帝がわかったとうなずいた。
「任務の場所は農園だからな。宿泊の用意は整えてくれている。二日しかないなら日没までに着いて今日の夜のうちにかたをつけよう」
二人で話を進める様子に、ショウはえっと……と手持ち無沙汰にポテトを口に含んだ。
「アクト、冷静すぎないか? 規格外任務だぞ」
「風帝もいるし、Aランクをこなせる人が三人いれば大抵の規格外任務はどうにかなるよ」
風帝も魔力が多く半分を封印していたそうで、サガルト家にアクトと境遇が似ている子が通っていると幼いころにリランに紹介されたのが初対面。今はその魔力も問題なく扱えているようで、その豊富な魔力を周囲にまとって風帝としての威厳を強く感じさせていた。
扱う属性が同じなのも相まって、アクトにとっては尊敬している人物の一人。
「ずいぶんと買い被ってくれているようで」
お前がいるしな、とでも言いたいのか風帝がアクトを見ていたずらっぽく笑う。
「確かに、頼りになります……でも、それならお忙しい風帝じゃなくても規格外任務をこなせる方は他にもいらっしゃるのでは」
ショウの当然の疑問に、そうなんだけど、とどこか歯切れ悪く風帝が目をそらす。
『雷帝と闇帝だけずるいじゃん、水帝とも会ったんだろ』
『え、俺ですか』
念話で理由が補足されたがまさかそんな理由だとは思ってもおらず、驚きが表情に出ないようにハンバーガーの最後の一かけらを口に運ぶ。
実技試験のときの二人は会ったとはとても言い難いが、なにかと帝たちはアクトのことを以前から気にかけてくれる。その優しさを素直にうれしいと思えるのは入学前のアクトでは難しいことだっただろう。
「色々理由があるんだよ」
とはいえそれをショウに話すわけにも行かず。風帝はそれだけ答えて話を打ち切った。




