表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハレを望む  作者: 明深 昊
7章『双風として』
41/47

2話 双風の力

 リランが転移したのは、ソウルイーターのいる場所から五十メートルほど離れたところだった。


「なるほど」


「うーん、また食べてるね」


 姿は見えないが複数人の魔力を貯えたそれは異質な空気をまとっていて、あちらもアクトたちを知覚しているらしく敵対心を露わにしている。


 様子をうかがっている隙に魔法陣を使用した結界を二重にして編み上げ、みんなの安全を確保した。キリトたちからすれば、急にアクトがこれだけの魔法を使い始めたことに理解が追いつかないだろう。


「リランさん、一個でも割れたらここを離れてください」


「わかった。ここは大丈夫だから、安心して」


「え、待ってアクト」


 森へ来てずっと呆気に取られていた三人の中で、ようやく一声発したアズサに、アクトは苦笑いだけを返して結界から離れた。


 ソウルイーターの元へ駆け出しながら、普段簡易的にかけている封印を解く。漏れ出た魔力をそのままソウルイーターへとぶつけ、うろたえはしたものの全てを呑み尽くしたのを見て思わず笑ってしまった。


 アクトの背丈ほどもある四足の獣の姿をした黒い靄。ほとんどは魔力でできているはずで、その体の大きさは貯えた魔力の多さを物語っている。


「ほしいならいくらでもくれてやる」


 大きく開けて襲いかかってきたソウルイーターの口に右腕を突っ込み、二層目の封印魔法陣を破壊した。


 うなりをあげて魔力が膨れ上がり、アクトの意志を介さず風となって周囲を荒れ狂う。


 噛みちぎる勢いで腕を咥えこんでいたソウルイーターが、その魔力に危機を感じてアクトから離れようとする。その口を光の輪で腕にがっちりと拘束し、周囲に撒き散らしたものも含め、直接ソウルイーターの体内へ解き放った。


 封印の解放直後が一番魔力の制御がきかない。なにも考えなくても体から出て行かんとする魔力にとってソウルイーターは格好の的。


 ソウルイーターが激しい唸り声をあげて首をぶんぶんと振り回してくるが、アクトの魔力強化を破れるほどの力はない。


 貯蔵の限界を超えた魔力が獣の形を保てなくなり、どろりと胴体から溶けだしていく。こうなってしまえばもう魔力を与えるような手間は必要ない。一番アクトの魔力が楽になる鎌鼬へと切り替えて、跡形もなく消し飛ばした。


 ソウルイーターはいなくなっても魔力は残存しているので、アクトの魔力でソウルイーターの禍々しい魔力を追い払う。聖域本来の温かく優しい魔力が戻ってきてほっと息を吐いた。


 聖域と言ってもこういった森の中にあるようなものはなにか特別に建物がある訳ではなく、霊脈の中心に目印のように柱を建てているだけ。この霊脈に沿うように各地の結界を維持しているのだが、やはりソウルイーターに食い荒らされたのか魔法陣に綻びを感じて柱に手を当てた。


 こういうのはユリの方が適任だろうが、今彼らに合わせる顔がない。少しでも問題を先送りにしたくて、魔法陣を丁寧に再起動する。


「これで大丈夫かな……」


 あとは散々遊ばせていた魔力を封印するだけ。


 二層目を解放したのは約一年ぶり。三人はまともに制御されてもいない化け物じみた魔力を見て、どう思ったのだろう。


 深呼吸して激しく脈打つ鼓動を整えていく。それと共に魔力も落ち着いてきて、封印の魔法陣が展開した。


 周囲の魔力がアクトの中に押し込まれ不自然に消失し、さらに展開する魔法陣がアクトの内にある半分の魔力も蓋をする。残ったのは日常生活分の魔力、自分の中に確実にしまっておける分だけ。


「大丈夫」


 自分に言い聞かせるようにつぶやいて、四人を囲っていた結界を解除する。一目散に近づいてきたのはキリトで、相当怒っているのがその様子からわかった。


「お前……!」


 胸ぐらを掴まれ、どういうことだと問い詰められる。問答無用で殴られなかっただけまだ、キリトは気持ちをセーブしているのかもしれない。それでもゆらゆらとキリトの魔力が怒りと共に膨れあがっているのは、無視出来るものではなかった。


「キリト君! なにしてるの!」


「やめなよ……」


「来るな! おい、なんか言えよ」


 遅れてきたユリとアズサの言葉をさえぎってアクトの足が浮きそうになるほど腕に力を込められた。


「双風」


 アクトのつぶやきに、ひゅっとするどく息を吸う。さすがに勘づいてはいただろうけれど。


「俺は、双風だ」


 我慢の糸が切れたらしい。いつもきれいにしまっている魔力が放出され、アクトを掴む腕が震える。


「アクト……は、なんで。なんで双風が! 学校にいるんだよ! 俺たちといたって、どうせおもしろくなんてなかったんだろ。どうせ、学生なんて大したことないって」


「違う!」


 それだけは、絶対に違うと。嘘に嘘を重ねていたのは事実で、謝らなければならないことはたくさんあるが。


「俺は三人が……友だちになってくれて、うれしかったんだよ」


 気づけばアズサとユリもすぐそばまで近づいていた。それぞれに目を向けて、ごめんと一つ謝ってからでも、と続ける。


「たくさん嘘をついちゃったけどそれだけは、しんじて」


 アクトを掴む手を離し、ぐっと拳を握ったのを見て、うなずいた。


「好きなだけ殴っていいよ」


 無言で思ったよりも魔力の乗った拳が腹に打ち込まれ、後ろに後ずさってしまう。強い闇属性の魔力にさらされて背筋が凍る。


 恐らく魔力の昂りの制御が効かなくなっているんだろう。気持ちは痛いほどわかる、わかるが、キリトはアクトとは違う危険をはらんでいるのだ。まだキリト自身には牙を向いていないのだから、もし怒りをぶつけることで発散できるのならいくらでも的にすればいい。


 どうぞと手を広げると、ユリがぐっとアクトの襟首を引っ張り割り込んでくる。キリトの手を両手で包み込み、魔力干渉の魔法が展開した。


「キリト君」


 強く、それでいて優しい光。キリトへ向けた魔法なのだろうが、近くにいただけのアクトですらひどく落ち着く光で戦闘直後で荒れていた魔力が凪いでいく。


「これ以上はだめ」


「ユリ、ちがう、おれ……」


「うん、大丈夫だよ」


 キリトも魔力の落ち着きを取り戻し、力が抜けたのか座り込んでしまう。ユリは気にせずキリトの腕を自身の胸の辺りで包み込んだまま。


「俺、アクトを傷つけたいわけじゃ。今……ごめん、ごめん……」


「そうだね……」


 呆然と二人の様子を見ていると、ちょいちょいと左肩を叩かれてハッと我に返った。


「アズサ」


「動ける? 今は近くにいない方がいいだろうから、離れよっか」


 四人に待機してもらっていた辺りまで腕を引かれるように移動すると、リランがおかえりなさいと優しい顔を見せる。


「ユリたちは?」


 アズサが事の顛末を説明して、リランはただそうかとだけうなずき、アクトに目を向ける。


「アクト、どうしてほしい?」


「……家で、待っててほしいです」


 ユリたちを森の中で二人にしてしまうのは気が引けるが、あそこは今アクトとソウルイーターが残した膨大な魔力がただよったまま。聖域ということもあるし魔物が近づいてくるようなことはないだろう。


 それじゃあ、とリランはアクトの手の甲に転移魔法陣を描く。なんで、と首を傾げたアクトにリランは微笑んだ。がんばったアクトへ多少の甘やかし。


「派手に魔法使ったの久しぶりだろう。ユリのおかげで魔力も落ち着いてるみたいだしね」


「だからってここまでしなくても」


 駄々をこねるアクトを他所に、止血程度の処置で放置されいる右腕の怪我を治してやる。万全な状態なら無意識で怪我を治すくらいのことはするだ。アクトがこれしきのことで疲れると思っているわけではないが、ユリの魔法の影響力はリランがよく分かっている。


「わかったらこれはユリに使ってもらうこと。ちゃんと四人で一緒に帰ってくるんだよ」


「……はい」


 素直にうなずいたアクトの頭を撫で、待ってるねと一足先に帰って行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ