1話 きっかけ
休日、頼まれたとおりにギルドへ行くと、ラルクだけでなくリランも待っていて首を傾げた。
「リランさん」
「色々あってね」
そう言ってギルド任務の紙を手渡される。規格外任務を示す赤い紙。ソウルイーターという魔物……といっても魔力を奪う習性のある魔物を全てそう呼ぶため同じ魔物というわけではないのだが、それの討伐依頼。複数人が失敗してランクが格上げされたらしい。
「……聖域で」
「そう。タチ悪いよね。このままだと周辺区域に影響が出てもおかしくない」
「既に聖域の魔力が食い荒らさらてる。結界のほころびが出る前にさっさと方をつけたい」
たしかに、結界に影響が出るとなれば周辺の住民は生活の安全が確保できずに不安だろう。
「任務にあたった人たちは無事なんですか?」
「把握してる限りはみんな生きてるよ。少なくとも二人は食われてて、そろそろ腹いっぱいになると思ったんだけど」
「……つまり三人目の被害者がリランさん」
「面目ない……」
申し訳なさそうにつぶやくリランに、無事でなによりですと気遣う。
「足りないと思って早めに逃げたけど、多分まだかなり余裕がある」
自分以外の魔力を自分のものに変換して蓄えることができる分強力で下手すると手がつけられなくなるが、一度に取り込める量やその合計量は無尽蔵ではない。限界を超えてしまえばその大量の魔力は持ち主に牙を剥く。
二人分の魔力を蓄えたのならまともに戦っても力負けする可能性があるだろうから、あえて魔力を与えて飽和を狙ったがリランでは足りずに逃げたということ。リランほどの魔法使いで無理となればアクトに回ってくるのも当然だ。
「わかりました。行ってきます」
「そこで提案なんだが」
ラルクに引き止められて、転移しかけていた魔力を霧散する。
「三人を連れていくか?」
「それは」
反射的に拒絶しようとして、ためらったアクトにリランは優しく微笑んだ。
「うん。双風であることを打ち明けるきっかけがあるといいんじゃないかって」
「でも……準備が」
「心の?」
うなずく。きっと心の準備なんてできる日はこないだろうに、こんな逃げ方はずるいけれど。
リランは深く息を吐き、机に肘をついてアクトを見上げた。
「別に話さないといけないわけでもないし嫌ならそれで構わないけどね。でもなにかきっかけがない限り、アクトが話せることはないだろって今のでよーくわかったよ」
そもそも普通に双風だなんて話したところで信じるわけがない。本当に双風であることを彼らに伝えるのなら力を示す他ないのだ。ラルクとリランは今そのチャンスを与えてくれている。
「ま、もう呼んでるんだけどね」
「えっ」
「ユリちゃんに医務室を手伝ってほしいって言ってある。ユリちゃんを呼んだ時はだいたいキリト君たちも来るから。もうすぐ来ると思うよ」
そもそもね、とリランはあくまでも優しくアクトに言葉を紡ぐ。
「僕やラルク、ハルマだってそうだけど。アクトとして居場所を自分で見つけてくれたことに安心しているし、うれしいと思ってる。双風だったりそれ以外のことだったり、そういったものは本来忘れて子どもらしい生活の心地良さを享受していいんだよ。それを足枷と思っているのはアクトの気持ちの問題でしかない」
「安心?」
なんで、といった様子で聞き返すアクトに、そりゃあもう! とリランは笑った。
「今、楽しいんだろ? お前からそう聞けただけでこっちは満足なんだよ」
「そう、ですか」
「だからもし今の居場所を失ってしまうと思うなら、これからも隠しておけばいい」
そう言われ、考え込むように目を伏せる。
「話して、受け入れられると思いますか?」
「自分の言葉で伝えられれば双風だと話すくらい、きっとね」
ソウルイーターと戦ったところを見せてしまえば双風であることを隠すことはできない。
「ま、半年も隠してたんだ。少しくらい喧嘩はするかもしれないが、喧嘩してくれるってことは彼らとアクトが友人である証だよ」
ラルクのその言葉に、アクトの頬が緩む。こんな気の抜けた顔なんていつぶりにみただろうか。
「キリトに怒鳴られそう」
それを穏やかな表情で話せるくらい、アクトにとってもキリトたちは大事な存在だと伝わってきた。
「いいじゃん。それも青春だよ」
三人の魔力がギルドメンバー用に解放している転移魔法陣から現れたのがわかって、一つ息を吐く。青を透明化させたのを見てリランは立ち上がり、くしゃとアクトの頭を撫でた。
「ついて行ってあげる。三人の安全は保証するしその後も面倒は見るよ」
そう言って部屋を出ていってしまったリランを追いかけようとして、はっとラルクへ振り向く。
「……魔力、解放すると思うから」
「ああ、リランもそれを承知だよ。何かあれば俺もすぐ行くけど……大丈夫。二層目くらい、人前でも扱ってみせな」
うなずいて、リランを追いかけた。
「あっ、アクトー!」
エントランスで集まっていた四人に近づくとアズサが手を振って迎えてくれて、こちらも手を挙げて応えた。
「おはよう」
「アクト君おはよう。お父さんが一緒に任務に行こうって……」
「うん。ユリも来る?」
前回ユリはこの誘いを断っている。無理強いはできないが、来てもらわなければユリに伝える機会を失ってしまう。
「大丈夫。ユリもみんなも傷一つ付けさせないよ」
それはユリに対しての言葉だが、アクトにも向けられたもの。
「そこまで言うなら……でも、医務室お手伝いできないなら、ラルクさんに言ってこないと」
「五人で行くことは言ってあるから問題ない。準備ができてるなら行こうか」
「お願いします!」
キリトのいい返事に、リランはうなずいてアクトに目を向ける。
「アクトも、いいね?」
「……はい。行きましょう」




