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ハレを望む  作者: 明深 昊
1章『逃げた先』
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3話 魔力測定

 修練場は想像以上の広さで、五十人が各々魔法の練習をしても問題なさそうなほど。今はその半分ほどの面積を使用して魔法陣を用いた結界が二つ設けられていて、入口のすぐ側でクラス別に待機するよう指示がでている。

 

 今日はキリトも時間前に現れて、アクトは内心ほっとしていた。

 

「ちゃんと起きられたんだ」

 

 アズサが茶化すと、うるさい! とわざとらしく反論する。


「二日連続遅刻してたまるか」


 他愛のない話をしていると先生が五人入ってきて、ざわついていた室内が静かになった。イルガが前に出て、軽く礼をする。


「おはようございます。今日は身体測定と魔力測定を行います。身体測定はこの修練場の隣にある部屋で、魔力測定はあの結界の中で行います」


 音属性の中ではもっともポピュラーな声の増幅魔法。全員に指示が行き渡るように、なおかつうるさくない程度に調節されている。五人の中では一番若く見えるが、全体指示を任されたのはこの魔法によるところが大きいのだろう。


「一組は魔力測定、二組は身体測定から行うので二組は移動します」


 アクトたちは二組。男女別れて更衣室で身体測定を行った。終わった人から修練場に戻る形で、直前だったキリトと一緒に移動する。


「身長いくつだった?」


「一七二センチ。キリトは?」


「一七八。八十超えたと思ってたんだけどなぁ」


 キリトはかなり体格ががっしりとしているため、実際の身長よりも確かに大きく見える。身長で一喜一憂するのが年相応で、キリトにとってはどうということのない会話なのだろうが新鮮に感じた。


「二人ともおつかれー」


 アズサとユリも戻ってきて、身長の話で一通り盛り上がる。しかし、すぐに魔力測定の話へと移っていった。


「属性の測定ってなんだろうな」


「あぁ……たぶん魔力測定に使う魔水晶を加工したものだぞ。基本属性はもちろんだが、特殊属性も一般的に知られてるものなら反応するはずだ。というか、検査対象の人が気づいていない特殊属性の資質を見つけるために使われている検査だからな」


「魔水晶に記述のない属性を持ってても、たしか検出不能で色が出たと思うよ」


 ユリに補足説明されて、思わずそうなのかと呟いてしまう。


「へぇ、知らなかった」


 アズサもきょとんとしているのを見ると、属性測定はあまり一般には知られていないらしい。


「そういうことならますます楽しみだな」


 話しているうちに自分の番が来て、少し緊張しながら結界の中へと入る。


「よろしくお願いします」


 軽く頭を下げると、イルガはこちらこそと気さくに笑った。


「それじゃやっていくぞ。まずは魔力測定な。これに手を置いてくれ」


 手袋をした状態で差し出されたのは、魔力に応じて反応を示す魔水晶。鈍く濃い赤色に変化した魔水晶に、イルガが苦笑いする。


「どうなってんだ、その魔力」


 色は魔力の質を、光量は量を表す。量は平均よりも劣る。しかし、黒みがかっているともいえる赤色は、常人レベルではない質を持っていることを示していた。


 質のよさは魔法の発動速度や威力、そして効率に関わる。質がよければよいほど少ない魔力量で強力な魔法を放てるのだ。アクトは少ない量を補ってあまりあるほど。


「……まあ、魔力の性質なんて千差万別ですし」


 苦し紛れの言い訳に、イルガは首を横に振った。


「いいじゃないか、間違いなく強みなんだから。じゃあ次は属性検査なんだが、まあ待っている間見てたならわかるよな。基本属性と自分の自覚している特殊属性は今軽く見せてらっている。それぞれの初級魔法でいいから使ってみてくれ。得意な順で構わない」


 そう言って、結界の端へとイルガが移動する。深呼吸して魔力を落ち着かせてからうなずいた。


「じゃあ、風から」


 イルガのいるところを避けられる自信はない。イルガの周囲に結界を張ってから、魔力を放った。


 轟音と共にアクトの周りに鎌鼬が荒れ狂う。やりすぎたと思ってすぐに消し去ったが、イルガに顔を向けるのが怖かった。結界を解きながら、少し顔を背けてしまう。


「すみません、あまりコントロールは上手ではなくて」


「いや……今の、鎌鼬なのか?」


「……まぁ、上級魔法を使うために魔力を練るのが苦手で基本これしか使わないですし、練度の問題もありますけど」


 もちろん上級魔法を使おうと思えば使えるのだが、魔法を組み立てるくらいならば高威力で鎌鼬を使った方が速い。とはいえ初級魔法に高い殺傷力を持たせることは至難の業であり、アクトの話したように初級魔法の威力は「魔法を使う慣れ」が色濃く反映される。


「……とりあえず続けてくれ」


 まだ衝撃から立ち直れていないようだったがそう促されて、手のひらの上に光の玉を作った。風や雷属性はどうしても攻撃的な魔法になってしまうが、それ以外であれば手のひらの上で完結させられる。続けて水属性も終わらせて、次の属性に一瞬迷った。


「どうした?」


「次音属性なんですけど、耳大丈夫ですか」


 イルガの耳栓は音を遮断するものだろう。昨日の自己紹介の時にも耳がいいといった話をしていたため、大きな音は負担になる可能性がある。


「ああ、そんなことか。気にしなくていいぞ」


 それでも魔力が強まったのを感じて、それならと手を打ち合わせた。一切音が漏れなかったことに、イルガが苦笑する。


「本当によかったんだけどな」


 音の増幅ではなく吸収。これも音属性の中では初歩的なものだが、魔法を攻撃手段として捉えているとこういった魔法の使い方は見失いがちになる。


 雷と地属性を終わらせて、一度魔力を身体中に回した。小さな火の玉は、すぐにはらはらと火の粉になって落ちていく。


「苦手か」


「そう、ですね……」


 息を吐いて緊張を解す。背中にかいた冷や汗は会話に集中して気にしないことにした。


「よし、とりあえず一通り見せてもらったからあとは潜在的なものを……」


「あ」


「どうした?」


 嘘はつけないだろう。イルガであればアクトの家も知っているはず。検査結果が出てから言い訳をするよりは先に。


「特殊属性の数嘘ついてて……天属性も持ってます」


「なるほど、受け継いでるのか」


 うなずく。天属性は母親から受け継いだ使い手のかなり少ない魔法。


「隠したいのか?」


「できれば。それに、室内だと少しきついです」


 母は室内だろうとお構い無しに嵐を呼べたそうだが、そこまでの素質を受け継ぐことはできなかった。


 天属性の性質を理解しているからこそ、アクトの言葉もよくわかったのだろう。特に疑問に思うことなく、イルガはなるほどとうなずいた。


「わかった。そうしたら終わりでいいぞ。お疲れ様」


「ありがとうございました」


 改めて人に魔法を見せるというのは初めてのことだったからか、結界を出て元の場所に戻ると少しほっとする。


「どうだった?」


 アズサが嬉々として聞いてきて、思わず笑った。


「どうもなにも、普通に魔力の検査と魔法を見せただけだよ」


「えー、特殊属性増えたりしてたらおもしろかったのにね」


「そんな簡単に増えてたまるか」


 キリトが突っこんで、つられてアクトとユリも吹き出す。


「見てな、絶対なにか増えてるから」


 気分を害したアズサがそう宣言して走っていったが、戻ってくるときはしょぼしょぼと肩をすくめていた。

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