1話 新学期
夏休みが終わり、長かった休みで浮かれた気分はすぐ戻ることはなく。二か月ぶりというのもあってか、クラスはいつも以上の喧騒に包まれている。
しかし、そんな浮ついた生徒をイルガの言葉が現実に引き戻した。
「進路希望調査の紙を配るぞ。一番上の欄にはギルドや軍で任務をこなしたいなら戦闘職。治癒や調薬、装備製造なんかは後方支援職。それ以外の魔法を使う職ならその他魔法職。もし魔法を使わない職を予定しているなら一般職に印を付けてくれ。もし具体的に就きたい職が決まったりしているなら備考欄に記入。登録してるギルドでそのまま働くとか、なにかしらで進路が確定してる人がいたらそれも書いて欲しい」
それぞれの項目を説明してから、ここからがポイントと全員の注意を向けさせる。
「この進路希望を元に今後の授業が分かれ、二年次からはクラスが編成される。戦闘職は人数が多いからそれだけで一クラスか二クラス、他の者たちでもう一クラス。一年生の段階で適正に応じて戦闘職から支援職に、支援職から戦闘職にといった提案をすることもある」
希望と違うところになる可能性の示唆に若干そわついた生徒たちを見て、大丈夫とイルガは微笑んだ。
「当然最終的には本人の意見を尊重させてもらう。学年末には今後の方向性がある程度決まることを念頭に置いて残りの年度を過ごしてくれ」
名前を書いて、戦闘職に丸を付ける。過去の立場を捨てても結局自分にできることはそれしかないと、そう考えてしまって。
「それと、夏休み前にも伝えたが明後日から学科試験があるから勉強しておくように」
将来に向けた話でそわそわしていた生徒たちを突き落とす言葉。明らかにげんなりした様子を見て、イルガは大丈夫だと笑った。
「この学校に入れてるお前らならそんな難しい試験じゃねえよ。それじゃ今日は課題提出した人から解散」
ホームルームが終わりいつも通り四人でお昼を食べようかとアズサが話し始めたが、キリトが今日はパスと鞄を持って立ち上がった。
「大聖堂に行ってくる」
「大聖堂?」
自然の魔力源を聖域と呼び、聖域と聖域の間を網の目のように魔力が通っている。神の遺物とも呼ばれるその魔力を借りて、街は簡易的な魔物避けの結界を張っていることが多い。この王都は巨大な聖域を中心に王城、そして神を奉る大聖堂を構えて栄えてきた場所。
「いつもは休みの日に行ってたんだけど、なんか儀式してたらしくてしばらく一般開放されてなかったんだよな」
キリトが淡々と説明してくれたが、アズサが聞き返したのはそれが理由ではない。
「そんな毎週通ってたの? なんで?」
「聖域の魔力を浴びると落ち着くんだよ」
その言葉に、三人ともなるほどとうなずく。
「そうしたらみんなで行こうよ。ついでに外でご飯食べよ」
アズサの提案にアクトとユリも了承し、一旦制服から着替えて合流することになった。
王城に隣接する大聖堂は王都の北区。学校は西区で少し離れているため、区間転移陣に向かうことにした。各地に点在する要所を繋ぐ転移魔法陣は起動するために係員が常駐していて、誰でも遠くへの移動を容易にできるようになっている。
転移元と転移先両方に魔法陣を敷くもので扱いやすく、もし自分で起動することができれば費用もかからない。転移先が指定されていて失敗で座標のずれが起きることもないため転移の練習のために使われることもあるくらいだ。
「キリトかアズサ、転移陣使ってみる? ユリは使えるだろ」
「うん。軍にはいつもこれで移動してるし。アクト君は自分で魔法陣描けるもんね」
アクトとユリの提案に、二人が使う! と食い気味に張り合ってくる。行きと帰りで順番に挑戦することになり、先にアズサがよし、と意気込んで魔法陣の中央に立った。
ていねいに魔法陣に魔力が注がれ、魔法陣の線一つ一つに魔力が満ちていく。充分に魔力が行き渡って少しの浮遊感と共に視界が切り替わった。
「できた! 成功だよね!」
興奮気味にユリにハイタッチを求め、ユリがそれに応じる。多少の発動遅延は初めてなのだから許容範囲だろう。
「一回で成功したのはすごいよ。体はどこも痛くない?」
「大丈夫!」
喜ぶ二人を他所に、キリトがまじかと頭を抱えていた。
「帰りにプレッシャーかけてくるなよ」
「失敗したら私がやってあげるね」
上機嫌で聖堂に向かい始めたアズサを、キリトが見てろよと追いかける。
「……こういうのの要領が良さそうなのはキリトだから成功するだろうけど」
さらにその後をユリと二人で歩きながらつぶやくと、ユリがふふ、と笑った。
「このまま内緒にして帰りにやってみてもらう方がおもしろいかもね。キリト君はりきってるし」
魔法使いにとって転移魔法の習得は大きな壁の一つ。その足がかりを得ている姿を見守れるのはアクトにとってもうれしく思えた。




