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ハレを望む  作者: 明深 昊
6章『とくべつ』
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2話 サガルト家

 荷物は玄関で出迎えた使用人に預け、応接室に通される。ほどなくしてリランが部屋に入ってきて、それに気づいていたアクトとバッチリ目が合った。


「久しぶりだね……元気そうでよかった」


 ハルマと同じことを言われて、返す言葉が見つけられずにただうなずく。


「二人がキリト君とアズサさんだね。ユリがお世話になっております」


 ソファから立ち上がって一人ずつ挨拶する二人に、リランは苦笑いして優しく座るように促した。名声としてはたしかに名高いものがあるが、家柄もあって一人歩きしているようなそれをリラン自身はあまり好いていない。こうして緊張されると話しづらいのだろう。


「僕はリラン・サガルト。リランと呼んでもらって構わないよ。僕たちの家はいわゆる剣士族、って言われてる一族で……そうだな、もし自分のためだけの武器がほしくなったらいつでも言ってね」


 サガルト家が作る武器はその全てがオーダーメイドによるもの。武器に要望に応じた魔法補助であったり、特性を付与したりといったエンチャント魔法を駆使した魔武器鋳造を得意としている。


 アクトの剣は二本持っても注目を集めないよう透明化できたり、そもそも二本操れるよう限界まで軽くされたりとその他いくつかアクトの魔力に合わせた調整がされているが、普通に武器屋でオーダーメイドしてもこれほど個人に最適化されたものは作れない。


「えっ! 武器作ってくれるってことですか……!」


 それゆえ剣士族の作る武器というのは果てしない価値をもつ。予想以上の食いつきに若干驚きはしたものの、もちろんと微笑んだ。


「そうだね、武器本体の料金はお願いするけど、エンチャントはおまけしてあげよう」


「技術の安売りはよくないんじゃ……」


 アクトのつぶやきに、いいんだよとリランは首を横に振った。


「せめてものおわびだよ。色々と嘘を重ねてしまっているからね。キリト君にも作ってあげたいけど……魔法弓はむやみやたらと買い替えるものではないから今のが合わなくなったら、かな」


「そうすね。俺は今のに不満もないしこれ以上もないと思うんで」


 魔法弓は使い手専用の調整を経て完成するもの。そう簡単に買い換えられる代物でもない。


「それはよかった。アクトは? 結構今の使って長いだろ」


「……ハルに作ってもらう」


「いつでもどうぞ」


 うれしそうにうなずくハルマとだめか……と落胆するリランをよそに、想像以上にアクトが家族と仲がいいことにユリは混乱しているようだった。


「ま、武器の話はまたあとで。ユリに家のことを隠させていた理由だね。単刀直入に言えば、家やユリの保身だよ」


 リランがすっと本題に入っていって、和やかだった空気が張り詰める。


「保身……」


「そう。サガルト家の娘なんて初対面で知ったらきっと強いだろうとか、武器の扱いがうまいんだろうとか考えるだろう? その先入観はユリにとっては苦痛にしかならない。ユリの力は決して弱いものではないけどね。それでも僕らのわかりやすいイメージを損なってしまうのはマイナスにしかならないという判断だよ」


 黙って聞いていた二人がユリに目を向け、ユリは苦笑いして隠しててごめんねと何度目かの謝罪を口にする。


「私は別に謝ってもらわなくてもいいけど……ていうか、すごいとしか」


「内緒にしてた理由があるんだもんな。確かに俺初対面でサガルトって言われて戦えませんなんて言われたらあんまいいイメージ持たねえだろうし」


 ずばっと言ってのけるキリトにリランが思わず吹き出して、そっかと安心したようだった。


「うん。ラルクにも聞いていたけど、いい子たちでよかったよ」


「え、アクトお前、ギルドのこと話したのか」


 そもそもユリの交友関係を知らなかったハルマが驚愕した様子で、アクトはまあ……と歯切れ悪くなる。


「ふふ、ハルマもたまには家に帰ってきておけばこんなに驚くことも無かっただろうに」


「そんな帰ってこれるほど暇じゃないんだけど……今日だって休み取るまでに死ぬほど働いたし」


「ハルってもう隊長になったの?」


 ハルマは学校には進学せずに軍に入隊し、去年魔物討伐を担う実働部隊の次期隊長に推薦されている人物。暇がないのは事実で、先日決まったばかりであるユリの帰宅に合わせて休みを取れたのは確かに奇跡だろう。


「形ではね。今の隊長からと、後続の副隊長に引き継ぎ中。正式な辞令をもっての着任は再来月だよ。あ、公示は来月だからみんなは内緒にしてね」


 しぃ、と人差し指を口に当てるハルマに、あまり言ったらいけなかったなと申し訳なくなる。


「まあ、ユリが学校行くようになっちゃってからはずっと会えてなかったからね。アクトもいたし無理を通してよかった」


 アクトに対しても兄のように接してくれているのだから、実際の妹であるユリはかわいくて仕方ないのだろう。


「このあと僕は修練室で練習してる子の面倒を見ないといけないから席を外すけど、なにかあれば使用人に言ってもらえれば大丈夫だから。ゆっくりしてってね」


 未成年、特に魔法学校入学前の子どもたちを対象に剣技や魔法の指導を行っているのだが、特に優秀な者には軍や学校への推薦をしている。比較的誰にでも門戸を開いているため、剣や魔法に慣れ親しむための場所としても今は使われているらしい。


「私見学したいです!」


 キリトもうんうんとうなずいたのを見て、リランはうれしそうにぜひ、と受け入れる。


「そうしたら一回学校へ送ってあげるから武器を持っておいで。アクトは……持ってきてるか」


 だから持ってたのかと納得する二人をよそに、リランが帰りの転移魔法陣をキリトの手の甲へと描く。キリトはその陣をしばらく見つめて、首をかしげた。


「これ、多分俺使えないですね」


 魔法陣は確かにその魔法を発動する手助けになるがあくまでも設計図でしかない。自分で扱えない魔法も陣による補助で発動できることもあれば、技術や知識が足りなければ当然失敗してしまう。とはいえ、魔法陣を見て使えないという判断ができるだけキリトは優秀といえる。


「それなら私も着いていくよ。お父さんの転移陣なら使い慣れてるし」


「ああそうだね、そうしようか」


 ユリの提案にリランは二つ返事でうなずき、三人を行ってらっしゃいと送り出した。

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