2話 アクトとして
四人で談笑しながら暇を持て余していると前方のドアから先生と思われる男が入ってきて、出歩いていた人たちは席に着いて静かになる。青い髪に黒い瞳。教壇に立って生徒たちを一瞥すると、人当たりのいい笑みを浮かべた。
「おはよう、そして入学おめでとうございます。君たちの担任教師を務めることになりました、イルガ・サハトナーです。一応名門魔法学校ってことになってるがせっかく追加で三年、同じ歳の奴らで過ごせるんだ。気楽に楽しんでくれ」
学力を養うために初等学校はほぼ全員の子どもが六歳から九年間通う。その中で魔法の適正がある者の中で進学を希望して試験に合格した人が魔法学校へと進学するが、人口の一割程度でしかない。残りの三割は軍やギルドに所属して金を稼ぐようになり、六割は魔法を使わない職に就く。
この学校は王都にあるからか、国内の魔法学校の中でも屈指の実力者を排出する名門校。少なくともアクトが知る実力者の中で魔法学校に進学している人は皆、ここを卒業していた。
「明日は身体測定に魔力測定。明後日は軍の協力の元、近くの森で実技審査がある。授業は明明後日からだからな」
入学二日で早速実技審査という辺りがさすがと言ったところだろうか。
「質問が特になければそうだな……端から軽く自己紹介でもしてくれ。名前と得意属性くらいでいい。魔力測定の時に参考にするから特殊属性を持ってるやつは適正度外視に教えてくれ」
「先生はー?」
キリトが陽気に質問して、イルガは少し驚きながらも微笑んだ。
「音と水。授業中話してたらどれだけ声が小さくても聞こえるから覚悟しとけよ」
耳をとんとんと叩きながらそう言って、廊下側の人から前に出るように促す。同時にイルガの耳にまとっていた魔力が強まって、アクトは端にずれるイルガを思わず目で追ってしまった。
詮索するほどのことでもないだろう。頭に浮かんだ疑問は誰に言うこともなく胸の内にしまい込んだ。
順番に自己紹介が進んでいき、キリトの発言に先ほどのようにクラス内がざわつく。しかし、それに気にした様子もなくケロッと笑った。
「堕ちてねえし、今のところは上手くやってる。安心してくれ。ってか、この魔力とこれからも付き合っていくためにここに来たんだ」
その言葉に、思わず歯を噛み締めた。アクトとはここへ来た理由が真逆。逃げる場所として選んだことが少し申し訳なくなった。
全員がなにかしらの決意があって進学を決めているはず。生半可な努力で入学できるほど高等教育は甘くないと聞く。
そんな中アクトのような人は場違い、なのだろう。悪目立ちするようなことさえしなければ誰の印象にも残らないことはわかっていても、異常性を隠していることの恐怖は付きまとう。
「アクト・ストードです。風と光が得意で……特殊属性は音もあります。よろしく」
他の人とほとんど同じ文章でなるべく目立たないように普通を演じる。特別ではない自分は新鮮で、少しだけうれしいとさえ思った。
アズサとユリも無難に挨拶を終え、他の人はなんとなくで聞き流していく。自己紹介が終わると、これで解散と告げられた。
「明日の魔力測定は量と質、あと属性適正を見るからな。なるべく今日は魔力使用控えておけよ。あと集合場所はここじゃなくて修練場だからな」
その言葉に、みんなどこか浮足立つ。入学試験の際に量と質は同様の検査を行っているが、受験者には結果が知らされていない。ギルドや軍に所属するような機会でないとこのような検査は受けられないため、自身の魔力がどれほどのものなのか数値化されるというのはここにいるほとんどの人が初めてだろう。楽しみになるのは当然のことだ。
四人で寮棟へと移動する間も前を歩くキリトとアズサはその話題で持ちきりで、想像以上にみんなが期待していることに驚いてしまう。ほとんどやったことはないが比較的いつでも検査できる環境にいたせいで、あまり特別感がわかなかった。
「二人とも、本当に楽しみみたいだね」
無言で横に並んで歩いていたユリに話しかけられて、うなずく。
「そうだな……ユリは?」
「私は戦闘員志望ではないから……でも、どのくらい魔力量が増えたのか具体的にわかるのはうれしいよね」
「そっか……」
「アクト君は楽しみじゃないの?」
素直な問いに、少しだけ言葉が詰まる。
「いや、楽しみだよ」
自身のではなく三人の結果が、なのだが。同年代の人たちがどの程度の魔力を保有しているのかは純粋な興味があった。
そんなことも知らず返答を素直に受け取ってよかったと笑うユリに、どう会話を続けたらよいかわからず微笑み返すことしか出来なかった。




