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ハレを望む  作者: 明深 昊
5章『心音』
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4話 アクトでいるための

 拠点を片付けて転移で直接ラルクの執務室へ戻る。突然現れた二人にラルクは驚いた声を出したが、アクトたちだとわかるとほっと息を吐いて立ち上がった。


「アクトおかえり。イルガさんは直接会うのは初めてですね。アクトがお世話になっております」


「はじめまして。この度はわがままを聞いてくださりありがとうございました」


 てっきり既に会ったことがあると思っていたのだが、今回のことも書面でのやりとりだったのだろう。


「とんでもありません。アクトは普段単独行動ですからいい経験になったでしょうし。それで川は……」


 浄化任務の詳細を二人で話している間に魔力を落ち着かせる。湖である程度自由にさせたお陰で安定していて、少しほっとした。


「大丈夫か?」


 急にイルガに声をかけられて、思わずえっと聞き返してしまう。


「怖がってるな、と……すまん」


 胸の内を聞かれてしまったらしい。申し訳なさそうに謝るイルガに、思わず笑って首を横に振った。


「父さん、先生に話して……できたら鍵を渡したいんだけど」


 アクトが自分から誰かに封印の鍵を渡すという選択を取るのは初めてのこと。その勇気を無下にはできない。


「わかった。任務中は……」


「別でしてる分しか使ってない」


 とはいえ、封印はあまり頻繁に触ると不安定になる。任務のときに解放していたならまた別日を考えたが、それなら問題ないだろう。


「自分から話せるか?」


 うなずいたアクトに優しく微笑んで、イルガに目を向ける。若干の不安があるのに気づき、大丈夫ですと笑いかけた。


「まだアクトのことをなにも知らないも同然だとは思いますが、どんなことを聞かされてもアクトに対する態度を変えることはありません」


 それはアクトだけでなくラルクも望んでいた言葉。双風からアクトを知った者は多くいるが、アクトから双風を知る者は彼が初めて。せっかく手に入れたアクトでいられる場所を減らしてしまうのは、ラルクにとっても避けたいことだった。


「……俺の魔力が封印されているのはご存知の通りですが、今俺が自由に使えている魔力は全体のほんの一部です」


 アクト自身どのくらい魔力を持っているのかしっかり把握できていない。少なくとも今の魔力の十倍はあるだろうと思っているが、封印されている部分はぼんやりとそこにあると理解できるだけで実態を掴むことはできず、封印の鍵を持つ者も恐らくは似たような認識しかできていないだろう。


「封印は魔力の全てを掌握していますが、その階層を三つに分けています」


 一層目は緊急時以外開放状態にしている自由な領域。二層目はアクト自身も解放でき、三層目は解放できない領域だ。


「じゃあさっき魔力が膨れ上がったのは……」


 二層目を解放したと考えたイルガの言葉を否定する。


「封印とは別で自分で蓋をしている分があるので、湖のときのはそれですね。なので正確には四層になりますが先生に渡す鍵はこの封印を含まないので」


「ざっくりではありますが一層目に大人の平均よりも多い程度。一、二層目で合わせて三人分くらいですかね。三層目はもう何年も解放していないので完全にブラックボックスです」


 ラルクの補足に、イルガは言葉にならないといった様子で口をぽかんとあけていて、思わず笑ってしまった。


「だから封印しているんです。俺にはこの魔力をちゃんと扱えないから」


 本来自分の魔力というものは、他のなによりも信頼できるものであるはずで。


「三層目は解放したら意識をのみこまれて魔力だけが暴走します」


 自分が思っているよりも冷静に言葉を紡ぐ。


「それは二層目や、今の封印状態だって起こらないとは言えないので。もし学校でそういう事態になったときに止めてくれる人が必要なんです」


「……それって、俺にできることなのか?」


 抱いて当然の疑問だが、肯定したのはラルクだった。


「鍵……アクトの魔力を持つことさえできれば、だれでも。暴れられるときつくはなりますが、鍵っていうのはそもそも逆らえなくするためのものですから」


「アクトの魔力を……」


 そう繰り返してから、イルガは一つ息を飲んだ。今の話を聞いて簡単に引き受けてはいけないと考えているのだろう。


 態度を変えないでいることと、この魔力の責任を持つことは別問題。


「もし引き受けられないと思ったら断っても」


 鍵を持たずとも、イルガの存在がアクトの支えになることには変わらない。


「いや、やるよ。乗りかかった船なんだし」


 しかしどこまでも期待に応えようとしてくれるイルガに、アクトは甘えてしまっていた。

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