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ハレを望む  作者: 明深 昊
5章『心音』
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3話 汚された湖

 湖へ近づくにつれて淀んだ空気は無視できるものではなくなってきて、安全をとって常に結界をはることにする。イルガに散々自分がと言われたが、このあとの浄化にイルガの魔法がなくてはならないのに無駄に魔力を使わせるわけにはいかない。


 木々の隙間から修練所ほどの広さはあろうかという湖が見えたところで一旦立ち止まり、イルガの方へ振り返った。


「どうした?」


「魔物一掃してくるのでここで待っててください」


「いや、お前だけはさすがに」


 どこまでもアクトのことを生徒として接してくれるイルガに、強く首を横に振る。イルガをここに待たせる理由は魔物ではなく、アクトが危険だからだ。


「周りに影響ないように万全は期しますが、それでも近くにいられると先生まで攻撃しかねません」


 そう言ってからまあ、と付け加える。


「九割九分そんなことはないと思うんですけど。可能性がないとは言いきれないのが双風の魔法です」


 双風としての言葉。決して強い口調ではなかったが有無を言わせぬ雰囲気で、イルガはそれ以上食い下がることなくうなずいた。


「ありがとうございます。それじゃあ」


 様子をうかがうこともなく湖の上空へと飛び上がり、巨大な湖を丸ごと結界で包み込む。レイフロッグがアクトに気づいて襲いかからんとするが、今アクトの周囲を守る結界は毒を拒むだけのものではない。


  様子をうかがうこともなく湖の上空へと飛び上がり、巨大な湖を丸ごと結界で包み込む。レイフロッグがアクトに気づいて襲いかからんとするが、今アクトの周囲を守る結界は毒を拒むだけのものではない。


「……少し足りないか」


 アクト自身に許された魔力解放は二層。その中でも一番上は封印されているわけではなく、アクトが日常的に必要ないからと封印している部分だ。


 胸元に手を当てて展開した魔法陣を破壊する。あふれ出る魔力をそのまま鎌鼬として結界内に解き放った。


 紫色の血が舞い上がる。抵抗の意思すら許さぬ速さの蹂躙。水の中にいようと風は水すらも切り裂いていく。


 自由にしていた魔力が自然に落ち着くのを待って結界をといた頃には、レイフロッグの数は結界の外にいた数十匹のみになっていた。それらも周囲に残っていた魔力で倒し尽くす。


 無事に終わったことにほっと息を吐いて魔法陣で魔力を封印しなおしていると、恐る恐るといった様子でイルガが出てきた。


「あとはお願いします」


「す……ごいな」


 ぽつ、とつぶやくイルガに思わず笑ってしまう。今までのやり取りのおかげで、これだけのことをしてもイルガはなにも変わらずにいてくれるだろうと信じられる。この信頼は鍵を預ける相手にはおかなければならないもの。そもそも今のだって力を出し切ったわけではなかったのだ。


「とりあえずこのあとは任せてくれ。まあ、ここまでの汚染だと完全に元通りは無理だけど」


 うなずいて邪魔にならないように湖から距離をとった。


 昨日見た浄化魔法の魔法陣が湖のいたるところで展開し、毒素を作っている魔力がイルガの魔法にによって中和されていく。


 イルガの言ったとおりある程度毒性を弱めることはできても、その先は森が持つ再生力に頼るしかない。しかし、今ここには途方もない数のレイフロッグの魔力がある。半年、下手すると一年はかかるだろうが確実に沼のようなこの場所は元のきれいな湖に戻るはずだ。


「経過観察は必要だろうけど、今回の任務としてはこれで完了かな。アクト、すごく助かった」


「いえ……こちらこそ、ありがとうございました」


「この後ギルドに戻るのか?」


 そう聞かれて、今の今まで揺らいでいた覚悟を決める。

「はい。それでもし……お時間が大丈夫なら、話したいことがあるので……着いてきていただけると」


 昨日この任務が終わったら、と伝えてしまったからには。


 意を決した様子のアクトに、イルガはもちろんと優しくうなずいた。

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