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ハレを望む  作者: 明深 昊
5章『心音』
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1話 護衛任務

 アクトが不機嫌であることが手に取るように伝わってきて、ラルクはすまんと片手で謝る仕草を見せた。昼食を終えたらギルドに来るように連絡してきたのは今日の朝。


「急になんだよ」


「ここ最近手が回りきらなくなっているんだ。夏休みなんだろ? どうせ魔力を持て余しているなら協力してくれないか」


 後半の言葉にぐうの音も出ずに目をそらす。時々自分から大量の依頼を受けているし、セトに魔力を渡している回数も少なくない。魔力を発散させるのに加えて報酬も出るのなら悪い話ではないのだ。


「わかったけど、そんな畏まらなくても……」


「依頼を見ればわかる」


 紙を六枚手渡され、その中の一つに思わず唸った。川の汚染調査の護衛。護衛を軸に同じ森での任務を選んでいるような形だ。


「護衛? 俺が?」


 アクトが双風であることは隠されているため、護衛などの人と接点を持たなければならない任務は受けたことがない。こう聞いてしまうのは当然のこと。


「お前のことを知ってる人だからな」


「えっ?」


「行けばわかる。一応これに二泊三日、二人分の用意があるから」


 魔法陣が書かれた大きな紙を渡されて、苦笑いした。対応した魔法陣の上に物を置いておき、それを行き来させる転移陣。慣れてくれば陣の上に複数あるものの中から指定することもできる。任務の時にはいつも食料や水を転移できるものを持っていくのだが、これは野宿を想定した装備を揃えてあるのだろう。


「まあ、人がいるとはいえそんなに任務に支障は無いはずだ。気をつけて行ってこい」


 返事も待たずに目的地へと転移させられて、ため息をついてからギルドカードに任務を登録した。紙は邪魔なので、ラルクの元へと送り返す。


「あ」


 感じた気配に、ぱっと振り向く。


「イルガ先生……!?」


「よう」


 いつものスーツとは違い、ラフな格好で腰に重そうな剣を釣り下げていた。


「水質調査って、先生がですか」


 確かになにも知らない人の護衛をするよりは何倍も良いのだが、あれから少しアクトから会話を避けてしまっていたので気まずさを感じてしまう。


「音が得意なのは確かだが、水も得意だからな。教師になるまでは専門にしてて、今でも異変があるところには休みを使って度々足を運んでいる」


 しかし、それには素直に驚いてへえと声を漏らした。


「護衛は頼んだが、足でまといにはならないだろうから気は遣わなくていいよ。一人で行くには不安な森だからな……幻光さんには断られるだろうけどって言われたんだが、よかった」


 これから進む、まだ比較的整備された道。その先にある魔物の気配は、他の森とは比べ物にならないほど強いものの比率が高い。護衛依頼をするのは当然に思える。しかし、後半の言葉が気になって首を傾げた。


「父さんが選んだんじゃなくて?」


「ああ、一度お前とゆっくり話がしたかったのと……単純に、知っておきたかった」


 アクトの中にある双風という存在は、どういうものなのか。


 言葉にはされなかったその意図に、一つだけ頷いた。


「じゃあ、行きましょう。今日中にある程度の目星を付けて明日には終わらせたいですね」


「川を見つければあとは上流に進むだけだ。よろしく頼む」




 立て続けに二つ任務をこなし、倒木に腰かけて休息を取ることになった。イルガ自身も言っていたようにアクトへの補助も心強く、順調に森の中を進んでいる。


「先生も食べますか? 魔法食なので疲れも取れやすいですよ」


 魔法陣から取り出した水分と間食を取りながら、当然のように聞いてくる。


 魔力を込めた加工食品を魔法食と呼び、高価ではあるがその分魔力と体力の強い回復作用がある。長期任務には必須アイテムだが、だからといっておいそれと食べられる代物でもない。


「俺は大丈夫だ。そんな戦ってる訳でもないし。お前の方が無理しないでちゃんと食べとけ」


 こう気遣われるのは珍しいため、戸惑ってしまう。差し出した手にある行き場のなくなってしまったクッキーは、余った水分と一緒に魔法陣に戻した。


「噂に聞いてはいたから今さら驚くことはないんだろうが、本当に任務を同時にこなしているんだな」


「一つじゃ俺も物足りないですし……本当は、任務を受けるのは嫌いじゃないんです」


 もう双風はやりたくない。そう言っていても、やはり魔力を思う存分放つことが出来るのは気持ちがいい。


「それでも、やっぱり自分の魔力は怖いですから」


「怖い?」


 イルガにはまだ双風であることと魔力が封印されていることしか打ち明けていない。


 鍵を預けるときには話すべきなのだろう。それでも気が引けてしまって。


「……任務が終わったら、話します」


 こうやって逃げることしか、アクトにはできなかった。

「別に話してもらわなくてもいいんだけどな」


 苦笑いするイルガに、首をかしげる。


「先生って不思議ですよね。なにかあれば話せって人はたくさん会ってきたんですけど、話さなくていいって言ってくれた人は先生がはじめてです」


 肯定的な意味で話したのだが、イルガは少し困ったようにうなずいた。


「話したくないことを無理に聞くのは好きじゃない。聞いたらいけないことをいやでも聞いてしまうのが俺だからな。お前のことだってそう」


 ごめんなと言うイルガを見て、アクトは首を横に振る。


「先生が俺を双風ではなくアクトとして見てくれたとき、救われたんです」


 今まで双風として生きてきてそれをやめたとき、どうすればいいのかわからなかった。学校でアクトと名乗るたびに自分を偽っているように思えて。


「……だから、聞いてくれてありがとうございました」


 予想もしていなかった感謝の言葉に、イルガはそっか、とうなずいた。


「それならいいんだ」

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