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ハレを望む  作者: 明深 昊
4章『いつかの選択』
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5話 ドリアード討伐

「アクト先生、俺ドリアードのことも聞きたい」


 茶化すようなキリトの言葉に同じく、とアズサも手をひらひらと振る。


「ドリアードの厄介なところはその木に寄生するという点だ。攻撃自体は木の幹を変形させたツタであったりもう少し成長してくると毒の花粉を飛ばしたり、くらいで驚異でもなんでもない」


 毒って結構驚異じゃない? とつっこんでくるアズサは一旦無視して話を続けることにした。結界などで防いで当たらなければどうということはない。


「危険なのは成長速度と耐久力。木の幹から無限に魔力を吸い上げて少し傷をつけたくらいじゃすぐに回復される。二ヶ月くらい放置してしまうと木から独立してマンドレイクっていう……いわゆる規格外扱いの魔物になって厄介なことになってしまう。そのせいでその木の周辺の草木は枯れるし……明確な害獣のうちの一体だな」


 規格外、というのはSランクとして登録されている魔法使いでも危険とされる魔物のこと。任務はいつものようにカウンターでの受注型ではなく、ギルドからメンバーへ直接渡す依頼型。


 そのためドリアードは発見次第最優先の討伐任務とされていて、火属性の魔法使いはしょっちゅうドリアードの任務を任されると聞く。


「さっき父さんが相性の話をしてたけど、回復されてしまうから風はほとんど効かない。光はやりようはあるけど……中途半端だと逆に栄養にされかねないから俺は役に立たないって思ってくれ。正直まともに攻撃が通るのはアズサの火属性だけだ」


「あ、俺も火はまあまあ使えるぜ」


「じゃあキリトも攻撃に回って。防御は全部俺が引き受けるから気にしなくていい」


「アクトは火苦手なのか?」


「たぶん二人がびっくりするくらい使えない」


 苦笑いしながらそう言うと、そんなに? と笑われる。


 その後も穏やかに談笑を続けていたが、張っていた魔力知覚の網が求めていた気配を捉えて振り向いた。


「いた。キリト、気配遮断の魔法って使える? 出来れば魔力と音を」


「得意分野。任せろ」


 三人にキリトの魔力が覆いかぶさり、要望以上の隠蔽効果に思わず微笑む。恐らくかなり近距離まで来なければ気づかれない。


「よし、じゃあ行くぞ」


 近づくにつれて木々の数が減っていき、ポッカリと空き地となってしまっている中心に一回り大きい木がそびえ立っていた。幹にできた大きな洞の中にいるもう一つの植物のようなものが本体。木の枝は不自然にうごめき、本体には食虫植物のような口ができてきていてすでにだいぶ魔力をため込んでしまってるのがわかる。


「倒す方法は簡単だ。あいつの再生能力を上回る速度で燃やし尽くせばいい」


「オッケー!」


 アズサの魔力が膨れ上がり、巨大な魔法陣がドリアードの真下に描かれる。


「“業火の折檻”!」


 大きな炎の柱がドリアードを包むように四つ立ち、回転して混ざり合い大きな炎の柱になる。ドリアードは甲高い叫び声をあげて枝を変形させたツタをアズサへ向けてうならせた。それをアクトの結界が難なく防ぎ、キリトが燃やし尽くす。


 キリトも加勢して炎の勢いはドリアードの再生力に優っているが、それに負けじと魔力を吸い上げるための根を伸ばし始めた。あまり長期戦になると二人の体力が心配になってしまう。


「往生際の悪い……」


 ドリアードの木の下に円を描くように結界を張って、魔力の補充を防ぐ。回復手段を封じられたドリアードは、悪あがきとでも言いたいのか次々と燃えカスになりかけているツタで襲ってきた。しかしながら届かなかったりとても威力があるとは言えない攻撃。あと一息だろうと考えて、さらに火力を増さんと意気込む二人に声をかける。


「新しい火は作らなくていいから維持に魔力を回して」


 魔力を放つ。それだけで魔力は巨大な空気の塊となって轟音とともに炎にぶつかった。風を得た炎は竜巻のようにうなりをあげて、ドリアードを炭へと変えていく。


「もう大丈夫。お疲れ様」


 完全にドリアードの消失を確認して声をかけると、二人は大きく息を吐きながら魔法を解いた。


「疲れた……」


「今父さんに念話するから座って休んでて」


 アズサが素直にうなずいて近くの木に寄りかかるように座ったのを見て、思わず微笑む。どうしてもアクトが攻撃に役に立たない分かなりがんばらせてしまった。


「俺あんま役に立てなかったな」


「そんなことないぞ。ドリアード警戒心強いから、隠蔽魔法がなければ近づく前に気づかれて魔力蓄えられてただろうから。キリトがいなかったら今より苦戦することになってた」


 さらに一人いるのといないのでは炎の威力も段違いだったはず。影の立役者、といったところだ。


「キリトも加勢してくれてめっちゃ助かったよ」


 アズサもそう言って、ならいいんだけどさとキリトも機嫌を直したようだった。

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