4話 三人での任務
転移されたのは森からほど近い街道で、自然と背に手が伸びて剣が抵抗なく抜けることを確認する。体に染み付いた癖は数ヶ月経っても無意識にしてしまうもの。
「……あ、二人ともちょっと」
行くか、と歩き始めたキリトたちを呼び止め、胸元に手をかざした。展開した魔法陣をそのまま二人に埋め込む。服で見えないが胴を覆うように魔法陣が描かれているはずだ。
「これは……」
「結界。怪我させるつもりはないけど、絶対安心なんてないから。一回か二回くらいなら自動的にそれが発動して攻撃を防いでくれるはず」
そう言うと、へぇ……とアズサが服の中を覗いて魔法陣を確認する。
「今日魔法陣ばっかりだねぇ。色々使い方あるんだ……」
確かに今日だけでも色々な形の魔法陣に触れているかもしれない。魔法を安定させるためによく使われる魔法陣だが、最大のメリットは紙や体などに描くことで魔法を保存できる点だ。
自分や人を対象とする結界は一時的な展開がほとんどで、常時周囲にはっておくのは例えイレギュラーを考慮しても効率が悪い。効果は強くなくても魔法陣として結界を維持しておくことで不測の事態の防止に繋がる。
「行こうか。アズサが先頭でキリトが真ん中。後ろからある程度進路は指示するから」
周囲の警戒を怠るつもりはないが、それでも二人を視界から外すのは気が引けた。素直に受け入れてくれたアズサたちの後を歩きながら森の様子を探る。さすがに普段おとなしいドリアードの位置まではわからないが、好戦的な魔物の気配はつかみやすい。古木に寄生する魔物だから奥の方に行かねばならないだろうし、入る前に大まかな道筋は立てておいて損は無いだろう。
まだ街道から獣道として道が続く森の中を進みながら、そういえばと後ろから声をかけた。
「二人ってどのくらい魔力の気配わかるんだ?」
「どのくらい……?」
アズサに聞き返されて、質問が抽象的すぎたなと考え直す。
「そこに人や魔物がいるかわかって、その強さとか誰かを判別できるのはどのくらいの距離かなと思って」
アクト自身父からの遺伝で空間支配能力には優れているし、魔力知覚は父よりも上。任務経験によってそういった力は養われていくが、学生がどのくらい身についているものなのかは知らなかった。
「うーん、敵意があって自分より強いなっていうのなら安全な距離からでもわかるけど、同格以下だったり活性化してない魔力だったりしたら結構近づかないとわからないかも……」
「俺もそんなもんだな」
「……そっか、わかった」
それだけ認識できるのであればきちんと安全なルートを選ぶことは可能だろうと少し安心する。
「ちなみにアクトは? 幻光……ラルクさんの影響とかあるの?」
魔法使いの力は遺伝する。優秀な人物からは優秀な子が産まれ、得意・特異能力も引き継ぐことが多い。アクトはその典型例とも言えた。
「うん。多分学校の敷地くらいの広さなら魔物の正確な位置はわかるし……魔法が使われたらそれもわかる」
索敵範囲を広げればその何倍と探ることもできる。やろうと思えばドリアードの場所だってわかるのだが、任務をせっかく楽しもうとしているのだし一緒に探す方が二人もいい経験になるだろう。そもそも、得意とはいえ魔力知覚の網を広げる作業は疲れるからやりたくないというのも本音。
「すご、あの広さわかるのかよ」
「たぶん二人も慣れればその半分くらいすぐできるようになるよ」
おそらくそれ以上になると素質と努力が必要になる。無責任に同じくらい、とは言えなかった。
「アクトはもう慣れっこってことだね」
まあとうなずくと、嬉々として任務の話を聞きたがる二人にそんなおもしろい話なんてないと笑ってしまう。
「基本淡々と魔物を倒すだけだから、話せるほど話題がないし……聞くより今やるんだからそれでいいだろ」
たしかにと納得してくれてほっと息を吐く。さすがに受けていた任務内容を話すなんてことできるわけがない。
「てか、道中の魔物って全部回避なんだね。気づかれてたら戦うしかないって思ってたけど」
「疲れたくないでしょ。特にアズサはドリアード倒すとき要になるから、他のと戦うことになっても休んでてもらうし」
アクトの言葉に、まあ……とアズサが歯切れ悪くなる。
「多分アズサは気づかれても襲ってこないんだなってことを言ってると思うぜ」
そう言われて、ああ、とうなずく。
「魔物も俺たちと同じで命懸けの戦いなんて避けたいんだよ。敵意を見せなければ強気な魔物以外は襲ってこない」
魔物は人以上に魔力に敏感で、大抵は力の差を見極めて襲ってくる。魔力の出力をかなり抑えているから双風として行動しているときほど"魔物除け"はできないだろうが、三人いる時点で襲ってくるような魔物はほぼいないだろう。
逆に言えば自分より強い魔物からは獲物と思われて襲われるため、先程話した魔力知覚で事前に索敵範囲から回避していくことが重要。
「この森はそんなに広くないし強い魔物も少ないからね。慣れてきたら二個や三個同時に任務受けることもあるだろうから、楽できるところは楽しないと」
こういう話をしていると自分が先生になって二人に授業しているみたいで不思議な気分になる。




