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ハレを望む  作者: 明深 昊
4章『いつかの選択』
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3話 夢幻荘

 ギルドに行く当日、昼過ぎに集合場所のアクトの部屋に集まったのは二人ではなく三人だった。


「ユリも来るんだな」


「うん、森に行くかまではまだ決めてないけど。ラルクさん最近お会いしてないから挨拶しておきたくて……」


「えー、行こうよ!」


 アズサの無邪気なお誘いに、うん……と苦笑いする。


「行ければ……ちょっと怖くて」


「まあ、無理して行くことじゃないから……はい、乗って。狭いから片足でいいよ」


 あらかじめ転移魔法陣を描いておいた大きな紙を床へ広げると、三人からおお、と声があがる。


「これ、アクトが描いたのか」


「まあ、よく知ってる場所だから魔法陣くらいなら」


 不自然ではないだろうと考えて用意したのだが、反応からするとそうではなかったらしい。


 しかしさすが幻光の息子といった形で話題がシフトしてくれて、多少のやりすぎは誤魔化しが効くようになったと前向きに考えることにした。


「じゃ、お願いしますっと」


 アズサが陣に入って、続々と二人も足を置く。全員が陣内に体を入れていることを確認して、魔力を流し込んだ。


 転移してきたのはラルクの書斎、執務室で、四人が転移してきたのを見てラルクは来たかと立ち上がった。顔はあまり似ていないが、アクトと同じ黒髪黒目で背格好も似ているから、後ろ姿だけでは判別できないかもしれない。

「本当に幻光さん……」


 アズサとキリトがわかりやすく緊張して背筋を伸ばしたのを見て、ラルクが柔らかく笑いかけてソファに座るように促した。


「はじめまして。幻夢荘へようこそ。俺はここのギルドマスターでアクトの父、ラルクといいます。そんなに緊張しなくていいよ、俺も君たちに会えるのが楽しみだったから。気軽にラルクと呼んでくれ」


 キリトとアズサが順番に自己紹介して、ユリはその代わりに丁寧に頭を下げる。


「ユリちゃんは久しぶり。来るかわからないと聞いていたからどうだろうと思ってたけど、会えてよかった」


「は……はい! アクト君から話を聞いてびっくりしました」


 その話を聞いて、アズサが首をかしげた。


「純粋な疑問だけど、ユリとラルクさんは知り合いで、アクトはユリのお父さんと知り合いなんでしょ? 二人は会ったことなかったのかい?」


 たしかに親同士、お互いの親には面識があるのに子同士で面識がないのはなかなかないことかもしれない。


「……少なくとも直接顔を合わせたことはないと思う。すれ違うくらいならあったかもしれないけど」


 アクトがそう言うと、ラルクは小さいときにちょっと会ってるかな、と否定した。


「まあ、物心もついてないころだから覚えてなくて当然だね」


 そう言ってアクトもなかなか見たことのない笑顔を浮かべる。


「まずはアクトと仲良くしてくれてありがとう。まさかギルドのことを打ち明けられるほどの友人ができるとは思ってなかったから、本当にうれしい」


 恥ずかしくなって思わず目を泳がせてしまう。それを見て、ラルクは呆れたように一つ息をついた。


「あまり付き合いがいい奴ではないだろうけど、これからもよろしくね」


 親子らしい会話なんてもう何年もしていないのに、すらすらとこんな言葉が出てくるのはアクトにとっては不思議なことで。


 こちらこそと無邪気に笑う三人に、少しだけ救われた。

「じゃあ早速任務の話なんだけど、アズサちゃんが火属性得意って聞いたから相性が良さそうなものにしてみたよ」


 手渡された黄色の紙を受け取り、サッと目を通す。実技試験を行った森でドリアードの討伐とあり、思わず顔をしかめた。確かにアズサにはもってこいの任務だが、アクトの相性は最悪。


「そんな顔しなくても、二人が任務受けたがってるんだからお前が役に立つ必要はないだろ」


「そうだけど。これ俺が受ければいい?」


「ああ。二人のカードももちろん作らせてもらうけど、魔力波形の登録とか事務処理に時間かかっちゃうから。とりあえず今は魔力波形だけとらせてもらって、帰ってきたときに渡せるようにしておくよ」


「ありがとうございます!」


 新しいギルドカードに魔力を登録してもらっている間に、自分のカードを双風の名前が書かれた面は見えないようにしながら紙に描かれた魔法陣にかざす。


「それで受けたことになるの?」


「うん。魔力を登録するだけじゃなくて任務に関する魔法陣が色々埋め込まれてる」


 中には任務を受けるだけでなく対象の魔物を倒した際、魔力の消失を認識して任務完了を確認するものもある。五十年ほど前魔物討伐の遂行詐称が横行していた時期に軍が開発したもので、今ではほぼ百パーセント普及している形。


「あ、アクト」


 念話魔法陣が描かれた紙を渡されて、首をかしげる。


「帰りはそれ使ってくれれば転移させてやるから」


『カモフラージュとしてな』


 念話で意図を補完されて、素直にわかったとうなずいた。同じものを三人にも渡して、念話魔法陣だよと説明する。


「アクトがいるから大丈夫だと思うけど、なにかあったときのために」


「……あの。私」


 しばらく静かだったユリがおずおずとラルクに声をかける。


「や、やっぱり三人に迷惑かけちゃうから……」


 その言葉に、キリトが大丈夫だろと笑った。ユリがあまり戦闘を得意としていないのはキリトもアズサも知っているが、魔物への恐怖心についてはまだ打ち明けられていない。


「迷惑なんてかかんないって」


 善意ゆえの言葉であるからこそ、ユリも困ってしまっているようで。それを見たアズサがユリの顔を覗き込むようにして微笑んだ。


「じゃあユリはまた今度にする?」


 いつもとは違った優しい声でユリに問いかけて、キリトが駄々をこねる。


「アズサもユリと行きたがってたじゃん」


「いや、そりゃ行きたいけどさ。嫌がってる子連れて行けないでしょ」


「うん、無理をして任務に行くのはお勧めしないよ。怪我でもして余計に任務への苦手意識が増えちゃったら元も子もないからね」


 ラルクは事情をリランから聞いているため、無理強いしないアズサの意見に賛成の立場。それを聞いて、キリトはあきらめたようでため息をついた。


「わかったよ。次は行こうな」


「うん……ごめんね」


「そうしたら、俺たちが任務に行っている間医務室の仕事でも手伝ってみたら。人手足りてないんでしょ」


 アクトの提案に、ラルクがいいねと乗り気になる。基本早番と遅番で一人ずつであることがほとんどで、事務作業が滞りがち。数時間でも一人増えるだけで多少は助かるはずだ。


「いいんですか?」


「もちろん、むしろこちらからお願いしたいくらいだよ」


「じゃあ、ぜひ……!」


 決まりだねと笑って、さあと立ち上がる。


「あまり遅くなって暗くなってしまうとよくないからそろそろ行ったほうがいい」


 はい! と元気よく立ち上がった二人に、アクトもつられて立ち上がる。


「いってらっしゃい。がんばってね」

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