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ハレを望む  作者: 明深 昊
4章『いつかの選択』
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1話 ギルドへ

「なんつーか……思ったより普通」


 二ヶ月も経てば入学からだいぶ落ち着き、特別だった日々が日常、ルーティンへと変わっていく。


 放課後に授業で出された課題を食堂で片付けるのも日常になりつつある中発せられたキリトのつぶやきに、アズサが首をかしげた。


「思ったよりってどういうことよ」


「実技があるのはすごいんだけどさ、もっと生徒同士で模擬戦したり魔物と戦えたりすると思ってたんだよ。蓋開けたら魔力の練り方だとかカカシへの空撃ちだとか……」


「それでも先生からのアドバイスとかタメになってると思うんだけど……男の子っぽい愚痴だね」


 ユリがころころと笑って、その一方でアズサが確かにと同意する。


「やっぱここに来たからには戦いたいよね」


「……ギルドにでも登録したら。魔法学生ならランク適正検査しないでCランク限定で魔物討伐依頼も受けられるけど」


「えっそうなの?」


「あれ? 結構普通のことだと思ってた」


 低ランクの任務を引き受ける学生の存在はギルドでも貴重で、特にこの時期はラルクがその事務処理に追われているイメージ。適正検査を免れるために学生証を詐称しようとする者もいるため、学校の方へ照会も必要になる。ただでさえこの時期は新加入する人が多いせいで、アクトまで事務作業を手伝うことも少なくない。


 そのためよく知られているものだと思っていたのだが、キリトたちの反応からするとどうも違うようだった。


「多分ギルドによると思うけど、学生の検査免除をしてるのは少数じゃないかな。王都はここの影響で比較的そういうところ多いらしいけど」


 おそらくアクトの当然と考えてしまっている理由がわかっているからだろう。苦笑いしながら話を補足してくれて、そうなんだと思わずアクトが納得してしまった。


「私んとこ田舎だからそもそもギルドも学校もなかったからなぁ。選択肢になかった」


「最寄りのギルド行ったことあるけど、闇属性ってだけで門前払いされた」


「門前払い? そんなことあるのか」


 キリト自身には問題がないのに、得意属性の懸念点だけでそのような制限を受けるというのは理不尽に感じる。


「そ。だからアクトが言ってるみたいな方法でメンバー登録するにしても、俺はまた変わってくるのかな……」


「断られそうになったら私がキリトは大丈夫って言ってやるから平気」


 アズサがそう言ってキリトの背中を叩いて、それに勇気づけられたのかキリトがよし、と立ち上がる。


「そしたら四人でギルド行くか!」


 アズサがおー! と便乗して、二人で今度の休みに行く予定を立て始めてしまった。


「えーっと」


 ユリがどうしようといった表情でこちらを見てきて、アクトもどうこれを乗り切るべきかと思考を働かせる。おそらくユリもギルドのメンバー登録を非正規の方法で済ませているのだろう。


「二人は乗り気じゃないの?」


「私は戦闘職希望じゃないから……遠慮しておこうかな」

 

 ユリの言い訳は筋が一応通っていて、余計にアクトが困ってしまった。


 二人で行かせるのは大丈夫だろうと思っていても気が引ける。さらには楽しそうにしているのを断るのも申し訳ない。そう思える程度にはアクトも二人のことを友人として大切にしていて、一歩踏み切れるチャンスが目の前に転がってきた。


「俺、夢幻荘のマスターの子どもだから。もうギルド登録してある」


 二人のことだから夢幻荘に行きたがるだろうし、それならアクトを通すのがキリトの不安も払拭できて手っ取り早い。いっそこのことを打ち明けるのが一番得策だと判断した。


「えっ!?」


 食堂中に二人の驚きの声が響き渡り、まばらにいた人たちがこちらに目を向けてくる。


「……ちゃんと話すから、一旦座ってくれないか」


 夢幻荘はアクトの家系が代々継いでいるギルドだが、国内最大規模のメンバー数となったのはここ十年程の爆発的な増加によるもの。その一因は双風の存在も大きいが、それだけではない。


「ちょっと待って、え、本当?」


「本当」


「つまり幻光の子どもってことだよな」


「うん」


 二人の問いに簡潔にうなずく。元はと言えばラルクの名声が広がって人気が増していたところを、双風が現れたことで火をつけたような形。王都のギルドマスターは、双風の存在で霞んでしまうようでは務まる立場ではない。


「もっと早く教えてくれればよかったのに!」


 アズサの言葉に、ごめんと苦笑いする。


「いつか話そうと思ってたけど……ちょうどいいタイミングだったかも」


「てか、ユリ全然驚いてないけどもしかして知ってた?」


「あ、うん。お父さんが幻光さんとお知り合いで、アクト君とも面識があったみたいで……」


 まじか……と驚きから立ち直れずにいるキリトたちに、思わず笑ってしまう。自分でも驚くほどあっさりと打ち明けることができて、内心ほっとしていた。


「黙っててごめん。でも、そういうことだから……もしよかったら直接父さんに言えば学生の認証もしないで普通にCランク登録できると思う」


 メンバーは例外なくDからSとランクのいずれかに登録される。先ほどから話していたランク適正検査をしないと、避ければ戦闘不要な薬草採取や街中での依頼となるDランクしか受けることが出来ない。検査を受ける、もしくは学生証提示による特殊登録をすることで初めてキリトたちが望むような魔物討伐依頼ができるのだが、それは窓口から通常の流れで登録した場合の話。


 アクトがギルドに登録できる最低年齢の十二歳以前からせっせと依頼をこなしていたように、メンバーカードの発行自体はやろうと思えばどうにでもできてしまう。当然魔力波形の登録などがあるので複数ギルドに所属したり他人のギルドカードを悪用したりといったことはできないが、この辺りの登録規則はかなり形骸的なものだ。


 二人にとっては願ってもない申し出に、アズサが勢いよく首を縦に振った。


「ぜひ! お願いします!」


「じゃあ休みで父さんの予定が合いそうな日聞いておく」

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