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ハレを望む  作者: 明深 昊
3章『アクトとセト』
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6話 双風のいない世界で

 アクトがいなくなってから二日後、双風がいるときと同じ量の任務はこなせないと判断して軍に足を運ぶことにした。


 最後軍に直接来たのは二年ほど前。公的な理由で来るのはさらに久方ぶり。受付でハルマかユウトに取次を頼むと、事前に伝えていたからかすぐに案内の者が応接間へと通してくれた。


 五分ほどでユウトが応接間に現れて、お待たせしましたと形式的な挨拶を交わす。


「眼鏡、珍しいな」


 ふとそう口に出すとユウトはあぁ、と黒縁の眼鏡を外して後ろで束ねていた髪をほどき、肩の辺りまで伸びた髪を手でならした。少し癖のある金に近い茶髪と、ほどいた時のほぐし方までノエルに似ていて微笑ましく感じてしまう。


「書類仕事してたから。用は双風のことだろ。なにしたの、あいつ」


 話が早い。今どこにもいないことくらいは気づいているのだろう。経緯を説明すると、明らかにいらついた様子でため息をついた。


「……依頼の数を調整したいなら考えるけど、普段どのくらい双風が持ってるんだ」


 悪態の一つでもつくだろうと考えていたが飲み込んだらしい。結局ユウトはノエルがいなくなってしまったあの日以降、ラルクが知る限りアクトに対して怒りをぶつけたことはなかった。


 胸の内を聞かせてくれることもなく、許したというよりは無関心に近い。それでも双風に関する話し合いに、軍の代表として顔を出す程度には弟のことを彼なりに考えようとしているのだろうか。


「大体夢幻荘が引き受けているAランクの五分の一、規格外ランクの三分の一くらい」


「三分の一!?」


 夢幻荘はただでさえ人が多い分、任せている任務数も膨大。双風の存在もあり高ランク任務の比重も高く、想像以上の穴にユウトが天を仰いだ。


「半分はギルド内でどうにかする。残りを他のギルドや軍で協力してくれないか」


「本当にどうにかできるのかよ」


 そう言って少し考えてから、首を横に振った。


「半分は軍で負担する。残りのさらに半分……四分の一ずつを夢幻荘と他のギルドで割り振る」


 ユウトの言葉に思わずは、と聞き返す。ユウトは大真面目にうなずいて、改めて問題ないと念押しした。


「ハルと俺が昇進する話と、それに合わせて帝の候補選抜が行われてるんだが」


「ユウトが帝の副隊長になるってことか」


「ああ。水帝に推薦される予定の人が防御魔法に特化していて……帝の王都常駐を三人から水帝を含めた二人に減らせそうだから、水帝の任命だけ早めに動けばそのくらいは請け負えるはすだ」


 気づけば息子がどんどんと昇進していることに驚いてしまうが、王都の守りを減らせるほどの水帝の技量も凄まじい。


「ありがとう。迷惑をかけてすまない……」


 ラルクの謝罪にユウトは別に、と目を逸らした。


「いいじゃないか。任務に貢献していたからって調子乗ってぶっ壊れたんだろ。あんなのがいなくても世界は回る。それを見せつけてやればいい」


 辛辣な言葉。しかしアクトの双風からの逃げを肯定しているとも思えて、ラルクは微笑んだ。


「……そうだな」

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