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ハレを望む  作者: 明深 昊
2章『双風』
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4話 双風の呪い

 一週間もすると少しずつ学校にも慣れてきて、気兼ねなくみんなと話せるようになってきたある日。


「アクト、ちょっといいか」


 帰りのホームルームのあとイルガに呼ばれ、嫌な予感がしながらついて行った。


「あの……どこへ」


「学長室。入学式で学長のことは見てるだろ?」


 その問いに、ひとつうなずく。今後の新入生に対する期待などをうたいながら、この学校の教育に対して絶対の自信があるようだった。


「その人がアクトに会いたいって。まあ両親が両親だからな」


「……こういう風に呼ばれること、よくあるんですか?」


 そう聞くと、イルガはうーんと首をかしげた。


「よくではないけど、まあ年に二、三人は呼び出されてる。この学校って結構有名な人のいわゆる二世だとか三世が入学するんだが、そういう生徒は期待されるからな」


 その言葉でイルガはアクトの出生以上のことは知らないことがわかる。そうなんですねと相づちを打ちながら、少しほっとしていた。


 五分ほど広い校内を歩き、広い廊下の奥に両開きの木製ドアが現れる。イルガが緊張した面持ちでノックした。


「学長、イルガです。アクト・ストードを連れてまいりました」


「どうぞ」


 イルガに連れられて中へ入ると、背の低い赤髪の男に貼り付けたような笑顔で迎えられた。


「こんにちは。君がアクト君か」


 扉から想像していたよりはずっと狭い部屋。こじんまりとした中に執務を行うための机や応接用のテーブルとソファが詰め込まれている。


「イルガ君は下がっていいよ。案内ありがとう」


「はい、失礼いたします」


 イルガが退室して、さて、と学長が切り込んでくる。


「改めて初めまして。学長を務めているケインです。さっそくだけど……君、双風でしょ。どうして入学したの?」


「っ……!」


 警戒を強めたアクトにまあまあとケインはソファに座るようすすめたが、それには応えずむしろすぐに外へ出られるように扉へと近づいた。


「どうして知って……」


「元火帝だからね。君のお兄さんの前任だ」


 "兄"。その言葉にアクトの背筋が凍る。


「そう身構えなくていい。僕は歓迎してるんだ。君がここに来てくれたことで"双風が通った学校"としてさらに名が通るようになる」


「俺は……双風じゃなくてアクトとしてここに」


「いずれはまた双風として活動するんだろう。それなら問題ないとも」


 アクトのことを宣伝に使えるとしか思っていない。そもそもアクトが双風であることは今後も一切公表するつもりはないのだから、アクトがアクトとして卒業したところでそのようなメリットが生まれるとは思えなかった。


「話が終わったなら失礼いたします」


 それを彼が理解しているかはわからないが、この程度のことで呼び出すとは考え難い。話がこじれないうちに退散したくなって、返事はしないで打ち切ろうとする。


「待ってくれ、本題はここからなんだ。魔力についてお父様から伝言を預かっている。伝言というよりは頼まれごとかな」


「伝言?」


 予想していなかった角度から切り出されて、首をかしげた。父――ラルクとも接点があるのは帝であったなら納得だが、わざわざアクトに直接言うのではなくケインを通して言う必要のあることがあるとは思えない。


「僕に封印の鍵を預けるように、とのことだよ」


「……お断りします」


 衝撃で少し言葉に詰まってしまったが、反射的に首を横に振ってしまう。


 アクトの魔力に枷られている封印は、魔力の制御を保ち、アクトがアクトとして生活する上で欠かせないもの。三層に分けられたその封印層のうち、今扱える魔力はほんの一部。


 その封印の鍵を渡すということは実質その人にアクトの魔力を全て明け渡すのと同義。先ほどの会話で既にケインのことは信用ならないと判断してしまったアクトにとっては論外だった。


「断られてもはいそうですかと言えるわけがないだろう。僕は学長として君や他の学生たちを守る義務がある」


「そもそもこんなところで封印を解放するような事態はないに等しいのに、わざわざ鍵を持つ意味なんてないでしょう」


 そう言っても、引き下がらずにむしろアクトの側まで詰め寄ってくる。


「こんな安全なところだからこそ、もしものことがあってはならないのはわからないのか。アクト君のためでもあるんだぞ」


「……もしあなたが封印状態での暴走を心配してるのなら、俺が一番信頼できる人がすぐに止めてくれます」


 怖いのだろう。期待しているなどと言っておきながら、野放しにしておくには確かにアクトの力は不安定で。そういう意味ではアクトの鍵を手に入れて支配下に置きたいという気持ちも理解できる。


 だとしてもケインに鍵を渡すという選択は取れなかった。


「とにかく、鍵は絶対に渡せません。失礼します」


「待ってくれ!」

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