扉の向こう側
朝の光が窓から差し込み、寝不足の目がしみる。昨夜はヴェリディアン・レルムの記憶と現実の陰鬱な細部の間を行き来する思考に、一瞬の安らぎも与えられなかった。心の中ではまだ戦いが続いている。「湖の守り手」としての責務と、かつての平凡な自分が求めた安息が衝突しているのだ。
コーヒーを飲みながらPCを起動する。画面の光が薄暗い部屋を照らす。机の上のプロジェクト報告書と部長の尽きないメールが、待ち受ける現実の冷酷な顔を思い出させる。だが今日は、これらの優先順位が違って感じられる。私の心はまだ昨夜のシステムの謎めいたメッセージに囚われたままだ。
「起きてる?ログインしてる?待ってるよ!」
スマホが振動する。アリスからのメッセージだ。
「今行く、待ってて」
キーボードに手を伸ばし、指が勝手に返信を打ち始める。
送信ボタンを押すと同時に、PC画面のヴェリディアン・レルムのアイコンをクリックする。ローディング画面がいつもより速く過ぎていく。まるでゲーム自体が私を待っていたかのように。
短いロード後、懐かしい場所に立っている――湖の国だ。空気は清浄で爽やか。湖面は朝日を浴びてきらめいている。釣り竿が手にあり、その慣れ親しんだ重みが安心感を与える。そして傍らには、アリスとフィンが待っていた。アリスは微笑みながらこちらを見て、フィンは肩の上で嬉しそうに輝いている。
「リョウ!やっと来たの!もう戻ってこないかと思って心配したわ」
アリスの声には安堵が滲む。
「ただ...ちょっと用事があって」
私は笑みを浮かべる。
「よかった!実は、元素の心臓を浄化した後、何かが起こったの!新しいクエストが出現したけど、内容がわからなくて...」
アリスが首を傾げる。
その瞬間、湖の中央から巨大な光の柱が立ち上る。この光は全ての元素の色を含んでいた――青、緑、赤、黄、紫、白と黒。調和しながら回転している。これはポータルというより、全ての次元の融合のようだ。
「湖の守り手リョウよ!」
声が湖面に反響する。古めかしく力強い声は、宇宙そのものが語りかけているようだ。
「次元の調和は取り戻された。汝の使命は完了した」
アリスとフィンは驚きと畏敬の念で光の柱を見つめる。フィンの紫の輝きがさらに強くなる。
「今、汝に選択の時が訪れた。望むなら、この全てを捨て、平穏な生活に戻ることができる。記憶は消え、力は失われる。あるいは...次元の守護者として新たな使命を受け入れよ」
声が響き渡る。
「キャラクター削除:安寧に戻る」という文字と、「クエスト受諾:次元の守護者となる」という選択肢が湖面に浮かび上がる。後者は眩いばかりの紫に輝いている。
「リョウ...これは何?あの声は?」
アリスは不安そうな目で私を見る。
深く息を吸う。これは思っていた以上に重大なことだ。システムは選択を私に委ねている。だが、私は本当は何を望んでいる?
「私は...」
声が震える。
心の中の疲労、オフィス街の生活の息苦しさ、このファンタジー冒険の消耗感が混ざり合う。
「私はただ...解放されたい!ただ心の平穏が欲しかったんだ!それだけなのに!」
光の柱を見つめ、声を強くしようと努める。アリスの表情の驚きが深まる。フィンでさえ肩の上で小さく震えている。戻ることはできないと悟る。これはもはや単なるゲームなどではないのだ。




