次元を超えた現実の呼び声
神殿の最後の扉を抜けた時、光と影の国はすでに変容を遂げていた。空の鋭い境界線は消え、太陽と月が共に舞うパステル調の天空へと変わっている。
植物や結晶は光に輝き、影に深みを増し、互いの美しさを引き立て合っていた。今やこの国は完璧な芸術作品のようだ。
「ここは…魔法みたい。全てが組み合わさるべきピースだったみたいに」
アリスが周囲を見回しながら囁く。
フィンは私の肩でじっと立ち、調和した空気を吸い込むようにしている。そのエネルギーはこの環境でさらに純粋に感じられる。
深く息を吸い込む。心に広がる安らぎが、一瞬全ての不安を忘れさせてくれる。三つの国に調和をもたらした。
これで使命は終わったのか?それともヴェリディアン・レルムのシステムが新たな道を示すのだろうか?
その時、ポケットで感じた振動に私は跳ね上がる。一瞬、周囲の全てが崩れ去り、現実の鋭い息吹が顔を打つ。
遠くから聞こえる懐かしい着信音――私のスマートフォンの音だ。
「リョウ?どうしたの?」
アリスの声が、夢のようなこの世界から遠のいていく。
光と影の国がぼやけ、色が褪せ、形が不確かになっていく。目をこすっても、自分がどこにいるのかわからない。
アパートのベッドで横になっていた。朝日がカーテンの隙間から差し込んでいる。枕元のスマホが鳴り続けている。
ベッドから起き上がる。記憶の中の異世界はまだ鮮明だ。
土の香り、炎の熱、光と影の舞――全てが昨夜見た夢のように生々しい。
しかし鼻を突く現実の臭い。古いパンと淹れっぱなしの紅茶の香り。
「部長…」
着信を見ながら呟く。
日常に戻る。オフィスビルでの生活、終わらない会議と報告書の日々。あの息苦しい単調さから逃げ出したかった最初の章の私へ。
「はい、もしもし」
電話に出る。
「リョウ!どこにいるんだ?プロジェクト報告書は今日提出だぞ!また締切に間に合わないのか!」
部長の怒声が鼓膜を刺す。
深く息を吸い込む。疲れたように頭を抱える。
全ての異世界冒険、影の守り手としての責任…
これらは本当に私を癒したのか?それとも単に古い問題を覆い隠しただけなのか?
このゲームは、仕事の退屈さから私を解放してくれたのか?それとも新たなストレスの循環に陥っただけなのか?
電話を切り、まだベッドの端に座ったまま虚ろに前方を見つめる。
最後の国の扉の複雑な色が脳裏を巡る。ヴェリディアン・レルムの英雄であることは、果てしないループなのか?
そして私は、本当は何が欲しかったのだろう?この内なる戦いは、どの異世界の怪物よりも手強い。




