街での新たな出会い
フィニアンの依頼が、私の頭に新たな疑問を生んでいた。釣りの腕をどうすればもっと早く上達させられるのか?
おそらく答えは、始まりの街にあるだろう。そこへ行くことは、私の日常から一歩踏み出すことを意味する。
普段なら人混みを避ける私だが、この好奇心が私を動かした。
VRゴーグルを装着し、ヴェリディアン・リアルムズにログインすると、いつもの穏やかな湖畔に立っていた。
しかし今回は目的が違う。釣り竿を携え、ゆっくりと街へ向かう道を歩き始める。
草の擦れる音が足音に重なる。街に近づくにつれ、剣の音や魔法の詠唱、プレイヤーの叫び声が聞こえてくる。
この喧騒には慣れていない。だが今回は目的がある。
街の門をくぐると、狭い路地が人で溢れていた。
エルフの戦士、ドワーフの商人、風変わりな姿のオークの衛兵――皆それぞれに忙しそうだ。
視線を巡らせながら、釣りに関連するものを探す。
店か、あるいは指導者がいるかもしれない。
建物の石彫りや木工細工は見事だが、人混みに少し圧倒される。
路地裏に、小さな店を見つけた。
『釣り師エルリック』
看板には釣り竿の絵が描かれている。胸に希望が灯る。
そっと店内に入ると、新鮮な魚と木材の香りが漂ってきた。
店内は温かく薄暗い。棚には様々な釣り竿、餌、網が並んでいる。
カウンターの向こうで、白髪の老人が笑顔で立っていた。
「ようこそ、若き釣り人よ」
その声は親しみを込めていた。
「こんにちは。釣りについて教えてほしいのですが」
「正しい場所に来たな。私はエルリックだ」
「釣りの腕をどうすれば上達できますか?」
ストレートに質問を投げかける。
「経験を積むことだな。より多くの魚を釣ること。だが、良い装備は珍しい魚を釣る助けになる」
エルリックは笑いながら、棚の釣り竿を指さした。
手に取った竿は、私のものよりずっと頑丈そうだ。
「ところで、珍しい魚を釣るとどうなるのですか?」
フィニアンの謎の魚のことを考えながら尋ねる。
「珍種に出会ったのか。あれらは特別なものだ。あるものは特別な調合に、あるものは...ある集団にとって価値がある」
エルリックの顔に好奇心が浮かび、言葉を少し切った。
「集団?」
「それはまた別の話だ。まずは釣りの腕を磨くがよい。ほら、ささやかなプレゼントだ。基本の釣り技術ガイドだよ」
エルリックは笑いながら、カウンターの下から小さな本を取り出した。
表紙は古びて擦り切れている。
「ありがとうございます」
この親しみやすい老人からの贈り物に、心が温かくなる。
「もっと良い竿が欲しくなったら、また来なさい」
ウィンクして見送ってくれた。
店を出ると、新しい感覚が胸に広がった。この街は思っていた以上に奥が深い。
ガイドブックをインベントリに収め、釣りの腕を磨く意欲がさらに湧いてくる。
再び湖へ向かう道で、この小さな依頼が私をヴェリディアン・リアルムズの深みへと引き込んでいくのを感じた。
私のゆったりとした冒険に、新たな意味が加わったようだった。