忘れられた神殿の影にて
アリスの明るさと好奇心が、私の傍らに新たな活力をもたらす。湖の静かな水面が心に安らぎを与える一方で、頭の中では忘れられた神殿の謎がぐるぐると巡っていた。
フィンは私の膝の上でぐっすり眠り、その柔らかな光が闇を追い払う。夜明けの光と共に、新たな冒険へと船出する準備が整った。
湖岸を離れ、囁きの森へと向かう。アリスは肩に弓をかけ、周囲を警戒しながら進む。
森の奥深くに入るにつれ、木々は密生し、陽光さえも遮られる。風が葉を揺らすざわめきは、まるで古の物語を囁いているようだ。
「ここがどうして囁きの森って呼ばれてるの?」
アリスの声は少し小さくなる。彼女の視線は木々の間から覗く影を追う。
「古い伝説によれば、この森は太古の精霊たちの囁きを伝えるんだ。時が経つにつれ、その声は風と共に木々の間に溶け込んだらしい」
私は遺言に書かれていたことを思い出す。
同時に、『古代言語と印の手引き』から「忘れられた神殿」の印を追っている。
「友好的な囁きだといいわ。こういう場所ってだいたい危険なんだもの」
アリスは呟き、震えながら弓に手を伸ばす。
確かに、森は次第に不気味な雰囲気に包まれていく。足元の地面は柔らかくなり、ところどころにぬかるみが現れる。
アリスは弓使いとしての身軽さを活かし、木の枝を飛び移りながら進み、時折手を差し伸べてくれる。フィンは彼女の肩に座り、好奇心いっぱいに辺りを見回している。
「待って、何かいる」
突然アリスが立ち止まり、素早く弓を構えて矢を番える。その視線は森の奥の一点に固定される。
私も静止し、周囲に耳を澄ます。囁きが強まり、何者かが近づいてくる気配がする。
かすかな影が木々の間を移動している。アリスの緊張が伝わってくる。
「何が見える?」
私は釣り竿を握りしめる。武器とは言えなくても、身を守る方法はいつだってある。
「影の存在よ。速くて、霧の中に巧みに隠れている」
アリスが呟く間もなく、矢が放たれる。矢は闇に突き刺さり、鋭い叫び声が響き渡る。だが、敵は複数いるようだ。
フィンが私の肩で震え始める。目が輝き、小さな体から強力なエネルギーが放出される。
これは魂の源で見せたあの能力だ。エネルギーはアリスの弓と矢を包み、紫の輝きを与える。
「今の何? 私の矢…もっと速く、正確に感じる!」
アリスは驚いた表情で私を見る。
「フィンの力だ。エネルギーを導けるんだ」
この能力が魂の源だけでなく、戦闘時にも役立つことを知り、私は嬉しくなる。
影の存在たちは、フィンのエネルギーで強化された矢の前にかき消されていく。アリスは冷静さを保ちながら矢を放ち続ける。
すぐに、森の脅威は消え去った。
「信じられない! フィンは素晴らしい相棒よ! 彼がいれば、どんな影も私たちを止められないわ!」
アリスは息を弾ませ、アドレナリンと興奮が混ざった表情を浮かべる。
道を進み続ける。霧は次第に薄れ始める。
遠く、木々の間から奇妙な構造物が見えてくる。苔に覆われた古代の石壁。
ここが忘れられた神殿に違いない。入口は巨大な石塊で塞がれている。神殿の周囲は深い静寂に包まれている。まるでこの場所が時を超えて存在し、自らの秘密を貪欲に守っているようだ。




