緩慢の力と予期せぬ救い
闇から襲いかかる魔物の赤い目が光る。体が凍りつく。釣り人である私には、まさに絶体絶命だ。
戦い方を知らない。逃げ場もない。恐慌が心を支配する。
魔物の爪が迫ってくる。目を閉じ、最悪を覚悟する。その時、稲妻のような閃きが頭を走った。
剣は持っていない。だが釣り竿はある。そして古代釣法のスキルも。
目を見開く。魔物が目前に迫っている。本能的に竿を振り上げる。
『船乗りの贈り物』が輝く。道糸には見えないエネルギーが満ちているようだ。
「自然と一体となること」
司書の声が頭に響く。水の力が竿に注がれるかのようだ。
魔物が接触寸前、竿を振り下ろす。道糸が魔物の首元に絡みつく。これは攻撃ではなく、釣りの技術だ。
魔物は驚いて後退する。力任せに道糸を引きちぎろうとするが、糸は想像以上に頑丈だ。
魔物の唸り声が洞窟に反響する。引き続ける。魔物はバランスを崩す。
滑りやすい地面でよろめき、壁に激突する。土煙が舞い上がる。この機を逃さない。
素早く後退し、洞窟の出口へ向かう。外の光が見える。
洞口にたどり着き、新鮮な空気を吸い込む。振り返る。
魔物はまだ道糸から逃れようともがいている。追ってこない。混乱と怒りに囚われているようだ。
安堵の息をつく。まさに生死をかけた戦いだった。だが勝者は私だ。
生き延びられたのは戦闘スキルではなく、釣りの知識のおかげ。この事実が、不思議な笑みを浮かべさせる。
ヴェリディアン・リアルムズでの緩やかな冒険は、より危険な様相を呈し始めた。だが同時に、より興味深くもなっている。
この洞窟はまだ秘密を隠し持っている。次に訪れる時は、もっと準備を整えてこよう。




