通路の開啓と古の声
修道院の奥底から響くうなり声が耳に残る。月光の粉が台座で輝きを増すにつれ、像の目はさらに明るく光り始めた。守護者たちが命を得たかのようだ。
やがて音は静まり、台座の背後の壁に亀裂が走る。古い石が震え、裂け目が広がっていく。
壁の中央がゆっくりと開き、通路が現れる。内部から漏れる薄緑色の光が廊下を照らす。これまで見たどの光とも違う。
通路を覗き込む。細長い廊下が続いている。重く湿った空気が顔を撫でる。
一瞬、踏み込むのを躊躇う。これは私の釣り冒険とはかけ離れている。だが引き返す気はない。
好奇心が恐怖を上回る。新たな発見への欲望が私を前へと駆り立てる。
通路に向かって歩き出す。像の輝く目が私を見送るように感じる。一歩、中へ踏み入れる。
苔に覆われた壁、所々に水たまり。天井は低く、今にも崩れ落ちそうだ。
慎重に進む。足音が薄暗い廊下に吸い込まれていく。緑の光が道を照らす。
廊下の突き当たりに、広い部屋へ続く隙間が見える。光はここから強くなっている。部屋へ向かう。
部屋に入った瞬間、息をのむ。そこは巨大な図書室だった。壁一面が天井まで届く書架に覆われている。
数千、いや数万冊の古書が並ぶ。革装丁は傷み、ページは黄ばんでいる。
部屋の中央には円形の台座。その上に大きな水晶が光を放っている。
水晶から発せられる緑がかった光が部屋全体を照らす。安らぎを感じさせるエネルギーに満ちている。
台座に近づく。水晶に触れようとした瞬間、
「ようこそ、安らぎを求める旅人よ。緩慢さがもたらした叡智が、汝をここへ導いた」
古く賢者のような声が空間に響き渡る。NPCでもプレイヤーでもない。まるで心の中で直接語りかけられるようだ。
凍りつく。これはゲームの通常機能ではない。
「月光の粉を持ち来たるを見た。古の知識の扉が、汝に開かれよう」
声は続く。
水晶に触れる。掌に微かな温もりを感じる。この感覚は、あまりに現実的だ。
まるでヴェリディアン・リアルムズの深層へ、未知の世界へと足を踏み入れたよう。この「緩慢な冒険」は、もはや緩慢などではない。