修道院への旅路と秘められた囁き
エルリックの言葉が頭の中で反響する。北の修道院、古代の知識、そして危険。私の釣り冒険は、全く違う様相を帯びてきた。この未知なるものへの想いが、胸に好奇心と仄かな緊張を同時に生み出す。
湖畔の穏やかなベンチから立ち上がる。新たな目的地は、始まりの街の北方だ。釣り竿と新しく手に入れた基本釣りガイドを慎重にインベントリに収め、月光の粉の袋もそこに置く。微かに輝き、その存在を主張している。
街の門へと歩みを進める。足取りは慎重で、まるでいつ何が起こるか分からないかのようだ。街の喧噪は、門を出るとすぐに静かな風に取って代わられる。
道は最初は緩やかな起伏が続き、次第に上り坂になっていく。小道は所々草や低木に覆われ、他のプレイヤーと出会うことも稀だ。彼らもそれぞれの冒険を急いでいるようで、足早に通り過ぎていく。
私の歩みは、そんな慌ただしさとは全く異なるリズムで流れていく。空は雲に覆われ始め、頬を撫でる風に、ヴェリディアン・リアルムズの雰囲気さえも変わったように感じる。
これまで常に穏やかで晴れ渡っていたこの世界が、今はより神秘的に、不確かなものへと変容している。木々の葉音は、遠くから聞こえる未知の動物の声と混ざり合う。
小道は森の中へと曲がり込んでいく。木々は密生し、枝が絡み合う。陽光さえもこの濃い影の間をかろうじて抜けてくるほどだ。
剣の音や魔法の爆発音は、もう遥か遠くに感じられる。これは私にとって新たな種類の静寂だ。安らぎというより、緊張を伴う静けさ。
道端には苔むした小石が転がっている。古い小道の名残りのようで、過去からの囁きを運んでいる。修道院が本当に古いものであることが、これらの痕跡からうかがえる。
一歩一歩が、私をさらに深く、この忘れられた場所の中心へと引き込んでいく。しばらくすると、小道は急な坂道へと変わる。息が荒くなり、肺が空気を必死に吸い込む。
現実世界の疲労がここにも影響する。ゴーグルの下で、私が少し汗をかいていることに気付く。仮想世界は、物理的な反応さえも引き起こす力を持っているのだ。
坂の頂上に差し掛かると、遠くに建造物が見えてくる。灰色の切り石でできた高い壁を持つ古びた建物。屋根は一部崩れ、窓は空虚で暗い穴のように見える。それが修道院だ。
門は堅く閉ざされている。内部の様子を外から窺うことすら許さないようだ。周囲に人の気配はなく、完全な静寂が支配している。
修道院へ最後の一歩を踏み出す。胸には大きな興奮と、かすかな不安が同居している。これは私の釣り冒険を超えた一歩だ。この扉の向こうに何が待っているのか、私は知らない。だが学ぶ準備は、確かにできている。