西の小屋②
「今日は掃除はいいので、少しだけここにいてもいいですか?私、ここに来てから魔術使っていないのでちょっとだけ使いたいんですが……」
「もちろんです。ただ、埃っぽくて窓もないので、長居は厳禁ですよ。もし、何かあればあの瓶を割ってもらっていいですか?」
ヨーレンはそう言って、薬草や液体が揃っている棚の中にあるうっすらと黄緑色に光る液体の瓶を指さした。
「何かの薬品ですか?」
「あれはリールが作った連絡用の発光体です。空気に触れると凄まじい音と光は発せられます。今では軍事用にも使用されている魔具の一つです」
「そうなんですね」
ハレアはその瓶を手に取って中を見てみる。かすかに光っているだけで何でできているのかは見ただけでは分からなかった。
「本当にすごい音が鳴るので最終手段ですけどね」
「分かりました!手元に置いておきます!」
「では、私は屋敷に戻ります。あっ、ここにある薬草や本は古いものばかりなので役に立ったないと思いますよ。奥様がここをお使いになるならば、今度処分しておきますね」
「はい、色々とありがとうございます」
小屋を見渡すと明かりが全くない。ドアを閉めてしまえば、窓もないため一瞬にして真っ暗になる。そこにぼやんとさっき紹介された魔具の瓶だけが光っている。
「フレータム」
ハレアがそう言葉を発すると左手の人差し指から炎が出る。その炎の明かりを頼りに辺りを照らし、見まわす。近くにランタンを見つけ、火をつける。
一瞬にして小屋全体が明かるくなる。このランタンも魔具の一つなのだろう。ここまで光が強いランタンをハレアは見たことがない。
「これもリールさんの作ったものなのかな?」
ランタンを手に取り上下左右見たり触ったりしたが、特に変わったところのないただのランタンだった。
「魔具の授業取っておけばよかったな~。見てもなんも分かんないや。解析の魔術は使うには相当な精度が必要だから私には無理だし……」
ハレアはそっとランタンを机に置いた。
ランタンを置くと机の上にあった埃が舞い上がった。
「ゴホッ!ゴホッ……」
「やっぱちょっと埃っぽな~。う~ん」
「あっ!掃除しちゃえばいいのか!学校のトイレを水洗いした時みたいに水魔術で床とか流しちゃえば、一気に綺麗になるじゃん!」
ハレアは思い立ったらすぐ行動してしまう性格なので、こうなったらやるまで止まらない。ドアを開け、水を流す準備は万端。
パチンッ――
ハレアが指を鳴らした瞬間、凄まじい水量の渦巻きが彼女の周りを取り囲んだ。
「えっ?あれ?ちょっ!多くない!?」
パリンッ――
その水流に巻き込まれて手元にあった、連絡用の魔具の瓶が割れる。
『ビィィィィィィイイイイイイイイイイイイイ』
けたたましい音を鳴らすもその発光体ごと水に飲まれ、すぐに『ゴボッ』とこもる様な音になりすぐに消えた。
「あっ、どうしよ……とまんない!なんで増えてくのっ!?」
水の量は増して、ハレア自身を巻き込んで小屋の中にあった古本や瓶ごとドアから押し出された。辺りは水浸し、煙突からは水が噴き出している。