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大魔法使い

「そもそも何故カイルさんが、ハレアの能力を知っているのですか?」

 カミュレスは低い声でそう言う。先程までの明るい声とは全くの別モノだ。

「昨夜拝見いたしました。そもそも、チェルシーがワガママを言ったのもありましたが。彼女も彼女で皇子に逆らったら不敬にされるかもと思われたのでしょう……」

「それならば殿下は分かりますが、あなたは何故その場にいらしたのですか?」

「成り行きです。場所を提供したのは私でもありますし。ただ、彼女の能力というのに興味があったのは事実です」

「まあ、これも直してくれたし、カイルさんのことは信用してるけど……」

「正直、あの能力を目の当たりにした際、邪なことを考えてしまったのは事実です」

「ハレアの力を使うということにですか?」

「はい。『空のもよう』という絵本はご存じですか?」

「ええ、幼児向けの絵本ですよね?確か、女神が祈りを捧げたら、空に綺麗な模様が描かれた……みたいな話だったような……」

 カミュレスは遠い記憶を頼りにそう語った。

「そうです。ファンタジー作品とされていますが、あれは古代ルルドネア王国の話なのです」

「では、実際に空に模様が!?」

「ええ、そうです。それはまだ『魔術』という言葉がなく、『魔法』があった時代の話です」

 カイルはそうして、静かに語り始めた。


ーーー


 今より遠い昔の話。まだ帝国はなく、小国が多数存在していた。中でも、かつてのルルドネア王国は海の近くということもあり、商業にも漁業にも栄えていた。そして、異国からの移民も多く受け入れていたルルドネアは他国で迫害されていた『魔法使い』と呼ばれる人たちの逃げ場でもあった。

 しかし、それを良しとしない国とルルドネアで戦争が頻発していた。そこで立ち上がったのが、移民である魔法使いである。

 ルルドネアは魔法を使った戦法に他国を圧倒していた。しかし、それと同時に多数の死者が出たのだ。他国の民とはいえ、これ以上死人を出したくないと考えた、当時のルルドネアの王が、大魔法使いと呼ばれていた女性に一つお願いをしたのだ。


「この国で争いごとの一切起こらない平和な地にしてくれ」


 王のその願いには必要なものがあった。巨大な魔石である。巨大な魔石に大魔法使いの魔力を入れ、それを原動力にこの国を守る大きな結界を張るということだった。魔石に魔力を注入するということは古代ではあり得ないことだった。王は半信半疑だったが、平和には代えられないと子どもの大きさほどの巨大な魔石を用意した。

 大魔法使いはそれを綺麗に正四角形に削り、自分の魔力を注入した。一日では入れきれず、数日に渡って魔力を注入し続けた。そして、魔力が入れ終わると真っ黒だったその巨大な魔石は透明に輝いた。

 そして、大魔法使いはその魔石を使って国中の空に結界を張ったのだ。かつての魔法の主流であった魔法陣が空一面に描かれた。

 こうして古代のルルドネアには平和が訪れたのだ。


 大魔法使いは言った。

「魔力が枯渇し、この魔石が力を無くした時、私の生まれ変わりがまたこの国に平和をもたらす」


ーーー


「つまりは、カイルさんはハレアがその大魔法使いの生まれ変わりだと思っていると?」

 ファンタジーじみた昔話をにわかには信じられずに、疑いの目をしたカミュレスがそう言った。

「いや、私も生まれ変わりなんて信じてはいません。そもそも、大魔法使いの生まれ変わりがいるのであれば、先の戦争時に出てこないとおかしい。ただ彼女の魔力ならば、あの魔石をもう一度復活させられるのではないかとふと思っただけです」

 カイルはそう語りながら儚い顔をした。


「えっ、まだその魔石があるの!?」

 今まで何も反応せずにひたすらに聞いていたリールが少し裏返った声でそう放った。

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