やりたい放題
「やっぱここいたか~!」
大きな屋敷の裏庭に広がるだだっ広い原っぱにカイルはいた。手には剣が握られていて、額には汗が流れている。ここで剣を振っていたようだ。
「やるなら俺も誘ってよ~」
チェルシー殿下はフラフラと彼の元へと駆け寄った。
広場の端っこで一人残されたカミュレスだったが、ふと横のベンチを見るとチルが座っていた。
「ハレアと一緒に街に買い物に行ったのかと思ってた」
そう言いながらチルの隣に座ると、彼女は「はぁ……」と深いため息をした。
「あの人なら面白がって街行くと思ってたのに」
チルは目線を外してそう言った。
「ああ……、もしかしてチル嬢は殿下が苦手なの?」
「あの人のこと得意な人いるの?アニキはあんな風に普通に接してるけど、かなりのトラブルメーカーじゃん!ハレアは優しいし、鈍感だから相手できるのかもだけど、私には無理」
眉をひそめて、いつもとは違う低い声で言い放った。
「俺も苦手だよ。何考えてるか分かんないし、ずっと笑顔張り付いてるし」
「それは学校時代の色男君もじゃん」
チルは「ふっ」と少し笑いながら言った。
「そうかも。今だって店に立つ時は多分そういう笑顔してると思うよ」
「そっか。でも、私は今みたいな笑わなくてもいい自然な方が好きだよ。なんか吹っ切れた感じ?てか、もうどうでも良くなっちゃった感じ?」
チルは少し意地悪な笑顔でカミュレスを見た。裏庭の中心ではチェルシー殿下とカイルが木刀で手合わせをしている。早すぎて目で追いきれないほどだ。
「まあ、吹っ切れたのはその通りかも。フラれたし」
「え?それ言っちゃって大丈夫なやつなの?まあ、知ってたけど」
「なんか、ハレアの周りを見てたら、諦め付いたよ。自惚れてたんだよ、アイツのことは俺しか知らないとか、守れないみたいに。全然そんなことないのに」
「まあ、ハレアは人に頼るのうまいしね。羨ましいくらいに。それに一人でだって十分あの子は強いから……」
「それなんだよな~」
カミュレスは空を見上げた。
「やっぱカイルは第二隊に入るべきだったよ」
手合わせを終え、木刀を落として拾おうとしているカイルに向けてチェルシー殿下が言う。
「勝っといてそれを言うのは嫌味だぞ」
木刀を手に取ったカイルの頬から汗が流れ落ちた。
「一応、俺第二隊長だぞ。そう簡単に倒されたら威厳がなくなるだろ」
久しぶりに動いたからかスッキリとしたハツラツとした笑顔のチェルシー殿下がいた。
「単純に剣より古代魔術の方が好きだっただけだ」
「ふ~ん。好きってはっきり言うようになったんだね」
チェルシー殿下は少し面白くなさそうな顔をした。
「お、おかしいか?」
「まあ、いんじゃない?何があったかは知らないけど」
そう言いながらチェルシー殿下はカイルに背を向け、チルとカミュレスの座っているベンチの方にゆっくり歩き始めた。
途中で振り返り、カイルを見た。
「あっ、好きならなおさら隊長なりなよ!俺みたいにやりたい放題できるよ!」
無邪気で少しいたずらっ子のように笑い、向き直ってまた足を進めた。
「やりたい放題じゃダメだろ」
カイルは呆れたように呟き、小さく笑った。




