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西の小屋①

「奥様、どちらへ行かれるのですか?」

 庭に出ると執事のヨーレンに呼び止められた。

「西側に小屋があると旦那様から聞いていまして、そちらだと魔術を使ってもいいとおっしゃっていたので……」

「ああ、あそこですか。あそこは次男のリールがたまに使う程度で、あまり出入りしていないので片付いていませんよ。今日急いで片付けて明日から使用する形でもよろしいですか?」

「いえ、ただ中を見たいだけだったので、片付けは結構ですよ」

「あっ、でも私が張りましたバリアの魔術も結構前のものなので、それだけでも張り替えますね」

 ヨーレンはそう言ってハレアを西の小屋まで案内してくれた。


 小屋というだけあって、こじんまりとしたレンガ積みの物置小屋のような見た目だった。外壁には蔓が伸びていて、少し暗い印象だ。

「本当、普段なかなか使うところではないので、管理が行き届いていなくて申し訳ありません」

 ヨーレンはそう言いながら古い木のドアを開けた。ギーッと不気味な音を立てた扉の向こうには少し埃っぽい簡易な部屋が一つあるだけだった。中には大きなテーブルが一つ真ん中にあり、壁際には棚がびっしりとある。大量の本が並べられている本棚、瓶の中に魔石や薬草、干からびたトカゲに謎の粉。窓はなく光が入る場所はない。外からは見えなかったが、小さな暖炉があるということは煙突があるのだろう。

「埃っぽいところですみません。明日にでも掃除しておきますので」

「いえ、大丈夫ですよ。ちなみにここは自由に使ってもよろしいのですか?」

「ええ、坊ちゃんもそうおっしゃられていたのでしょ」

 ヨーレンは会話をしながら片手間に部屋の壁、天井、床にバリアの魔術を張っている。


『詠唱破棄』

 魔術は言葉と密接に関係している。呪文を唱えることによって魔術は発動する。しかし、得意の魔術、家系で受け継がれている魔術は呪文を唱えなくても発動させることができる。

 ヨーレンは片手間でもバリアの魔術を完璧に発動することができるようだ。


 この世界は基本的に四つの魔術の種類がある。火・水・風・土。ハレアの家系は水魔術の家系のため、水魔術に関しては詠唱破棄で発動が可能だ。呪文を唱えればハレアでも火・風・土の全ての魔術を扱うことができる。キルシュは『炎の冷徹魔術師』と言われるだけあって火魔術の使い手だ。ハレア自身は彼の魔術を見たことがないので、どれほどの威力があるかは分からないが、学園時代の伝説で旧校舎を消し炭にしたというのを聞いた事があるので、凄まじいものなのだろうということは分かっている。

 バリアの魔術は誰もが使える初歩的な風魔術の一つだが、空気を圧縮し硬化させるため普通の人は小さな範囲にしか発動させられない。さらには一度攻撃を受けてしまえば圧縮がほどけてしまうため、壊れてしまう。

 そんな魔術をヨーレンは詠唱破棄で広範囲に張ることができ、攻撃程度では壊れないほど強いというので常人ではない。そんな彼がなぜ伯爵家の執事として従事しているのかは謎だ。


「ヨーレンさんのバリアは本当凄いですね。聞いていたよりもずっと硬いです」

「いやぁ、お恥ずかしいですね。攻撃魔術や暮らしに役立つ魔術はからっきしなのに、防御だけは完璧なんて男としてどうかと思いますよね。坊ちゃんなんて国一つ焼き払えるくらいの力の持ち主なのに。あ~、でも坊ちゃんはその力を持っているというだけで絶対そんなことはしませんよ?安心してください。彼は本当に己の欲望に忠実というか、自分の興味のあるもの以外は全くもって何もしないといいますか。逆に魔術に秀でているからどうにかなっているのであって、それがなかったらほんとどうしようもない人間と言いますか。あ~、主人の事を悪く言うのは違いますよね。でも、赤ん坊の頃から知っていて自分の子どものように接していたものですから、どうも説教くさくなってしまって。こういうところが坊ちゃんに嫌がられるとこの一つでもあるんですけどね~」


 そう、ここの家の人は主人を含め話始めると止まらないのだ。


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