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善は急げ

「は?」

 チェルシー殿下は少し胡散臭さすら感じる美しい顔からポカンとした気の抜けた顔をする。当たり前だ。ハレアの周りではもう慣れたことでも初めての人からするとこういう反応になるのは仕方がない。

「い、いやいや、魔石は破壊も加工もできないものだよ?採掘された原石のまましか使用することができないから……」

 慌てながら大きく身振り手振りをしながらハレアの方を見る。冗談を一切言っている様子はない。そもそも帝国の皇子相手に冗談を言うはずがない。

「えっ……?マジ?」

 チェルシー殿下の動きは止まり、ハレアの顔をまた見る。

「はい。本当です。この大きさならこの部屋でしても……」

 ハレアがそう言いながら、魔石を両手で包むように持った。

 その時だった――


「お嬢、今何しようとした?」

 ビリビリッという防音魔術を破る音と同時くらいにハレアの両手に手をかけるルードがそこにいた。その速さにハレアは驚く暇すらなかった。ルードがこちらに来る音は一切しなかった。来た後に風だけがふわっとハレアの髪を押し上げた。

「えっ……?」

「やっぱり、君強いね?まさか、俺が彼女に何かしようとして止めるんじゃなくて、ご主人の止めに入るとはね……」

 チェルシー殿下はいつもの笑顔でルードにそう言う。

「奥様と何をお話しされていたかは分かりませんが、彼女が今からしようとしていたことは分かります。申し訳ありませんが、その行為をここで行うことは到底許されるものではありません。奥様にも殿下にも被害が及ぶ可能性があります。了承は致しかねます」

「ふ~ん。君は彼女に魔術をどうしても使ってほしくないみたいだね。でも、君の言い方だとここじゃなければいいんだよね?カイル、そこにいるんでしょ?」

 チェルシー殿下はバルコニーの方を見ながらそう言った。するとバルコニーの死角からしゃがんでいたであろうカイルが立ち上がった。

「どこまで聞こえてた?」

 チェルシー殿下はバルコニーの鍵を開けながらカイルに質問をした。ハレアはカイルの存在に驚いていたが、ルードは特に気にも留めていなかった。外に誰かがいることは気付いていたのだろう。

「チェルシーの防音魔術内の会話は流石に聞こえていない。彼女の使用人がそれを破って以降しか……」

「まあ、そうだよね。ねえ、この辺で巨大な魔術を使っても大丈夫な場所ってある?」

 チェルシー殿下はカイルの肩に腕を置き、馴れ馴れしく言った。

「ああ、一か所だけ」

 カイルは(わずら)わしそうに彼の腕を振り払いながらそう言った。

「じゃあ、善は急げだね。案内してよ」

 カイルは「はぁ……」と小さくため息をして、ついてこいというような目くばせをチェルシー殿下に向け歩き始めた。チェルシー殿下もそれについて行き、部屋を出た。


「善ではねえだろ」

 ルードが小さい声でそう呟くとハレアの左手を強く握り、立ち上がらせた。そのまま、先に行ったチェルシー殿下たちについて行く。右手には魔石を握りしめ、左手はルードにひかれるまま。

「お嬢は嘘とかつけないからさ……。もっとこうなる前に俺がちゃんとしておくべきだったね。これからはもう俺から離れないで」

 そう言って握りしめる手は痛いほどに強くなった。


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