ただの料理人
「ルルドネアはいいねぇ〜。海鮮はうまいし。香辛料は少しクセがあるけど、暑いときには最高だ」
夕食時はチェルシー殿下の独壇場のようになっていた。彼を止められるのは唯一カイルだけだが、面倒なのか慣れてしまっているからなのか一切口出しはしていない。
「本当ですね。きっと市場も活気付いているのでしょうね」
なんとも言えない空気をどうにかしようとハレアが口を開いた。いつもなら真っ先に話しているチルも無言で食べている。その顔から察するにチルもハレア同様、チェルシー殿下のことが苦手なのだろう。
「ハレア嬢は優しいねぇ〜。ゼゼが狙うのも分かるな〜」
ハレアはその言葉になんと返答するべきか分からず「ははは」と乾いた笑いを一つしてその場を収めようとした。
「まあ、他に理由があるんだろうけど」
そう言ってハレアに笑顔を向けるチェルシー殿下だが、目の奥は全く笑っていない。
「食後に一度僕の部屋に来ないかい?二人で話がしたい」
変わらずの美しい笑顔でハレアに言う。
「申し訳ございません、チェルシー皇子殿下。奥様は旦那様の妻ですので、他の男性と二人きりになるのはいささか問題になります」
いつもなら「これのソースは〜」やら「切り込みが美しい」やら、食べながら色々と語っている料理人のルードだが、今日は一言も喋らず黙々と食べていた。だが、やはりハレアを守る立場としてこれは加味できなかったのだろう。普段よりワントーン低い声で言い放った。
「何もしないよ。まあ、君が心配になるのも分かるよ。俺、かっこいいし?なんなら帝国一かっこいいわけだし?」
この一言にカイルは「はぁ……」と呆れたため息を一つした。
「じゃあ、君もおいでよ。ただ、俺とハレア嬢の空間に防音魔術を張るよ。君は外から見ていればいい。俺が彼女に指一本でも触れようものなら俺を吹き飛ばすなりなんなりすればいいさ」
ルードにはすぐに分かった。自分が風魔術を得意とする者だと気付かれていると。やはり隊長になるだけあって勘がいい。
「それならば、大丈夫です」
ルードはそこまで提案されて、自分も中に入れろとはさすがに言えなかった。皇族相手に物申すことは下手したら罪になり得る。
そんな中、一人心ここにあらずな人がいた。リールである。
リールは元々ハレアの隣の部屋だったのだが、チェルシー殿下のせいで部屋を移動させられてしまった。その絶望から立ち直れていなかったのだ。なぜ反対隣のルードではなく自分なのかとグルグルと考えを巡らせていた。
そんな分かりやすく落ち込んでいるリールにルードは見て見ぬ振りをしており、ハレアはいつものように人見知りを発動しているだけだと思っていた。ただ、カミュレスだけはそんなリールを心配していた。ほぼ初対面ながら何かシンパシーを感じているのだろう。
ーーー
移動させられた部屋でカチャカチャと魔具をイジっているリール。
「おい、アンタは行かなくて良かったのかよ、チェルシー殿下の部屋。一応使用人なんだろ?」
リールの部屋の椅子に座りながらカミュレスは問いかけた。
「なんでここにいるんだよ……」
リールは消えそうな小さな声で言った。
「いいだろ、別に」
「それに僕はハレアの使用人じゃないよ……。そういう体で連れてこられたけど……」
「え?使用人じゃないの?じゃあ、なんだよ!?」
「と……、友達……」
リールはそう自分で言って自分で恥ずかしくなった。
「友達ねぇ……」
カミュレスは含みのある言い方をした。
「それに兄さんがいれば大丈夫だよ。あの人、強いから……」
(ただの料理人が!?)
カミュレスはそう思ったが、わざわざキッシュ団長がハレアの護衛につけた人だと考えたら当たり前かぁと妙に納得した。
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