皇族の馬車
ハレアたちが朝食を食べ、談話室に向かおうと歩いていたその時だった。屋敷の中が何やら騒がしく、使用人たちは忙しなく動いていた。そして、「パーンッ」と音を立てて、エントランスの扉が開くと、庭の奥の門先に豪華な馬車が止められていた。赤に金をあしらった旗には火の鳥の紋章が描かれている。皇族の馬車だ。
ハレアたちはエントランスホールに並ぼうと移動している使用人に紛れて、玄関からすぐに見える大階段の裏へと隠れた。
「第三皇子か?やっぱバレたか……」
ルードが階段脇から少し顔を出して、外の様子を伺っていた。
「まあ、普通にバレますよね。でも、別に使用人を連れて友人宅に遊びに来たってのでも通じますよね?俺だって同じ学校だったから友達って枠でいけますし……」
カミュレスもルード同様に外の様子を見ながら小声で言った。ハレアとリールは見えない位置に二人で身を寄せ合うようにしゃがんでいた。
「ハレア、大丈夫?」
リールの小声はいつにも増して薄く消えそうなものだった。
「うん。そもそも私別にフェイリス殿下のこと嫌いなわけじゃないし……。隠れなくても……」
「キルシュさんはどうしても第三皇子に会わせたくないみたいだからね。仕方ないよ……」
「うん……」
「えっ……あれ……」
ルードはそう言うと覗いていた顔をすぐに引っ込めた。そして、カミュレスの体ごと引っ張り、完全に見えないように隠した。ルードのその気迫にハレアたちは何かを察知したのか、口を噤んだ。
「チェルシー、まさか君がここまで来るとは……」
カイルの声だった。驚きと呆れが混ざっているその声は、普段の真面目そうなものとは全く違っていた。仲のいい友人に放つようなそのような声色だ。
カイルのその言葉で、ここにやってきたのが第三皇子であるフェイリス殿下ではなく、第二皇子のチェルシー殿下であることが分かった。そして、同時にルードが身を隠した理由も分かったのだ。ルードはパーティーの際に一度チェルシー殿下とは会っている。そして、同じ風魔術を使うからなのか、リールの透過を見破っているからだ。
「カイル~!勝手に休み取って逃げるなんてひどいじゃないか~!君がいないせいで魔術師団は大混乱だよ!」
チェルシー殿下もパーティーの時とは違い、とてもフランクな話し方をしている。
「い、いや、私のせいでは……」
「い~や、カイルのせいだね。君が逃げ回っているから第五隊は大変なことになっているって聞いてね。そこで、俺が来たってわけ!」
「第二隊は隊長が不在で大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ!俺が躾けてる隊だよ?」
「私は何を言われても変わらないよ」
カイルはため息交じりにそう答えた。
「あ、あの~、お話し中申し訳ないのですが、話の内容が見えなくて……。機密事項であれば、談話室にご案内いたしますので、そちらでよろしければ……」
チルはそう言って二人を談話室へと案内しようとした。
「チルちゃん久しぶり〜!相変わらず美人だね〜!」
手をひらひらとし、皇族とは思えない軽薄そうな挨拶し、こう続けた。
「俺がここに来てもカイルの意志はそう変わんないから無駄足かな~って思ってたんだけど、思わぬ収穫があったからな~」
そう言いながらコツコツと大階段の方へ迫ってくる足音が聞こえた。
「ハレア嬢みーっけ!」
チェルシー殿下が階段裏を覗きながらそう言った。
「ここにいたんだね~。帝都から離れていたのは聞いていたけど。君たちも来なよ、談話室とやらに。俺とカイルの話の内容気になるでしょ?」
そう言いながら手招きをした。
その笑顔は『世紀の美青年』という異名に恥じぬ、美しいものだった。
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