嫉妬の笑顔
「よ、よう!」
だだっ広い応接室のソファに気まずそうに小さく座っている金髪の男が一人。
「カミュ!?」
ハレアはソファへと駆け寄ってカミュレスの隣に座った。ハレアの後ろから応接室に入って来たルードとリールは目を丸くして驚いた。ハレアは自分たちに対してこんなに懐いていないんじゃないかと、一瞬にしてカミュレスに敗北を期した瞬間だった。
「なんでいるの?」
ハレアはカミュレスに顔を近づけ、質問した。カミュレスは顔を後退させながら、これ以上は近づくなと両手でハレアとの間に壁を作った。
「い、いやぁ~。なんか団長さんに呼ばれて……。逆に怖いんだが……」
「もう会えないかと思ってたから嬉し!」
「あなたが街の魔道具店のイケメン店員ですか?」
ルードは満面の笑みでカミュレスに問いかけた。しかし、瞳の奥は笑っていないのを、目線を向けられているカミュレスはそれをひしひしと感じ取った。
「イケメンと自分で言うのはおこがましいですが……、まあそうなります……」
「ほう……」
相変わらず満面の笑みのルードがいつになく冷たい声を出す。
「あっ、Aクラの色男君ついたんだ~」
チルがなんだか騒がしい応接室を覗き込んで言った。
「チル嬢、もう学校は卒業しているのでその言い方はやめていただきたい」
「え~、じゃあ元Aクラの色男君か」
「普通でいいじゃないですか……」
「う~ん、『カミュ』はハレアだけが呼ぶ特別な呼び方でしょ?」
そう言いながらチルは少し意地悪な表情でカミュレスを見た。
「カミュレスって呼べばいいでしょ」
チルに聞こえるか聞こえないかの小さな声でぼそっといじけたような声を出した。
「チルもカミュでいいじゃん!」
ハレアは屈託のない笑顔をチルに向けた。
「ハレアのそういうところだよ」
チルは呆れたようにそう言った。
「ごめんなさい!もう少しだけここでお茶でも飲んでてもらってもいいですか?今アニキが急遽帰ってくるみたいで……」
そう言ってチルは応接室の中には入らずに去って行った。
「それで、どうしてイケメン店員のあなたがこちらに?」
ハレアとカミュレスの向かえのソファに座っているルードが冷たい声で言い放つ。嫌がるであろう『イケメン』という言葉をあえて使っているのがルードのささやかな抵抗である。ルードの隣に座っているリールは普段はハレアの隣は自分の席なのにと、ずっと下を見て落胆している様子だ。リールを取り巻くオーラのようなものがいつにも増して暗いが、それを感じ取っているのはルードとカミュレスだけだ。肝心のハレアはカミュレスへの人見知りで下を向いているだけだと思っているようだ。
「えっと、本当は魔術師団からハレアの護衛を何人かつけたかったみたいなんですけど、それだと職権乱用になるし、色々とバレたくないからと、一応戦力として呼ばれました。これでも、元研究員なので……。クビになりましたけど……」
「キルシュは何を考えてんだよ……」
「逆に自信満々なんじゃない?」
リールはルードにだけ聞こえる小さな声でボソッと呟いた。
「一応、何があったのかはざっくりと手紙で聞いています。もともと帝都中心で暮らしていましたから、ハレアの噂は耳にしていましたし……」
「えっ?あの噂信じてないよね!?」
ハレアはカミュレスの目を見上げた。
「し、信じるわけねぇだろ。お前、学生時代、皇子なんかに興味なさそうだったし……」
「良かった~」
ハレアは安堵したようにソファの背もたれに寄りかかった。
「ず、随分と仲がよろしかったようで!」
ルードの張り付いた笑顔は片目がピクピクと痙攣し、剥がれ欠ける寸前だった。
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