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頼れる場所

「おはようございます、団長」

「ああ、スキード君か……」

「皇帝陛下に呼び出されたと聞きましたけど、あの……噂のことでしょうか?」

 リンリーは誰もいない団長室だが、何に気を遣っているのか小声で話している。

「ん?噂とは?」

「えっ、団長はまだ知らないんですか?第三皇子殿下との……」

「ラストダンスの件か?その場にいたが」

「いや、それもそうなんですけど……。街では団長の奥様と第三皇子殿下が学生時代に恋人関係だったとか、団長はそれを引き裂いた人だとか――」

「は!?」

「い、いや、僕はもちろん信じていませんよ?ただ街では引き裂かれた身分違いの恋愛として第三皇子殿下と団長の奥様を応援する声もあるんだとか……。昨日、違法魔具の引き取りに街に行った時に色々と聞かされまして……」

「はぁ……。次から次へと……」

 キルシュは目に見えるように落胆した様子だ。

「実はそれで……」


「はぁ!?僕だけならまだしも、ハレアにまで批判があるとなれば……」

 リンリーは一部の人がハレアも批判の対象になっているということを伝えるとキルシュは頭を抱えた。

「奥様のご実家って帝都内ですか?」

「そうだな。南の外れの方だが、帝都の中ではある」

「そうなんですねぇ……。一度帝都を離れるのも手かと思ったんですけど……」

「帝都を離れる……」

 キルシュの難しい顔が一瞬パッと明るくなった。


―――


「お、お世話になります」

 ハレア、ルード、リールの三人は長旅の末に、真っ白で、所々黄金にをあしらった神殿のような屋敷の入口の前にいた。エントランスの部分だけでインハート家の屋敷がすっぽり埋まってしまうのではないかというほどの広さだ。出迎えの使用人だけで二十人ほどはいる。

「私としてもハレアと一緒にいられるなんて嬉しいわ!」

 チルはハレアに抱き着いた。

「ごめんね、急に……」

 チルの強い抱擁に少し息苦しさを感じながら絞り出すように声を出した。

「いいのよ~。よくは分からないけど、あのラストダンスが原因なんでしょ?」

「そうみたい……」

「まあ、私を頼ってくれるのは親友としてすごく嬉しいから大丈夫よ!いつでもウェルカムよ!」

 チルはそう言ってハレアにウインクをした。


「お荷物お持ちいたします」

 ハレアたちの大量のトランクケースは多くの使用人によって運ばれていった。

「こ、これは自分で……」

 リールは白い布に覆われた長細いものを大事そうに抱えていた。


―――


「奥様のお部屋がこちらになります」

 ハレアが案内された部屋は、インハート家の自室と夫婦の寝室を足したほどの広さだった。部屋の中にはすでにハレアの衣装などが入った荷物が運び込まれていた。

「こんなに広いの、持て余しちゃう……。モーネもいないし……」

 ハレアの侍女であるモーネもついて行きたいと駄々をこねていたが、学校があるからと両親であるヨーレンとカカリに止められて来ることは叶わなかった。モーネが休むとフェイリス殿下が怪しむのではないかというのもあったようだ。そのため、ルルドネア領土に来るのはルードとリールを合わせた三人という最少人数にとどまった。

 ハレアはトランクケースの中からウサギの置物を取り出し、ベッドのナイトテーブルの上に置いた。カミュレスからもらったものである。家でも自分のベッドサイドに常に置いていたものだ。中に埋め込まれている小さな魔石に光が当たるとキラキラと棚の上に反射して、ハレアはそれが気に入っていた。夜寝る前にそれを見るのが彼女の日課になっていた。

「あっ、マグカップ忘れちゃった……。でも、壊したら嫌だし、持ってこなくて正解か……」


 コンコンッ――

「失礼いたします。インハート夫人の侍女が不在とのことで、こちらから専属の侍女をお付けいたしましょうか?」

 メイド長だろうか?キリッとした面持ちの中年の侍女がハレアの部屋を訪れた。ハレアは少しカカリが恋しくなった。

「いえ、ある程度のことは自分でできますわ。何か困った時にお呼びするのでもよろしいかしら?」

「ええ、構いませんよ。何かあればお呼びください。あと、お連れ様がもう一人すでに到着されています」

「えっ?もう一人?」


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