夫婦だから
フェイリス殿下が帰った後、キルシュは時計塔には戻らずに屋敷にとどまった。少し機嫌が悪そうに夕食を取っているキルシュに、使用人含めハレアでさえも触れていない。
「ハレア、葉っぱ食べて……」
「また~?野菜食べないと、倒れるよ?」
「葉っぱ食べるくらいなら倒れた方がマシ……」
「もう!何でそんなに大きくなったのよ。学校の時は私と身長変わらなかったのに」
「お嬢、そんなにサラダばっか食べてたらメイン食べられなくなるんじゃないか?俺に半分分けていいよ」
「わあ!ありがとうございます!」
「リール!お野菜も食べなさい!奥様のこと困らせないの!」
「ママ、リール兄が一緒にご飯食べてくれるようになったって最近甘かったのに言うようになったね~」
「もうママは心配よ、リールはもとよりルードまで恋人一人連れてこないなんて……」
「うわっ!俺に飛び火してんじゃん!」
「ママがルードの年にはもう――」
「ママ~、その話長くなる~?」
「モーネもよ!今年で学校卒業なんだから!」
「え~、私にまで?」
「焦って結婚するより、色々とお互いを知ってからの方がいいと思うのでゆっくりでいいんじゃないですか?」
「お嬢、それ経験者は語るってやつ?」
「い、いえ、そういうことでは……」
ハレアはバツが悪そうに目の前の席に座っているキルシュを見た。相変わらずの不機嫌そうな様子で黙って料理をむさぼっている。
―――
コンコンッ――
この夜も夫婦の寝室のドアがノックされた。先日と同じように一緒に寝ようということなのだろう。ただ、ハレアは少しだけ憂鬱だった。フェイリス殿下の件以降、少し機嫌が悪そうだからだ。
ハレアは目を細め、面倒くさそうに扉を開けた。
「第三皇子殿下との話の内容を教えてほしい」
(まあ、そうですよね……)
ハレアは諦めたように夫婦の寝室へと入っていった。
この間と同じようにベッドの上で向かい合って座った。
ハレアは、殿下の生い立ち、自分の魔力量が多いことが知られていること、ただ魔石に魔力注入をして魔力を発散していると勘違いをしていること、皇太子殿下の子どもが魔力を持っていなかったこと、皇帝が戦争を起こすと言っていたこと、そして皇帝の狙いが自分たち夫婦の子どもなのではないかということ。
「確かに言い分は分かる。そこで協力関係というのは一緒に皇帝の戦争を止めようということか?」
「最後までは聞けませんでしたが、そういうことだと思います。私が大量の魔石を持っていると勘違いをしているので、それを横流ししてほしいということかもしれません」
「理には適っているが、どうも信じられない。あの皇帝が戦争を企てているとは考えられない……」
「フェイリス殿下が嘘をついていると?」
「手放しに彼を信じられないということだ。そもそも戦争を止めるためとはいえ、既婚の夫人を狙う腹黒さがある人だぞ」
「私は彼が嘘をつくような人だとは思いませんでした!」
「そうやってすぐ他人に絆されるのはハレアの悪いところだぞ」
キルシュは眉間にしわを寄せながら言い放つ。
「ウェルは直接殿下のお話を聞いていないからです!」
ハレア自身、殿下に共感できる部分が多かった。出来のいい兄と落ちこぼれの自分、両親はそれで差をつけて接するような人ではなかったが、周りはそうでもなかった。「あの人の妹なのに……」いつかどこかから聞こえてきた、その心無い一言はハレアの胸に深く刻まれていた。
「そうだったとしてもだ。僕は彼を信じられない!今後、第三皇子殿下と会うことは一切禁じる!」
「は?なんでそうなるんです!私はまだ殿下から全てを聞いていません!」
「聞く必要はない!これからはハレアの変わりに僕が全てやり取りをする!」
「絶対嫌です!」
「これは決定事項だ!」
「もういい!今日は自分の部屋で寝ます!」
ハレアはベッドから降りようとしたその時、左手を掴まれた。
「それはダメだ……。一緒に寝る。夫婦だろ……」
先程までとは違い、ひどく弱々しい声だった。
ベッド脇にある小さな明かりの光だけでも分かった。キルシュは昼間の時のように赤面していることを。
ハレアは何も言わずにベッドに戻り、キルシュに背中を向けて布団を入った。
―――
「ほら、すぐに絆される」
キルシュは静かな寝息をたてながら、横になっているハレアを見ながらそう呟いた。彼女の髪の毛を一束掬い取ったがするりと滑り落ちていった。
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