皇族内の事情
「う~ん、まず何から話した方がいいのか……」
フェイリス殿下は口元で手を隠すように考えていた。
ハレアは、この先のことを聞いてしまったら後戻りができないんじゃないかと怯えていた。止めるべき、聞かないでおくべきなのは分かっているのに、それをするのすら憚られる。相手は帝国の皇子だ。
「噂だと、皇太子であるライル兄さんを殺すか何かして私が皇太子になるとかなんとか……。正直、皇太子の座も皇帝の座もどっちもいらないんですよね」
「へ?」
ハレアの思っていた回答とは違い、思わず腑抜けた声が出てしまった。
「だって、皇帝なんて面倒じゃないですか?そんな大それたことやる器じゃないです。でも、ライル兄さんは優しすぎる。父に言われるがままに魔術師家系のホーネスト侯爵のご令嬢と結婚させられた。別にライル兄さん自身それに納得しているし、夫婦も仲良さそうだからいいんです。でも、事態が急変したのはライル兄さんの子どもが生まれてからだ。世間には出ていないが、生まれた子は全く魔力を有していなかったんです。ライル兄さん夫婦は特にそのことは気にせず大切に育てているからいいんですが……。問題は父にあって……」
これは外に出してはいけない機密事項だ。ただの伯爵夫人であるハレアが聞いていいものではない。
「父は今後戦争を起こす可能性があります。それは領土の拡大か、自らの力の誇示かは分かりませんが……」
「えっ、でも先の戦争を終わらせたのは皇帝ご自身ですよね?」
ハレアは驚きで両手で口元を隠した。
「あれは父が若すぎた故にそうするしかなかったのです。当時の魔術師団や魔術騎士団はすでに疲弊していて、若い皇帝の指図は受けないといった様子だったそうなんです。下手に戦争を続ければそれこそ国家転覆をされかねない。あそこでやめるしかなかっただけです。父は戦争をする機会を今か今かと準備を整えていただけに過ぎない。本当は自分の子を最強の魔術師にしたかった。ライル兄さんにそれは叶わなかったが、ローゼル兄さんでそれは叶いそうだった。でも、ローゼル兄さんは父の指示には一切従わなかった。もともと側妃の子として城内でも疎まれていたからなんでしょうね。帝都の魔術学校には通わず、南方の魔術学校に逃げるように入学を決めてしまった。そうなると、次は私への期待が高まる。私はその期待に応えようとしてたんです。帝都の魔術学校に通ったし、成績も上位を保って、言われるがままに魔術の才のある令嬢を学内で探していた」
フェイリス殿下は少し寂しそうな表情を浮かべた。
「その時はまだ自分が戦争の道具にされそうなことには気付いていなかったんです。ただ純粋に父に求められるのが嬉しかった。ライル兄さんのように優しく勉学に秀でているわけでもない、ローゼル兄さんのように身体能力にも魔術にも秀でているわけでもない私でも、父の言う通りにしていればきっと認められる、愛してくれるって……。でも、違った。ローゼル兄さんが魔術師団に入団したんだ。それ自体は凄いことだし、尊敬もする。すると、父は私には一切興味などなくなって、ローゼル兄さんを使ってどうにか魔術師団を乗っ取ろうと企てたんです。でも、ローゼル兄さんは父に従順な人じゃないから、そんなのうまくいくはずもなく……」
彼は「ふぅ……」とため息交じりを息を一つ吐いた。
「そこで目を付けたのがインハート男爵家の嫡男である、キルシュさんだったんです」
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