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一晩中

 パーティーから帰宅後、ハレアが風呂や身支度を整え、さあ寝るぞという時だった。いつもは全く音がしない、夫婦の寝室のドアが「コンコンッ――」と鳴った。

 ハレアが恐る恐るドアを開けると、そこには髪を下ろしチェック柄のパジャマを着たキルシュが立っていた。その不似合いな恰好に少し笑ってしまいそうになるのを我慢したほどだ。

「どっ、どうかされましたか?」

 ハレアは笑いたい気持ちを押し殺すようにキルシュに質問をした。


「今日は一緒に寝るぞ」


「へ?」

 さっきまでの心の中の爆笑が一気に吹き飛んだ。


 大人四人は寝ころべそうなほどの大きなベッドに向き合い、正座をするハレアとキルシュ。

「あっ、あの~」

 月明かりもほとんど入ってこない暗い部屋で、ハレアのその声が異常に響いた。

「僕たちはお互いのことを知らなすぎる」

(いや、まあ結婚したわけだし、お互い大人なわけだから、いつかはこういうことになるのは分かっていたけど、今日?パーティー終わりで色々と疲れている今日!?)

 ハレアの頭の中はフル回転している。

「今夜はお互いのことを話し合おうと思う」

「はなし?あう?」

 ハレアは思ってもいない返答にポカーンとした。

「ああ、今日君の友人と会ったが全く知らなかった。そして君自身も僕に付き合わされて色々な人に挨拶をしてくれたが、彼らと僕が仕事上でどんなことをしているのかを知らないだろう。君はフェイリス殿下だけではなく何故かチェルシー殿下にまで目をつけられてしまった今、夫婦仲が良好であることを多方面にアピールしていかなければいけない。そのために僕は君のことを知らなければならない」

 ハレアは少し安堵した。

「じゃあ、まずは呼び方から変えませんか?旦那様は私のことを一度も名前で呼んでくれたことがありませんよね?」

「では、ハレアと……」

 そう言った瞬間、キルシュはハレアから目線を外した。

「ちょっと~!旦那様〜!照れてるんじゃないですか~!」

 名前を呼ばれた照れ隠しもあり、キルシュにそれを押し付けるようにハレアはからかった。

「旦那様じゃない。ウェルだ……」

 ハレアと目線が合わないまま、いつものハキハキとした話し方とは対照的な小声でそう呟いた。『ウェル』、キッシュのミドルネームだ。家族や恋人などの特別な人だけが呼ぶことが許されるものだ。

 ハレアも一気に恥ずかしくなり、顔を赤らめた。しかし、明かりのないベッドルームでは彼女の顔の色さえ分からないほどでそれが救いだった。


 それから二人でお互いのことを話し合った。ハレアは家族のこと、親友のチルのこと、リールとは実は同じ学校で会っていたこと、夜に魔石破壊をしていた時にカミュレスに会ったこと、ルードの作る料理で一番卵料理が好きなこと、大好きな小説のこと、逆に魔術の本は眠くなってしまって苦手なこと。キルシュはちょこちょこ自分の意見を言いながらも最後まで聞いてくれた。

 キルシュはというと、家族に甘やかされて育てられたこと、兄弟がいないからルードたちを本当の兄弟のように思っていること、魔術や魔具を使うことは好きだが魔具の修理は細かくて嫌いなこと、学生時代ロンに身体強化魔術をかけられた後に炎魔術を使ったら旧校舎を燃やしかけたこと、魔力量は標準だからハレアの魔力量が羨ましく思っていること。魔術や魔具の話になるといつものように止まらなくなるのをハレアが「何言ってるか分かんない」と言い返せるほどには一晩で仲が深まった。


―――


「おはようございます、奥様……っていない!?」

 朝、モーネがハレアの部屋に入るとベッドは使われた形跡がなく、綺麗な状態だった。もしやと思い、夫婦の寝室のドアをゆっくりと開けると、そこにはベッドの上で真横に寝るキルシュ、彼の腹に頭を乗せ、枕に足を上げて寝ているハレア。ハレアの腹の上にはキルシュの腕が乗っている。


「何これ?どういう状態?」

 二人の悪すぎる寝相を見てモーネが呟いた。色気の欠片もない二人を見て、昨晩、何もなかったことを彼女は確信した。


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