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インハート伯爵家①

「おはようございます、奥様」


 目を覚ますと、使用人服を着た年齢が同じくらいの栗色の髪色の女性がハレアの自室でお茶の準備をしている。

「今日から奥様の専属の侍女になります、モーネです」

「あっ、よろしくお願いいたします」

 まだ完全には目が開き切っていない状態で挨拶をする。

 そこでハレアは昨夜、夫であるキルシュとの会話を思い出す。

(昨日って一応初夜だったんだよね?でも、愛することはないって言って自室にこもってたし、何より凄まじくクセの強い旦那様だったな。『炎の冷徹魔術師』なんて呼ばれているくらいだから、寡黙な人を想像してたんだけど。でも、『愛することはない』っていうのは物語のプロローグとしては完璧な導入部分だったな。性格に難があるだけで顔は美男子だ……ったと思う……。ちょっと会話が強烈すぎて顔あんまり覚えてないかも。まあ、大丈夫。私の読みが正しければ、結局旦那様も私のことを溺愛する羽目になる……)

「クックックッ……」

「奥様、どうされました?」

 心配そうな表情でモーネはハレアの顔を覗きながら、紅茶を注ぎ入れたティーカップを渡す。

(あっ、笑いが漏れてしまっていた)

 ハレアは恥ずかしそうに紅茶に口をつけた。


「モーネさん、一つお聞きしたいことが……」

「モーネでよろしいですよ。なんでしょうか、奥様」

 穏やかで優しいモーネの口調と紅茶の香りで昨日の結婚式からしていた緊張がほぐれていくのが分かった。

「旦那様のことなんですが……、いつもあんな感じなのでしょうか……」

「あんな感じとは?」

「えっ、その凄く……」

「凄く?」

モーネの瞳がキラキラと輝くのが分かった。

「ずっと……」

「ずっと?」

 目の輝きが増していく。

「お喋りな……」

「そっちか~!!!!!」

 モーネは頭を抱え、床に崩れ落ちた。

 先ほどまでの優しい口調とは打って変わった声色にハレアは少し驚いた。

「旦那様、もしかしてずっと喋ってました?」

「ええ、とても」

「はぁぁぁああああ」

 途端、モーネは顔がシワシワとなり、とてつもないため息をした。

「奥様、少々お待ちください」

 そう言って、ハレアの自室から早歩きで出て行った。

 何かまずいことを言ってしまったのかと思い、少し怯えるハレア。

 モーネは部屋を出ると大声で

「パパーーーーーー!!!旦那様、めっちゃ喋ったんだってーーーーー!!!!!」

 と叫んだ。その瞬間、どこからかドタドタと走る音がした。


バタッ――

 勢いよく扉が開くと、そこには結婚式の終わりに少しだけ紹介された執事のヨーレンが入ってきた。

(あっ、めちゃくちゃ強い執事さん)

「奥様、寝起きのところ失礼いたします」

 急いだ様子でハレアの方に向かってくる。


「もぉぉおうし訳ございません!!!!!」


 これまた凄い勢いで頭を下げるヨーレンにハレアは若干引いた。

「あんなに言ったのに!坊ちゃんったら!ビックリされましたよね?外では必要最低限のこと以外話さないように言っていたのに、屋敷の中だとどうしても気が緩んでしまうようで。驚かれましたよね?そうでしょう。まさか『炎の冷徹魔術師』なんてたいそうな二つ名があるお方があんなにお話しになるとは誰も思いませんもの。大丈夫でしたか?ちなみに何をお話しになったのですか?朝まで続いた……というわけではないですかね。本当に、一度話始めると止まらないもので」

 ハレアは『ん?』と思った。

(もしかしてこの人に影響されたんじゃない?)

 彼の勢いに圧倒されていると

「パパ、奥様が困ってるよ。ほんと、パパも旦那様も一回話すと止まんないんだから。毎回止める私とママの気持ちも考えてほしいわ。せっかくあんな旦那様のところに嫁いできてくれる方がいらっしゃったというのに、これでは早々に逃げられてしまうわ。奥様がここに来る前に家族のみんなで逃げられないように最高のおもてなしをして囲い込もうって約束したじゃない!こんなんじゃ、台無しよ!」


(血筋だな~)


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