第一隊長
魔術師団第一隊所属リンリー・スキードは困惑している。
長らく、魔術師団長と第一隊長を兼任していたキルシュが第一隊長を降り、リンリーに隊長を任せたいと打診してきたからだ。
魔術師団第一隊は主に魔具の管理や登録、技術の保全に努めている隊だ。キルシュは魔具を作ることはあまりしないが、使用することに長け、なおかつカリスマ性があり統率力が抜群だ。
それと比べ、リンリーは魔具の制作、修理、事務作業を得意とし、扱うのは苦手である。魔具制作は魔術研究員の仕事でもあるため、魔術師団の主な仕事はそれを使いこなすことにある。しかし、それを苦手とするリンリーが隊長に選ばれるのは他の隊員からも反感を買うのではないかと、リンリー自身が恐れているのだ。
リンリーは田舎の小さな魔術学校の出身で、その学校から初の帝都所属魔術師団の試験に合格したため、その地では天才だともてはやされた。しかし、いざ配属になると自分と同じ年のキルシュはすでに第一隊長であり、直属の上司となり、自分の実力の差をまざまざと知らされる結果となった。帝都には自分なんかより凄い人なんてごまんといると思い知ったのだ。
「凄くありがたいお話だとは思うのですが、僕には荷が重いといいますか……」
「そんなことはないだろう。君ほど丁寧な仕事をする人は他にいない」
「ですが……。僕は魔具の修理は得意ですが、実践となると……」
「いや、君は実践でも一定以上の成果を出していることは分かっている。何より、魔具の知識は僕以上であるし、使用方法や注意点も全て熟知している。君以上に優秀な人は第一隊にはいないのだが……」
「それに統率力といいますか……、皆さんを引っ張っていける自信がなくてですね……」
「第一隊の人も君への信頼は絶大だ。何より、魔具のイレギュラーが発生した時は僕以上に君にすぐさま連絡を行くことが多いだろう」
「それはキルシュ団長は崇高な方で、僕の方が話しかけやすいからで……」
「親しみやすい隊長っていうのはいいことではないか?」
リンリーが遠回しに断ろうとするもキルシュは眉一つ動かさずに全て論破されてしまう。
「君が隊長になって反抗する人がいたら僕が潰そう」
「それ、洒落にならないですよ……」
リンリーは「ふぅ……」と一息吐き、覚悟を決めた目をした。そして、立ち上がり、キルシュに向かって敬礼をする。
「リンリー・スキード、魔術師団第一隊長の命、しかとお受けいたします!」
キルシュは少しほっとしたように眉尻が下がった。
「君になら安心して任せられるよ」
「はい!頑張ります!」
「ところで、隊長として……というか僕個人からの依頼なのだが、ある魔具の使用記録を見せていただきたい」
「どの魔具でしょうか?」
「番号52478の登録のものだ」
「となると、まだ名前がついていない……、あ~、あの体を透過させる魔具ですか?首輪みたいな!」
「ああ」
「あれなら、使用履歴はありませんよ。基本的にスパイ業務にしか用いられませんし、このところ帝国は平和そのものですしね」
「使用履歴を覚えているのか?」
「管理と登録の承認は一度僕のところに来ますからね。自然と頭に入ってます」
「一応、僕も最終承認者だったが、全ては覚えていないぞ……」
「いやぁ~、キルシュ団長と違って僕にはこれくらいしか特技がないもので……」
(僕の見立ては間違っていなかったな……)
キルシュは「ふっ」とリンリーに分からない程度に笑った。
「一応、使用履歴は見てみますね。見逃している可能性もあるので」
「ああ、よろしく頼む」
(まあ、彼を信用すると、例の魔具を第一隊での使用履歴はなし。そうなると、使える人は一人しかいない。それを作った人物……)
―――
コンコンッ――
インハート家の屋敷の人が寝静まった深夜、三階の奥の部屋のドアをノックする音が廊下に響く。
静かに扉が開くと目の下に深いクマができているリールが顔を覗かせた。
「やっぱり……。この時間に来るのキルシュさんだけだから……」
「まだ起きてたのか……」
「起きてるって分かってたから来たんでしょ。キルシュさんこそ、いつ寝てるんですか……」
「まあ、僕は仕事の合間にちょこちょこと睡眠をとっているからな。一回の睡眠は短くても全て合わせると一日七時間程度は寝ていると思うぞ。確かに、ここに戻って寝ることはほとんどないから不思議がっても仕方ないが。睡眠の質についてはちゃんとこだわっているから安心してほしい。最近時計塔の宿舎で寝る時はアロマを焚いて寝ているから。もし良かったら、リールにもそのアロマを分けてあげようか?」
「いや、いらないです」
「そうだな。リールは本気を出せば強制的に眠らせる魔具を作れそうだからな」
「そういうことじゃなくて……」
(相変わらずずっと喋ってる……)
リールは屋敷で見るキルシュしか知らないため、外で『炎の冷徹魔術師』と言われていることに疑問を感じている。
「で、また何か依頼ですか?」
「いや、今日は違う……」
キルシュは「ごくんっ」と唾を呑み込み、静かに息を吸う。そして、リールの前髪の隙間から辛うじて見える、深く黒い瞳を見つめた。
「リール、透過装置を使って彼女のことを付け回してるだろ」




