帝都の外にて
「ねえ~、キルシュく~ん。なんかどんどん帝都から離れて行ってな~い?僕このままキルシュ君にこのクソデカ魔石を使ってぶっ殺されちゃったりしな~い?」
ガタガタと揺れる馬車の中でハンドボールほどの大きな黒い魔石を抱え、ロンはしおらしくキルシュを見る。
「それを決めるのは僕じゃないです」
キルシュはそっけなく返す。
「それってどういうこと?嫁ちゃんに会わせてくれるんだよね?嫁ちゃんって帝都のインハート男爵家の別邸に住んでるんだよね?反対方向だよね~?」
「うるさいですね。大丈夫ですよ。その魔石は使いますけど」
「いやいや、いくら第四隊とはいえ、こんな魔石手に入れるの大変だったんだぞ?そんでもって普通に俺の給料から出したし!このでけーのだけで給料2か月分はなくなったわ!」
「いいじゃないですか。結婚祝いってことで」
「まぁ!なんて図々しい子!そんな子に育てた覚えはありませんよ!」
「先輩に育ててもらった覚えはないんですが……」
ロンはその気さくさから、キルシュとは違い団員たちに慕われている。強くて気のいいお兄さんのような存在だ。年はキルシュの1個上で同じSクラスとしてそれなりに交流があった。魔力量が多く、身体強化の魔術を得意とし、魔術を使った肉弾戦ではキルシュでも負けてしまうほどの実力だ。
「てかよー、こんなでっかい魔石なんて何に使うの?これだけで帝都の生活数日は賄えるんじゃね?あっ!もしかして兵器!?えっ!戦争始まるとか?えっ!?えっ!?」
「ちょっと落ち着いてください。まあ、ある意味兵器みたいなもんですけど」
「さっきから話の糸口がつかめないんだけど……」
「これから見たこと、聞いたこと、一切口外しないでください。もちろん、皇帝にもです」
「えっ!何それ!こわっ!」
―――
「着きましたよ」
キルシュがそう言って見せてくれた場所はただの原っぱで周りに木々が生い茂っている場所だった。馬車から降ろされ、途中から歩かされて着いた場所がこんな殺風景な場所だったため、ロンはいよいよキルシュに殺されるんだと少し覚悟を決めた。
「あっ!着きましたか!お疲れでしょう?サンドウィッチ作ってきましたよ!」
遠くでキルシュとロンに向かってルードが手を振っている。
「あっ!ルード!久しぶりだな!俺が卒業して以来だから~、もう6年くらい?うっわ!懐かし~!お前も魔術師団か研究所に入ると思ってたのに、まさかのインハート家の料理人になるとはな~!」
ロンはルードに駆け寄った。
「ルードさんもお知り合いなんですか?」
ルードの後ろからひょこっと小柄な女性が顔を出す。
「も、もしかして嫁ちゃん!?えっ!可愛い!可愛い系じゃん!え~!キルシュいいな~!」
ロンはハレアを見て一人で盛り上がってる。
「ロン先輩は魔術学校で同じクラスだったんだよ」
「えっ?先輩で同じクラスって……」
「ルードも先輩もSクラスだったんだよ」
ロンとは違いゆっくりとハレア達のもとに歩いてきたキルシュが説明する。
「えっ!そうだったんですね!すごい!」
ハレアは目を丸くして口元を手で隠し、驚いた。
「えっ!嫁ちゃん可愛いね!俺のタイプ!青の湖色に髪の毛なんかとても神秘的!」
「ロン先輩!一応、お嬢はキルシュの奥様なので口説くのやめてもらっていいですか~?」
ハレアを自分の背中に隠すようにルードはロンの防波堤になった。
「あっ、挨拶が遅れてすみません。私はハレア・インハートです。もともとはロンダム家の出身です」
ハレアはスカートを両手でつかみ、少し上げロンに挨拶をする。山奥に行くということもあり、ドレスは着用していない。魔術学校の制服に慣れてしまったせいか、貴族社会のドレスが重くコルセットで体も苦しいため、結婚式以降着てはいない。
「ロンダム伯爵家のお嬢様か!」
ロンは目を丸くして驚いた。
「ご存じですか?」
「そりゃあ、もう。魔石を毎月大量発注してくれる伯爵家でしょ?第四隊で知らない人はいないよ。あっ、そういや先月から発注されてないって騒いでたなぁ~」
「あはははは……」
ハレアは苦笑いをした。




