信用できる人?
「お前の旦那には1ミリも興味ねーけど、俺より顔がいいって言われんのはなんか癪だわ」
もはやコレットの前でも素の自分を隠そうとしない。
「まあ、かっこよかった気がするけど、もうあんまり覚えてない……」
ハレアは「う~ん」と難しい顔をした。
「えっ?何?お前旦那にほっとかれてんの?」
カミュレスはニヤニヤと面白さを隠しきれない様子だ。
「うん。まあ、でもこれからだし……」
ハレアはむくれ、カミュレスの目を見ないようにしている。
こんなことは去年もあった。ハレアが文官の試験に落ちた時だ。その頃にはカミュレスは研究機関への就職が決まっていた。試験に落ちた彼女にニヤニヤと馬鹿にしてきたのだ。ハレアは正直に腹が立ったが、クラスでの腫物を扱うような態度よりはマシだった。「ドンマイ」と笑い飛ばしたチルとカミュレスだけがいつもと変わらなかった。
「まあ、2年は家でニートしてたら?2年したら帝都配属になる予定だから」
あの時カミュレスは散々馬鹿にした後、そう小さくつぶやいた。
―――
「で、お前、まだあれやってんのかよ」
魔道具店の店員のカミュレスがハレアに問いかけた。
「えっ?何?」
きょとんとした顔のハレア。
「だ~か~ら~」
イライラした様子でハレアの元へと向かった。ハレアがこの魔道具店に訪れてから彼はずっとイライラしている。
「魔石まだぶっ壊してんのかって聞いてんの」
ハレアの耳に小声で呟く。
「ああ!やってないよ!だから今ちょっと困ってて……」
「うちは庶民向けの店だからあんなでけーの取り扱ってねーからな」
カミュレスは眉間にしわを寄せながら言う。
「いや、それは別に……」
「あと、そのこと誰にも言ってねーよな?マジで危ねーから言うなよ」
粗暴な声で言い放つ。
「あっ!言っちゃった!」
カチカチと動く金色の時計の魔道具に見とれていたコレットもビクッと二人の方を思わず見てしまうほどの大声だった。
「ちょっ!おまっ!誰に!?旦那か!?」
ハレアに負けないほどカミュレスも大声を出した。
「屋敷の使用人家族に言っちゃいました!でも、いい人だし、バレても良くない?」
ハレアはこそっとカミュレスに言う。
「いいわけねーだろ。国家を揺るがすもんだぞ!」
「ははは、大げさな!」
ハレアは気にしない様子で声を出して笑うが、カミュレスの顔は全く笑っていない。
「……えっ、結構ヤバい?」
カミュレスの顔を覗き込むハレア。
「ヤバいも何も……。あんな魔力量のやついねーよ」
「Sクラスレベルの人はみんなこれくらいなんじゃ……」
「んなわけねーだろ!規格外だよ!」
ハレアは顔が青くなった。
「まっ、まあ、大丈夫です……。皆さん、いい…人なの……で……」
絞り出すように出した声は動揺を隠せていない。
「結婚してどんぐらい?」
「2週間くらいです……」
「本当に2週間ごときでそいつらがいい奴かなんて分かんねーだろ」
カミュレスは「はぁ……」とため息をつく。
「もしなんかあったらすぐ実家に帰れよ。……ここでも良かったけど、もう無理だな」
カミュレスは耳元でこそっと言った。
「はい……」
「これ気になります?お嬢様」
カミュレスはさっきまでのイライラした顔とは一転、時計仕掛けの魔道具を見ているコレットに話しかけている。
「はい!とても綺麗ですね!」
「じゃあ、あげる。今日来てくれたお礼」
コレットの穏やかな顔が一瞬にして真顔になる。
「口止め料ですか?」
今までの柔らかな声とは違い、冷たい声を出す。
「なんのことかな?お嬢様」
「その胡散臭い話し方も張り付いた笑顔よりも本性のが幾分マシですよ。ただ、ハレアさんはもう結婚してますからね」
「俺は平民だし、研究員でもない今となってはどう足掻いたって無理な話だから関係ないよ」
「分かればいいです。今日ここに来たのが間違いでした」
「君も俺の美貌が気になって来たんでしょ?」
カミュレスは鼻で「ふっ」と笑う。
「ね?お嬢様」
コレットの顔を覗き込む。
「これはもらっておきます!じゃあ、ハレアさん行きましょう!」
コレットは時計の魔具を胸に抱え、ハレアの手を引いて店を出た。
―――
「お前、帝国の人間か?」
ハレアとコレットが足早に出て行き、店のドアが開きっぱなしになった出入口に向かってカミュレスは言う。
返事は返ってこず、ドアが閉まった。