街へ③
「キャー!じゃあ、本当に急に結婚が決まったんですね!運命ですね!素敵~!どうです?甘々な結婚生活は?冷徹魔術師なんて言われてますけど、奥様には溺愛してるっていうテンプレ展開ですよね~!キャー!」
「ちょっ!ちょっと待ってください!コレットさん?」
カフェのガーデンスペースでハレアとコレットは頼んだ冷たい紅茶の氷が溶けて、グラスに水と紅茶の層ができるほどに話が盛り上がっている。ハレアの周りには自然とお喋り好きな人たちが集まる様だ。
「照れてるんですよね!大丈夫ですよ!夜のことなんて、そんな野暮なことは聞きませんから!」
フンッ!と誇らしげな顔をするコレットだが、そうではない。
ハレアはこそこそと結婚後のことを語る。「愛することはない」と言われたこと。それから約二週間ほど会っていないこと。半年帰ってこないこともあるということ。自分も物語のような恋愛ができると思っていたが、会わないことにはどうしようもないこと。なんならもう、キルシュの顔をあんまり覚えていないこと。
「そうなんですね~。時計塔に行くのも止められていると……。う~ん……」
コレットは眉間にしわを寄せて考えている。
「うん!詰んだ!」
パァっと顔を明るくして『パンッ!』と手を叩く。
「えっ?」
ハレアは困惑して口が半開きになる。
「もう、次の恋愛に行きましょう!既婚だからなんですか!」
「でも、浮気はちょっと……。世間体的にも……」
「行動に移さなければいいんです!精神的恋愛しちゃいましょ!」
「えっ!?」
「精神的恋愛です!学生時代いませんでしたか?影で見てるだけでドキドキしちゃうような!その人が何か食べてるだけで心が満たされるような!言葉を発するだけで耳が赤くなってしまうような!ふとした笑顔にみぞおちあたりがキュンっとなっちゃうような!動いているだけで世界に感謝する存在の人が!」
コレットは指を祈るように絡ませ、空を見上げてキラキラとした目で語る。
「私、落ちこぼれで卒業もギリギリだったから、そんな余裕なかったです……」
「あら!そうなんですね!……まあ、私も女学校出身なのでそんな恋愛したことないです……。全部物語の受け売りです……。全然参考にならなくてすみません……」
さっきまでの勢いはどこへやら。コレットは言葉を発するたびにしゅんっとしぼんでいくようだった。
「いえ、屋敷以外の方とお話したのが久しぶりだったので、すごく気晴らしになりました!またこうやってお茶をしていただけますか?」
「はい!もちろん!いつでも!」
コレットはまたいつものような屈託のない笑顔をハレアに向けた。
「あっ!そうだ!魔道具店行きませんか?」
コレットは思い出したように言った。
「魔道具?いいですけど、コレットさんって魔具に興味ありましたっけ?」
ハレアは首をかしげる。
「いえ、全く興味がありません!でも、そこで働いている人に興味があります!実は、巷で有名なんですよ!」
コレットは耳打ちをするように手を添えて言っているが、声量をあまり抑えてないから意味がない。ガーデンスペースで周りとの距離も離れているから聞こえている様子はないが。
「最近、店番の人が変わったそうで。その人がすっごいイケメンなんですって!でも、私は魔術が使えるわけでもないですし、そこのお店に行く用事がないのでハレアさんと是非一緒にと思いまして!」
ハレアは自然と笑みがこぼれる。コレットは自分を貴族扱いも魔力の化け物扱いもしない、自然体でいられる数少ない存在だ。
「もちろん!行きましょう!イケメン見ましょ!」
ハレアは少しいたずらな笑顔をする。
「そうです!その意気です!イケメン見て心を潤しましょ!!!」
コレットはハレアの手を引っ張り先導した。
―――
「いらっしゃいませ、お嬢さッ!げっ!ハレア・ロンダム!?」
少し癖のあるふわふわとしたキラキラと光るブロンドヘアに、バイオレットカラーの瞳、鼻筋のすうっとした美形の男の顔が歪む。




