街へ①
早朝の騒がしさとは打って変わって、モーネが学校へ行き、使用人たちが各自の仕事をし始めると屋敷の中は瞬く間に静かになる。
ハレアはこの時間、いつも恋愛小説を読んで物思いに耽っている。この屋敷にも少しばかり本はあったが、どれも魔術に関するものばかりでハレアには1ミリも興味のないものだった。
その日も庭のベンチに座り、大好きな小説『氷の冷酷騎士様は私の熱に溶かされ溺愛する』シリーズを読もうとページを開く。
「あっ!!!」
ハレアは何かを思い出し、立ち上がる。それに反応するように庭のバラの木の葉がザワッと揺れた。ハレアはそんなことなど気にも留めずに一階のキッチンへと向かった。
「あれ~?お嬢!な~に~?腹減った?」
ハレアはキッチンの中をひょこっと覗く。
食事の支度をしていたルードがハレアに向かって屈託のない笑顔を向ける。
「いや、そうじゃなくて、今日って市場に行く予定はありますか?」
ハレアは自分に気付いたルードに緩んだ顔をする。
「いや~、ないけど……。お嬢は市場に行きたいの?」
「市場っていうか帝都の中心の本屋さんに行きたくて……。今日発売の本があるんですよね!」
「そういうことね。じゃあ、もうすぐ青果店の品物が馬車で届くから、それに乗せてもらうといいよ」
「いいんですか!」
ハレアの顔がパァっと明るくなった。
「俺もよく市場行く時乗せてもらうから。帰りはモーネの迎えのついでに乗せてもらえばいいよ。父さんには言っとくから」
「ありがとうございます!すぐ準備してきますね!」
そう言うとハレアは足早に自室に帰っていった。
―――
「お前もついて行ってやれ」
ルードはキッチンの端っこの壁に向かって話しかけた。
「気付いてたんだ……」
ボソボソっという暗い声と共に壁際にリールが現れた。首につけているチョーカーに手をかけている。
「最初から気付いてたよ。人がいると風の軌道が変わるから」
「流石だね、兄さん。料理人にしておくには惜しいよ……」
「今日はなんでお嬢付け回してるんだ?あ~、今日だけじゃないか~。なあ?リール」
ルードはとぼけた演技をしながらも、鋭い眼差しでリールを睨む。
「別に……」
「まあ、いい。お嬢一人で街歩きなんかさせたら店ふっ飛ばしかねねーから、お前がついて行け。その首輪みたいなので姿消したまんまでいいから」
リールは小さくうなずくと、またチョーカーに手をかざし、姿を消した。




