魔力対策③
「リール兄さ~ん!おはよ~!あけて~」
ハレアは早朝からモーネに連れられ、三階の一番奥の部屋の前へと来た。
インハート家の屋敷は三階建てで、一階に食堂や応接間、二階に当主夫婦の寝室や風呂、三階には使用人用の居住スペースがある。そして、階段で三階まで上がって一番突き当りの部屋。そこがリールの部屋だ。
ハレアは申し訳なさそうにモーネの後ろに隠れている。モーネは実の兄には遠慮がないようで、扉をドンドンと叩きながら中にいるリールを呼んでいる。
「ね~!リール兄~!ちょっとお願っ」
ガチャッ――
「朝ご飯なら廊下に置いておけばいいだろ!」
勢いよくドアが開いた瞬間、ボサボサの漆黒の長髪で顔が隠れている長身で細身の男が出てきた。声を荒げているがか細く力のない声量だ。目や鼻は隠れているものの、辛うじて紫色の唇だけは髪の束の間から垣間見えた。首筋は異様なほどに青白く、黒髪が肌の白さをより際立たせている。
ドアの奥は暗く、ところどころぼんやりと赤白黄色などの様々な色の光が飛び交っている。
『カチャッ!カチャッ』と何かがぶつかる音と、小さい子どものような幼い声で「ねえ、リール?ねえ、リール?ねえ、リール?」と延々と無機質な音が鳴り響いている。
「ちょっ!ハレッ!」
リールは驚き、すぐさま勢いよくドアを閉じた。
「ごめんなさい、奥様。リール兄さんは凄く人見知りで……。あとで私から魔力調節の魔具がないか聞いておきますね。こうなったら当分の間は部屋から出てこないので……」
モーネはハレアに深々と頭を下げた。
「いいのよ。むしろ、私の魔力のせいで迷惑ばかりかけて申し訳ないわ」
「いえ、奥様は凄い実力の持ち主なので、ぜひ報われてほしいです!」
モーネのキラキラとした純粋な眼差しにハレアは少し困ってしまった。
(正直、魔力調節なんかしなくても実家から魔石を送ってもらうなりして、それを破壊すればいいわけだし……。あんまりここの使用人の人たちにも迷惑をかけられないわ)
「あっ!私そろそろ学校に行く時間なので!ここで失礼します!」
そう言ってモーネは全速力で廊下を走り、階段を下って行った。
「いってらっしゃい」
ハレアもモーネに続き、ゆっくりと廊下を歩きだした。
すると後ろから『カチャッ』とドアが開く音がして、振り返るとそこは特に先ほどの変わらない廊下の突き当りがあるだけだった。




