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手加減

作者: 華城渚

僕には年の近いお兄ちゃんがいる。

いつも無口で何を考えてるか分からないけど、とても優しいことは分かるんだ。


お兄ちゃんはいつも“ 手加減 “してる。

(......まぁ最初にやることに関しては手加減しつつも勝ちを譲ってくれないけどね。)

何でも器用にこなすから、勉強も運動もゲームだって僕はお兄ちゃんには敵わない。

でも、お兄ちゃんは「めんどくさいから」本気は出したくないみたい。


そんなことより僕を目立たせる方が嬉しいんだって。

何でも僕以下になるように手を抜いてテストを受けたり、一緒にゲームしたりしてくれる。

お兄ちゃんのおかげで僕はクラスの中心になれてるけど、お兄ちゃんは「なんで兄のくせに」とか「不出来な奴だ」ってクラスメイトには言われてる。


僕は悔しくてたまらなかった。

お兄ちゃんはほんとはすごい人なんだってみんなに自慢したい。

ほんとは優しくて思いやりのある人なんだって言いたい。

でもお兄ちゃんは「お前が目立って、楽しければ何でもいい」って笑顔で言うんだ。


......だから僕には何もできない。

僕が勉強でも運動でも一番の成績になればいいけど、そこまで頑張る心は持ってない。

結局今の現状に満足しちゃってるって思う。

ラクに楽しい人生を送らせてくれるならそれでいいんじゃないかって......



でもそんな日は長く続くものじゃない。



近頃世界的にウイルスが蔓延しているらしい。

なんでも、感染するとゾンビみたくなるんだって。

感染源は分かっていないけど、僕たちが住んでる街でも感染している人はいるらしい。


感染者が出た日から僕たちは家に籠っている。

いつかこのパンデミックは終わると信じて待つしかない。

ニュースはやってないからラジオを頼りに情報を集めているけど、終わる気配はないそうだ。

このまま感染して死んでいくのかな...... もうほとんど諦めていた。



そんなある日、お兄ちゃんの様子が変になった。

ラジオで聞いたゾンビの特徴に酷似していた。

僕を見つけるなりお兄ちゃんはゆっくりと僕の首を締め上げる。

ゆっくりと......ゆっくりと......時間をかけて僕を殺そうとしてくる。


「ああ......こんな時までお兄ちゃんは手加減するんだね。」


そう思ったとき、無性に腹が立ってきた。

首を絞めるお兄ちゃんを力強く蹴とばし、家を出た。

あてなんてないし、外にはゾンビがいるかもしれないけど、今は逃げるしかない。


命からがら家を出てふと家を振り返ってみた。


不敵な笑みを浮かべお兄ちゃんはこちらを見ていた。追いかけてくる様子はない。

その笑みは僕を締め上げているときにも見た笑顔だった。


その笑顔はどういう意味だろう。


お兄ちゃんは僕が逃げれてよかったと思ってるのか......

それとも......




“ 手加減 ”しながら殺しを楽しもうとしてたのか。


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