表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/55

【探偵#6】壊すなら絵ではなく、満たされない乾き

異界と人間が交わる世界へ。

そして、そんな世界にある、探偵事務所へ。


探偵事務所の名前は──

《金花探偵事務所》。


ここに集うのは、ちょっと普通じゃない高校生たちだ。


三人の主人公と異界と人間の世界が交差する時代、

彼らの物語が、今、走り出す──!


私の名前は星都風香、とある探偵事務所の探偵。

現在は依頼でホテルの中、とあるターゲットを待っている。


そしてーーー


夜のホテル裏口。


煌びやかなロビーの裏、

誰もいない静かな路地。


その暗闇で、二つの影が睨み合っていた。


煉城練斗――

そして、御影家に仕える風雷一族の護衛、疾風。


空気が、張り詰める。



穂花がホテルに入った頃、

練斗は、たった一人で戦っていた。


彼の役目は、穂花の護衛を食い止めること。

私たちのために、今、命を張っている。



「そこを退け、と言いたいとこだが」


練斗が低く、獣のような声で言う。


「まずは聞かせてもらおうか。

お前らが絵を壊し、加藤ミカを狙った理由を」


疾風は、微動だにせず答えた。


「若き異界の少年よ――」


その声は、夜気を切り裂く刃のようだった。


「この私に挑むことが、どれだけ重いか、覚悟はあるのか?」


御影家の影に仕える精鋭。

風雷一族のエース――疾風。


彼の周囲に、吹き荒れるような渦が立ち上る。


竜巻のような、圧倒的な殺気。


だが、練斗は――笑った。



「俺を止められるのは、信号機くらいだ」


挑発とも、本気ともつかない声。


次の瞬間。


地面が、爆ぜた。


練斗の爆発的な踏み込み。


まるでワープしたかのような速度。


(――速い!類を見ぬ踏み込みの強さ)


疾風が、突風のようなバックステップで間合いを外す。


だが――


「逃げんなよ」


練斗の射程は、常識外れだ。


瞬時に追い詰め、間合いを潰す。


疾風の足元から、鋭い風刃が放たれる。


「喰らえ!」


しかし練斗は――


「俺の頭は某猫型ロボット並みだっての!」


頭突きで風刃を弾き返した。


そして、その勢いのまま――



「オラァッ!」


煉獄刀が、紅の閃光を描く。


大地を裂く袈裟斬り。


疾風は、紙一重でかわした。


だが、その胸元に――

紅の一文字が刻まれた。



疾風が、静かに呟く。


「我が一族の技を耐える頑強さ……見事」


しかし――


ポタリ、と。


練斗の右肩にも、浅い裂傷が走っていた。



「我が一族の術はまさにカマイタチ、知らぬ間に切り刻まれて逝くがよい」


「……カマイタチか」


練斗が、肩を軽く回しながら笑う。


「こんなの、傷にカウントされねえよ」


その言葉から滲むのは、絶対的な自信。



疾風の雰囲気が、さらに鋭さを増す。


「ならば――強者よ。

この命、賭けるに値する」


彼もまた、真正面から剣を構えた。


(――忍びが、正面で斬り合う?)


疾風は、練斗という怪物に対して、誇りを賭けて戦いに来たのだ。



再び、地面が軋んだ。


練斗が、再度踏み込む。


「大事に話せよ。

いつ最後の言葉になるかわかんねーからな!」


疾風は応じた。


「私を――強くしてくれ、煉液!」



爆発する斬撃と、風を纏う刃。


二人の打ち合いは、まるで嵐だった。


練斗は規格外の爆発力で迫り、

疾風は暴風のごとく応じる。


火花と気流が交錯する。



だが――


練斗が、ぽつりと呟いた。


「できれば使いたくなかったけど――」


彼の髪が、うっすらと青く光り出す。


「久々だからって”暴れるなよ”」


瞬間。


練斗の身体を、スライムの膜が覆った。



疾風が、鋭く風刃を放つ!


だが――

それはスライムの膜に飲まれ、跳ね返った。


「倍返しだ」


跳ね返った風の刃が、疾風を襲う。


疾風は、辛うじて回避。


しかし、その隙を――



練斗のツノが、真紅に光る。


「お前も”暴れるなよ”」


煉獄刀に、紅蓮の氣が宿る。



「花火みたいに――散れ」


紅き一閃が、疾風を斬り裂こうと迫る!


疾風は、咄嗟に風纏いの手裏剣を投げる。


練斗が弾き飛ばすが、頬をかすめた。



「……我が風の術、完全回避はできまい」


血を滲ませながら、疾風は呟く。


しかし――


練斗も笑った。


「上等だ」


そして――


再び、刃と刃が激突する!



ホテルの中では――


その頃、私は。


穂花と、睨み合っていた。


煌びやかなホテルの一角。

シャンデリアの明かりが、冷たく床を照らしていた。



周囲の喧騒など耳に入らない。

ここには、私と彼女だけがいる。



穂花はスカートを揺らし、

強張った顔で私を睨みつけた。


だが、その目には――

迷いが、あった。


それを私は見逃さない。


「もう、いい加減にして」


穂花が、かすれた声で言う。


「御影財閥の跡取りが、こんなところで負けるわけにはいかないの!」


私は静かに首を振った。



「私はあなたの気持ちや加藤ミカがどうなろうと知らない。私はただ自分の身勝手な欲求を満たしたいだけ、真実を暴けたらどうだっていいの。」


一言。


穂花の目が揺れる。


私は、さらに言葉を重ねた。


「あなたが今していることは、

“自分自身をごまかすため”だけ」



穂花が、怒りを押し殺すように唇を噛んだ。


「……私は、親の期待に応えたいだけよ」


「それも違う」


私は容赦しない。


「親のためでも、世間のためでもない。

あなた自身が――」


言葉を一度、区切る。


そして。


「自分の『乾き』を満たしたいだけ」



穂花の顔が、真っ赤に染まった。


「な、に……っ」



私は、真っすぐ彼女を見据えた。


「認められたくて。

褒められたくて。

愛されたくて。

でも、満たされたことが、一度もない」


「違う!!」


穂花が叫ぶ。


その声は――必死だった。



「私は……!

ただ……っ」


声が、震える。


私は、静かに続ける。


「違わないわ」


「本当に守りたかったのは、親の期待じゃない。

自分の心――

産まれた環境についていけないほど才能に恵まれず、乾いた、自分自身だった」


「うるさいっ!!」


穂花が駆け寄ってくる。


まるで、感情をぶつけるように。



でも、私は動かない

このほとんど序盤にほぼ解決した、もはや推理すらもいらないこの事件にもう関心はない。


ただーー



「……あなたが今していることは」


私は、優しく、それでいて厳しく言った。


「絵を壊すことでも、

誰かを傷つけることでも、

賞を奪うことでもない」


「……!」


穂花が立ち止まる。


「あなた自身を、壊してる」



「財閥の名前で賞を取って。

忍びに守られて、敵を排除して。

自身の足りない才能を補うよりも

そんなもので得た『勝利』に――」


私は、低く言った。


「本当に、意味があるの?」



静寂が、降りた。


シャンデリアの光が、二人の間を満たす。



穂花は、俯いた。


小さな肩が、震えていた。


それでも――



「……でも、私は……」


かすれた声。


「私には、それしかないの……!」


悲しい叫びだった。



私は、一歩、踏み込んだ。


「違う」


穂花が、はっと顔を上げる。


「あなたには、まだ何も壊れてないし、何も得れてない」


「……」


「だから。

壊すなら――

満たされない乾きを、自分のプライドを壊して!

親にもあなたの気持ちを少しでも伝える努力をしなよ!」



穂花の瞳が、ぐらりと揺れる。


涙が、零れ落ちそうになった。


でも、彼女は、ぎりぎりで堪えた。



才能に恵まれず、でも家の力で何かを得る


自分とは全てにおいて真反対だと


私は、心の中で、そう思った。



「……何も……

わからないくせに……あんたみたいに普通の家に生まれて、そのくせに勉強もなんでもできるあなたに!」


穂花が髪を揺らしながら訴える。


私は、ふっと微笑んだ。


「わからないわよ」


正直に言う。


「私は産まれてからこの程度の事で悩んだことは一度もない、絶大な才能のおかげで努力なんてしたことないけど…」


「あなたがしてることは間違ってる」


穂花の唇が、わずかに震えた。



「だから。

あなたがもし――」


私は、そっと言った。


「満たされたいなら」


「……」


「最初に、あなた自身を信じなきゃ、ダメだよ」


私はいつも自分と、仲間を、二人を信じてる。


その時だった。


「風香さん!」


風香と穂花が睨み合う、ホテルのフロア。


静寂が張り詰めたその空気を、

破ったのは、思わぬ人物の声だった。


「――二人とも、もうやめて」


弱々しい、けれど芯のある声。


二人が振り返ると、そこには――

制服姿の、少女。


加藤ミカが、立っていた。


顔はまだ青白く、包帯の残る左腕も痛々しい。

それでも、まっすぐに歩いてきた。


(作戦通り…)


私はメリーにこう話していた。


「おそらく裏口から穂花はくる。だから私と練斗が穂花を見つけたらその瞬間に病院にむかって、ミカを連れてきて、それがこの件を解決する一番な方法。」


「おけ!私が急いで空飛んで連れてくるね!安全に!」


私は空に人を抱えて飛んでる時点で安全も何も…と一瞬思ったけど、まぁいい


そして


ミカは、穂花の前に立つ。



「……私ね」


ぽつりと、語り始めた。


「あの絵を描いてた日、思ってたんだ」


「才能がないと気づく瞬間って、いつなんだろう、って」



ミカの声が、静かに空間に染み渡る。


「天才に出会ったとき?

努力しても結果が出ないとき?

自分だけが取り残された気がしたとき?」


「……違うよ」


その言葉に、穂花が反応を見せる。


「本当に“才能がない”人って――

頑張ることさえせずに、“才能のせい”にして逃げる人だと思うの」


「私、怖かった。誰にも勝てないって、思ってた」


「でも……絵が好きだから、描いてた」


「賞をもらうのが目的じゃなくて、

絵を描くこと自体が――私の、好きなことだった」



沈黙。


そして、ミカは微笑んだ。


涙を浮かべながら。


「私は、あなたを許すよ、穂花さん」


「だから――絵、描こうよ、自分のために」


「親なんて、関係ない。

大事なのは、“自分がどうありたいか”じゃない?」



穂花の瞳が、大きく揺れる。


震える指先が、制服の裾を握りしめる。


それでも――言葉にはならなかった。


私がそっと声を添える。


「……あなたが本当に描きたい絵を、

これから選べばいい」


「誰かを蹴落としたり、苦しんだらせずに自分自身のために」



そして、場面は――

変わる。




ホテル裏口。

破壊された壁、瓦礫と吹き荒ぶ風。


煉城練斗と、風雷一族・疾風。


「まだ立つか、風の忍び」


練斗が刀を見ながら言った。


「我が一族に、退却の文字はない」


疾風が苦しげに笑う。


その時――



ズドォンッ!!


建物の上から、金色の氣の衝撃波が撃ち下ろされた!


「おっそーい!」


そんな声と共に、彼女が舞い降りる。


氣の波動が、疾風を押し返す。


「くっ……!」


疾風が地面に膝をつく。


「風香ちゃんの指示通り、あのあとミカちゃんを連れてきたよ!」


「これで……終わりだな」


練斗が、刀を構え直した――その瞬間。



疾風の懐から、通信端末が震える。


『穂花様より伝令。ここまでとせよ』


疾風の瞳が、一瞬だけ緩む。


「……穂花様の、意志か」


その言葉と共に、疾風は刀を納めた。


「本日は、ここまでに致しましょう。

煉液、そして……金花の氣の暴走娘」


「誰が暴走娘だってぇ!?」


メリーが詰め寄るのをよそに、

疾風は煙のように姿を消した。




数日後。


瀬礼文学園・金花探偵事務所のソファ。


午後の日差しが差し込む中、

私と練斗、メリーがのんびりとお茶を飲んでいた。



「にしても、あれだな……」


練斗が腕を組む。


「結局、風香の作戦通りか、こんなに上手くいくとは思わなかったなぁ…でも穂花は何も言わずに去ったな」


「でも――ちゃんと届いてたよ」


私が窓の外を見ながら呟いた。


「言葉は、全部伝わってた。

あの目を見れば、わかる」



「でもでも! あれからミカちゃんと話したとき」


メリーがスマホを操作しながら言う。


「美術展に――ミカちゃんと穂花ちゃんが、

一緒に応募したって!」


「へぇ……」


練斗が少し目を細める。


「まあ、悪くねえな。あいつら、なんとなく似てるし」


「別に本人達は元々仲悪くないし、穂花も自身の能力では親の期待が重かったのよ」


私が静かに付け加えた。


「でも大丈夫かな?御影財閥を敵に回してない?」


そんなメリーの不安は今後思いもしない所で的中してしまう




その一方で。


御影一族の屋敷では、

穂花の兄、そして両親が激怒していた。


失敗した任務。


傷を負った疾風。


そして、“探偵”という存在への不穏な警戒。


「役に立たなければ護衛の任務から外すだけだぞ」


兄の御影帝一が豪邸の絵画を見ながら、疾風を詰める


「必ずや次は…我が一族の誇りに賭けて」



この時はまだ誰も知らなかった、


あの日の少女たちの決意が――

やがて、世界を揺るがすような物語の序章になることを。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ