第八話「規則に従わない生徒」
俺は朝っぱらからトレーニングに励んでいた。それも、二時間を通して球速は挟んでいない。そしてかなりの汗を掻た時点で俺が向かった先は風呂場だった。
そこでシャワーを浴びて全身を洗浄してから風呂を出る。その後で仕事に来て行く服装に着替えた。それは最近の正規術師が着用を強いられている服装である。指定された服装で通勤するように指示が出た時から仕事ではこれが欠かせなかった。
「おはようございます」
「あら、おはよう? まさか貴方は指定されている服装で来るんですか? そんなダサい服装なんて私はしあせんからね!」
「ダサいこともねぇだろ。ちゃんと着て来いよ」
「断る。私はこっちの可愛いお洋服が似合っているんです。これで十分に仕事が出来ます」
「——はぁ。呆れたわ」
俺が出勤した時には解葉の姿が見えた。解葉は俺よりも早めに出勤して来たみたいだが、服装が身分の好みで決めていたことが少し気になってしょうがない。しかし、そこで面倒を見ている学校側の方針で服装は自由で良いと言われているみたいだった。それは正規術師として可笑しいと指摘した瞬間に師匠は別に気にするまでもないと吐き捨てる。それを聞いて少しだけ俺は不安を抱いた。
すると、そこで俺と同じ服装で現れた真介さんが師匠の服装を指摘する。そこは俺が指摘したところと変わらない内容で、師匠は序列一位が守っている規則に対して面倒だと思いながら近くにあった更衣室で着替え直す姿勢が見られた。師匠が着替えて来た様子を窺った真介さんは似合っていると褒め言葉を送る。そして今度は解葉が指摘されてしまった。けど、彼女だけが未だに着替える気がなくて真介さんも呆れた表情を浮かべる。
「参ったな? 新人が先輩の言うことを聞かないなんて正規術師になれた理由が分からない」
「あっそ。じゃあ貴方は強いのかしら? 私の術式なら貴方に匹敵することは楽勝ですわ」
「ほう? なら、実力テストを直々に行ってやる。二人も付いて来なさい」
「嫌な予感がする」
「俺もです」
そうやって俺は真介が指名した場所で待ち合わせをした。そこは魔術師が暴れても問題が起こさないための運動場で、実式の使用が許可された広場である。そこで解葉の術式を中心にテストを受けてもらうことを始めた。これで基礎能力や魔力量、後は術式の精度を測るために連れて来られたと言っても可笑しくはない。だから、この場で解葉は思い知る余地があると思われた。生意気にも聞こえる態度を直すためには実力の差を見せ付けて後輩を従わせて育成する方針が適応される。そこで解葉の実力が準一級術師と互角に渡り合えるなら、服装は自由に選択して着て来れる方針で上層部に変更を希望することが出来る条件で挑んで行った。
「ここで時政と冷斗は見ていなさい。ここで準一級術師を二人だけ連れて来た。この二人が撃破された時は服装の自由を約束しよう。上層部からは許可が降りているので、今回は実力を試させてもらう。君が上の方針を破って従わないなら、実力行使になっても構わないと思っている。だから、君はこの場で勝ってみなさい」
「分かったわよ。やってやろうじゃないの!」
そこで真介さんが連れて来た準一級術師は俺に匹敵するほどではないが、それでも十分に仕事を遂行するだけの実力は持ち合わせている人物だった。その二人は真介さんの推薦で一戦に参加を強いられた存在として解葉の前に立つ。
「どうも。滝村水香と申します。私の術式はこの後で見せたいと思っているところです。ここで敗北して真介に恥を掻かせない一戦を交えることを約束します」
「豪島鉄雄だ。鉄壁で知られる術式でお前の舐め切った根性を叩き直してやる」
「自己紹介は良いから早く勝負してもらえないかしら? 私は凄くやる気で満ちているわ」
「了解。では、水香が先攻で行く」
「分かりました」
そうやって初めに出て来た人物は水香だった。水香の術式は主に水害救助などで活躍が見られる。しかし、戦闘にも向いた術式だと言われていることから準一級術師の座に就ける存在だった。そんな水香の実力が解葉に劣っている訳がないと俺は緊張感が高まる。しかし、実際に水香は魔力を散らして術式を展開させないで攻めて来る可能性があった。けど、攻撃が余りにも弱すぎる点が敗因に繋がることは俺の予測した通りの結果になると思われた。
「では、お互いに向き合って並べ。解葉には二戦だけチャンスを与えよう。片方だけでも倒せた場合は服装は自由で良いぞ。しかし、二敗した時はこっちが指定している服装で来い。分かったな?」
「了解です。それでは以前の冷斗戦で勝てなかった理由を克服する策は練って来た。それを克服すれば私に勝機はあるんですよね!」
(マジか? もう欠点の修正に入っていたとはな……!)
これは少しばかりの不安が脳内をよぎる。しかし、こんな短期間で克服できたとするなら、解葉は準一級術師並みの実力が発揮されても可笑しくはないと考えられる可能性は十分にあった。つまり、解葉を侮る油断はしない方針を取る必要がある。しかし、実際に相手は以前の俺が解葉の術式を攻略した時のような攻撃を下せるなら、そこまで彼女は恐ろしくもない存在であることは確かだった。つまり、解葉の術式は少なからず弱点を抱えている。そこを突いて攻撃に徹すれば勝率は高くなることが約束されるのだった。
「では、お互いに準備は出来たな?」
「「はい!」」
両者は自身の位置に着いて構える姿勢を見せる。両者は睨み合ってその場に立っていた。実際に有利に至るのは水香の方だと考えられるのが普通である。しかし、通常攻撃が磨かれていた場合は解葉に勝機が望めることは確かだった。果たしてどっちが勝利を収める魔術師になるのかが決まる。
「始め!」
「行くよ!」
「私の前で容易く術式が扱えると思わないでくれるかしら!」
「何っ⁉」
いきなり水香が術式を展開させる前に魔力を分散して不発に終わらせた。それが水香に隙を与える上に攻撃する機会が出来た事実は解葉側にある。これでどの程度の一撃を下せるかが勝利を左右する結果が生まれる可能性を秘めていた。
「はぁっ!」
そこで解葉は回し蹴りを水香に食らわせる。それが顔面を直撃してある程度はダメージが入ったように見えた。この時点で水香の蹴りは以前よりも強化されていることが分かる威力を発揮している。これなら解葉でも倒せる確率は十分にあった。
そして一度目の攻撃を当てた瞬間に術式が展開できる姿勢を立て直す前に勝利する方針でさらに連続で殴打を放つ。それがダメージとして着実に加えられている様子を見ると水香が負けるかも知れない状況が推測できた。解葉は連続攻撃を加えて水香に隙を与えない戦法が勝利に導いている事実をもたらす。
「これでお終いだぁ!」
「絶対に負けられないんだよぉ!」
すると、そこで解葉の攻撃から一瞬の隙が出来たタイミングで抜け出して反撃を開始する。解葉が使った術式の効果が分かった時点で水香は攻撃で怯んだ瞬間を狙っていた。解葉の怯んでいる隙に術式を展開させて仕留められる一撃を放つ。
「アクアバーストぉぉぉ!」
「そんなぁ⁉」
水香が発生させた水流を爆発を伴わせて放った。爆発で底上げされた威力の水流が解葉に直撃する。それが決まった時点で解葉の敗北が判定で下された。
「勝者、水香!」
「どうよ? 私の方が上手だったみたいね?」
「畜生ぉ!」
かなり悔しがっている様子が窺えて今度は負けられない一戦になった。それを解葉は以前の集中力をさらに高めて次に備える。その集中力が連続の攻撃で攻めた時に隙が反撃を許さないことを意識して挑んで行った。
「では、始め!」
「お前の術式は読めている! 二度目はないぜ!」
「速い⁉︎」
この時に鉄雄が解葉の思っていた以上に早く距離を縮めて来たことに対して警戒心が追い付かなかった。哲雄の誇る速度はきっとフィジカル面を重視されたことで発揮できると考えられる。今の解葉がこの速度を攻略するために必要となる能力は圧倒的に速度が挙げられた。それに追い付くだけの反応速度でないと解葉の勝機は見えてこないと判断する。
「はぁつ!」
「ぐはっ⁉︎」
(いきなり強烈な一撃が加わったな? これでは解葉の勝率が下がることは間違いない。この速度を超えるためにはトレーニングで鍛え上げる他に方法はなかった。しかし、この場で今から攻略する手段はないに等しい。だから、この一戦はとても勝利は望めないことが言えた。
「俺は術式がなくてもフィジカル面で圧倒して勝つスタイルが準一級術師に上がれた最大の理由だ! 女如きが俺に勝てるなんてことは百年ほど足りてねぇ!」
連続で鉄雄の打撃が決まってかなりのダメージが効き始めて来た瞬間によく見ると分かる通り、解葉が涙を流して激痛を味わっている時間が続いた。鉄雄が下した打撃は俺と互角にもなる一撃が解葉の身体を傷付ける。そうやって鉄雄は徹底して攻撃を続けて行ったことで最後に顔面を殴って終わらせた。これで二戦とも敗北が決まる。
「ちょっと鉄雄はやり過ぎだね? しかし、これで解葉も良い教訓になったと思う。強くなりたいなら規則は守ってくれるだけで丁寧に指導してやる。だから、従わないといけない時は素直に聞く姿勢を見せて望みなさい」
「りょ……了解……てす……」
身体中が痛くて歩けなかったことで自宅まで俺がおんぶして送り届ける。解葉の希望は聞かれない予定が入って来た。それは上層部が仕向けた話が基づいており、それを完全に把握していた人間は情報が行き届いている関係者だけが知れる内容であると師匠から教えてもらったことが一度は存在する。それを頼って任務が遂行される可能性を引き上げてある事実は確かだけど、実際に関係者は魔術師とは限らない話を聞いたことがあった。そんな中で関係者に紛れて犯罪組織に情報を流す敵が忍び込んでいた場合は即座に排除する方針が取られている。
そして実力テストが終わった後の話だった。今度はこちらが師匠に用事があって訪ねる。すると、偶然にして一緒にいた解葉の姿が窺えた。それも、しっかり服装は決められた奴を着ている。これなら真介さんでも満足する光景が浮かんでいると思った。
そこで実際に俺は改めた解葉を窺いに来た訳じゃない。それよりも慎司の件で話がしたかった。まず慎司から不正術師が集団化した組織の加盟が正式に決まった事実を報告するビデオが送られて来た話の確認を取りたくて師匠を訪問する。そこで慎司に関連した話を伝えられた。
「進級して一ヶ月が経過したけれど、そっちの様子はどうだ? 俺は学校の設立を実現させる方針に付き合う時間が多くて君の面倒が見られない現状にある。しかし、ほれでも君の話は聞かせてもらっている。実に活躍が見られる時が多いらしいな?」
「はい。準一級術師になってから任務の難易度も上がっていますが、それでも着実にこなして行ける現状を維持できる成果が出ています。そんな現状が成立する理由も全部は師匠が指導してくれたことが大きいです」
「相変わらず褒めることに特化しているように思えるよ。君はいつでも真面目で真剣な取り組みは高評価をあげても良いぐらいの人間性を持った存在として見ている。そこで肝心の慎司について話したかったことだけど、あいつは犯罪組織の加盟が正式に決まってすぐに一般人を三人も殺した。それが慎司に与えられる罰則を殺処分にする提案が出させている。それが決定するまでに時間は掛からなかった。判決は下されている。それを変えることは決して敵わないだろう。それが君の望まない結末でも受け入れなさい」」
「そ、そんなぁ……」
俺はついに涙が溢れた。師匠が断言した話が本当なら俺たちはやり直すことが出来ないで別れを告げる時が来ると言う事実だけが自分の内心で受け入れ難い一心が宿る。やはり、俺はもっと慎司と一緒に上位の魔術師を目指したかった。しかし、それはこの現状が否定したとしても、敵わないことであると処理される。殺処分は下された瞬間に取り消しが効かない方針だった。その方針が定めた罰則は受けた対象者が下るまで追われる結末を迎える。助かるためには正規術師を欺く方針が必要だった。そう言った意味が示す先に見える未来はきっと薄汚れた色をしているんだと考える。
「ご苦労だったな? そこまで親友を大切に思う心があいつに伝わってくれた瞬間が後悔の生じる運命なんだろう」
「畜生ぉぉぉおおお⁉」
俺は泣いた。号泣はしばらくが経過しても収まらなかったが、泣き叫んでいたことが原因で俺の声が枯れる。それでも俺が受け入れないといけない運命は残酷で耐え難い結末を叩き付けられているかのような衝撃を受けた。しかし、そんなに嘆いたとしても、上層部が変更の余地を与えてくれる訳じゃない。それだけが俺を絶望の淵に立たせた。
そうやって嘆いている間に眠くなっていつの間にか寝てしまっていたことに目覚めた瞬間で気付く。俺は師匠の話を聞いた部屋に備わっていたベッドで寝かされた状態になっている現状を自覚して地に足を着けた。そして俺は感謝の気持ちをメモに残した上で部屋から出て行く。俺がこれから向かう場所は修行場だった。そこでさらに強くなって慎司が果たせなかった夢を叶えられる魔術師を目指して精進する。