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第七話「稀に見る逸材」

 俺は慎司と再会を果たした時の動揺が未だに残っている。慎司が不正術師の仲間に加わった事実は上層部の耳にも届いて即座に正規術師に伝わって行った。そして最終的に下される罰則は現状の罪状だと牢獄に送られるだけで済ませることが出来るけれど、犯罪組織で活動した分だけ重くなると告げられる。どんな理由が生じたとしても、実際に罰則を受ける条件を知っている慎司は理解した上で加わったことだと判断された。これは正規術師として活動していた実歴があることから規則は知っている事実は明らかである。それを踏まえて罰則は厳しく下される予定は変更の仕様がなかった。


「慎司は愚かだった」


「それは師匠が追放したからですよね? その件はどう考えているんですか?」


「実際に弱い魔術師はどんなに励んでも強くならないことは研究成果が示している。それに弱い状態で交戦した結果が死んでしまう事実を生じさせるなら、それに至る前に辞めさせることがあいつを守る行為に繋がったかも知れない。その事実は紛れもなく可能性があったんだ。それが伴う上で文句を言われても俺にはどうにも出来ない」


「そ、それは……」


 確かに師匠の言い分は分かる気がする。魔術師は命の危機を迫られる職業であるが故に弱者は死んで行く定めを受け入れる必要があった。しかし、それを望まない奴は継続を絶つことを許される。それが今回は魔術師としての活躍が期待されない事実を抱えていることが理由で辞職を師匠が強要した。それは仕方のない決断であることは俺にも分かった上で否定が敵わない事態が生じる。師匠の気持ちが正反対に聞こえて起こったことなら、すでに罰則を受ける覚悟は出来ていると判断されても可笑しくはなかった。それが魔術師に与えられた規則を破る行為だと上層部は提示した上で師匠は育成を任された身であると主張する。


「実際に正規術師だった奴は規則を守るための手続きをして活動が可能になる。つま

り、手続きが完了している時点で慎司は規則に従って動く必要がる。それを忘れて犯罪組織に入ったのなら、規則は破られたと言う判断で動かないといけない。それを踏まえて慎司の身柄が捕らえられた時は真っ先に罰則が下る。それも、犯罪組織で罪を重ねた分だけ罪状が重くなることは明白だ。それが日本のルールになる」


「なら、今のうちに捕らえれば罪状は軽くて済まされるはずです。今から犯罪組織に携わった人間を見付けて片っ端から捕らえましょう! それで慎司の居場所が特定できた時点でまだ軽い罪状で済まされる可能性があるなら、それに越したことはないと思います!」


「無理だ。探す以前に犯罪組織と関連した奴らの動きは全員が把握している訳じゃない。つまり、今回の件で君が逃した連中の居場所を特定するだけでも貴重な情報だったんだ。それを失敗した時点で振り出しに戻されているんだよ」


「そ、そんな……。俺がしくじったせいで?」


 師匠が注げた話を聞いた瞬間に俺の内心に罪悪感が生じた。それは俺が逃したせいでせっかくの機会が無駄になってしまったことは後に戻れない事実だけが残される結果を招いている。しかし、それを師匠は庇う要領で否定した。


「そこまで自分を責めるな。今回は君の身に妨害を企んだ奴の襲撃が大きく失敗を招いた事態だ。あの時点で慎司が現れなければ任務は成功していたはずの話になる。だから、妨害した事実が罪状を重くする結果に至った。すでに懲役は四年は牢獄で過ごすことは決まったな」


「ま、マジですか……?」


「あぁ、そうだ。そこで一つだけ言いたいことがある。もう慎司を助ける行いは止めないか? 犯罪者になってしまった以上はあいつの人生は正当じゃなくなっていることは事実だろ? そんな奴を救いたいと思うだけで面倒だと実感するべきだ。やはり、道を誤った人間を正すことが魔術師の仕事じゃない。俺たちは提示された規則を守った上で術式を行使する。そして任務を忠実に遂行することで正当化される職業だ。それを無駄に疲労が溜まる方向性で考えるだけで苦労しても誰が意味のある称賛をくれるのかが問題なんだよ。苦労を積んだ結果が無駄でしたじゃあ話にならない。そこは潔く諦めて次に大切にしたいものを守れば良いんだ。分かったか?」


「そんなんで納得することは出来ません。しかし、その言い分が理解できない訳じゃないです。言いたいことは十分に伝わってます」


「考えても仕方がないことは沢山ある。意味のある行動が自分たちを満足させる道を辿れる。そこを目指して行こうぜ」


「……はい」


 取り敢えず師匠はこの後で姿を消した。事前に告げていた話だと任務に出ないといけない時間が迫っているらしかった。それを理解した上で俺は師匠を見送る。そして俺が向かった先はラーメン店だった。そこで食事を取ってから修行場を確保して鍛錬に励んで行こうと思考を巡らせる。


 そうやって俺は今日の空いた時間を修行に費やした。すると、その途中でスマホに本部から連絡が来る。内容は今から任務を受けてもらいたいと言った依頼だった。今回は犯罪組織と無関係であると言われているが、個人で罪を犯して逃げている人物だと情報が回って来る。それを受けることを決意した俺は与えられた情報を頼って現場に向かった。


 今回の相手は魔獣を操る術式を用いて数々の被害件数を出した奴だと言う。そいつが次に現れる場所は人気がなくて暴れても問題が生じないだけのスペースが広がっていた。つまり、どんなに暴れても周囲に被害が及ばないと考えられる。そこで俺が現地に到着した時点で魔力を感知して俺の存在を知った対象人物が魔獣を呼んで自分の前に配置させた。魔獣が目前に立ちはだかることでガードを固めたつもりみたいだが、それは始めに倒してから本人を叩けば解決する。そんなイメージを描いた上で戦闘に入った。


「大人しくお縄に付けぇぇぇ!」


「バカじゃねぇの? 潔く捕まって堪るかよ!」


 魔獣が三体で同時に襲って来る。しかし、そこまで強くない魔獣を扱って来た時点で俺が破れる訳はなかった。


「く、くそっ⁉ 覚えてろよぉ!」


「実際にお前は牢獄に送って罪状の重さで懲役が決まる。そこまで覚えていられるなら良いけどな」


 そうやって魔獣を操って犯行を重ねた男は凍結させて動けなくした。これで逃走は計らないと判断する。凍結させてしまえば大抵の人間は逃走の余地がないと思った方が良かった。やはり、この程度の魔術師なら俺が相手でなくても片付けることは容易に出来たはずである。そんな風に思っていた時に俺が圧倒して見せた瞬間に別のところから謎の女性が現れて余裕を持った笑顔で凍結した男を解放させる。この時の俺は自分の術式が解かれたことに対して謎が生じた。凍結が解ける術式を持っていると思われる女性はそこで男を流そうとするが、そこで今度は失敗する訳にはいかないと思って以前よりも凄まじい冷気で凍らせる。


「逃さねぇ! さすがに今度は負ける訳にいかないんでね!」


「ほう? 私でも解けない魔力出量を誇れるなんて思いませんでしたわ。しかし、そいつは私が必ず流してあげないといけませんの」


「何だと? ならば、俺を負かしてかはにしろよな!」


「良いでしょう。ならば、戦って証明して見せてください!」


「俺と対峙すると言うことは規則を破る行いだ! 正規術師でもない人間が術式を行使することがどんな行為なのか分かって言ってるのか!」


「私は術式の使用で数々の魔術師を負かして来た存在です! 貴方に劣る訳にはいかないんですよ!」


(まさか稀に見る魔術師の覚醒型に当たる人間か? 正規術師と繋がりのないところで、魔術師としての才能に目覚めてしまったと考えるべきだな? それならこの一戦の後で鑑定士に見てもらうことが妥当だろう)


 現代に生まれた一般人の中で正規術師に知られることなく魔術師に覚醒して術式を単独で取得する人間が存在すると聞いた話があった。それは無意識のうちに魔術師の素質を発揮して来た逸材にもなれる存在の一人に数えられる人材である。彼女は自然に術式が扱えて規則を知らない人生を送る生活に慣れてしまった存在と見ても可笑しくはないと判断が下せた。ならば、この男を助ける意味が今の段階で分かっていない話になる。


(さて、どんな術式でで挑んで来るのかが問題だ。彼女は一度だけ俺の術式が解けてしまう西能があると見た。しかし、それでも魔術師は規則を守らないといけないルールが存在する。それを知らないで発揮する人材はうちで管理して徹底的に現代の常識を身に付けさせる必要がある。今はこの一戦で勝ち抜くことが彼女を誘う手段になるだろう!)


 俺は彼女の実力を測った上で上層部に紹介して正式に魔術師の職業に就かせる要請がしたくて彼女に挑んで行く。相手は一般から生まれた魔術師に必要となる才能を持ち合わせた存在だった。それがどこまで扱えるのかをこの目で確かめることで彼女を勧誘させるかを決める。つまり、これは試験にも等しかった。


「行くわよ!」


「来い!」


 俺は加減しながら実力の測定に入った。相手は無意識で術式が扱える人間であると判断できる。実際に正規術師と異なる点は術式の理解が出来ていないことだった。やはり、彼女は無自覚で術式を扱って来た人間だと思考する。そして出来る限りは彼女をうちの組織に入れたくなっていた。それはおれが果たすべき目標だと捉える。


 そして戦闘が始まった瞬間に彼女はいきなり術式を展開させた。それは俺の術式でも押される効果で対抗して来る。


「私の術式はあらゆる魔力を分散させることが出来ると聞いた。それを教えてくれた恩師は私なら世界を相手にしても怖くないことを示す機会を築き上げる約束を交わした。その後で姿を眩ませているの。しかし、いつか再び私の前に現れた時は一緒に日本を征服する約束をしたんですわ!」


(術式が扱える理由が分かった。恩師と口にした存在が不正術師に存在するなら、そいつを捕らえた後で彼女をうちで保護して正規術師を目指させるのが妥当だ。それを聞かせるために戦闘で勝ち抜いてみせる!)


 そして俺が咄嗟に氷結を広げると、それを彼女が分散させて見せた。術式の効果を散らしてしまうことが出来るなら、きっと攻略の手口は接近した上で直に触れて凍らせる手段が有効になると内心で思う。ある程度の距離を取ることで術式が狙う標的から外れられるかも知れないと判断した。これで俺は彼女を攻略したつもりで挑んで行く。


(接近するまで魔力は込めない。込めても分散させられてしまうなら、魔力が生じる攻撃は効果がないと判断できた。とにかく魔力のこもった攻撃を直撃させる場合は相手の術式が発動できない理由を至近距離で強要する。それが攻略法であることが分かってしまったんだ!)


 俺は即座に相手の懐まで接近した際に彼女の蹴りが向けられた。その攻撃は術式で強化された訳でもないことから、通常で放たられる一撃だと見れる。しかし、それは避けられないほどの攻撃でもなくて単純に俺の場合は肉体を凍らせていることが理由で防御面は万全だった。相手の蹴りは顔面を狙っているが、その攻撃は凍結を施した箇所なら軽減させられる。


「そんなぁ⁉ 私の攻撃が効かない⁉」


「そんな攻撃では効く訳ないだろ? もっと考えて攻撃しろよ!」


 俺が懐に潜った瞬間に冷気を帯びた拳で殴った。その一撃は凄まじい威力を誇っている上に彼女に触れた拳の先をすべて凍らせる結果を招く。そんな攻撃を受けた彼女の意識は一瞬で途絶えた。それが判定なら俺の勝利で決まるだろう。それが俺を安心させる役割を担った。


 そして彼女の名前が明かされる。彼女は持つ名前は江波解葉だった。解葉は【分散】と言う術式を所持している魔術師で、魔力を散らす効果を発揮させることが出来る。実際に術式は展開させる時に魔力を込める必要があることからそれが分散すると不発で終わってしまう性質が起きるのだった。


 彼女の取り調べでは学生時代に不思議な力が扱えた時の恩師から教わったことが理由で術式を駆使することが出来たらしい。恩師は卒業した後で別れる間際に言い残した内容が今でも忘れることなく覚えていた事情が個人活動を引き起こした要因になっている。そこで解葉には一から魔術師が守らないといけない規則を教えてうちに入ることを勧めた。その勧誘を真っ先に断って恩師と再び会ってお話がしたいと言い出して来る。そこで恩師を探し出すことを条件に彼女は加わった。


 そして年齢はともかく解葉を魔術学校に通わせることが決定する。そこで一年間の授業を受けて正規術師の活動に慣れる方針を取った。それが理由になって彼女は無事に正規術師を目指せる人材となる。

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