第六話「慎司との再会」
俺は真介さんの指導を受け始めて一種感が経過する。俺の肉体や術式は大幅に強化されて以前と比較して分かる通り、かなりの成長を遂げていると見られた。それが次に与えられた任務でもやって行ける実力が発揮される。
「今度は犯罪組織に所属する魔術師を捕らえることが目的だ。こいつが捕まれば他の仲間がいる場所を特定できるかも知れない。だから、ここは殺さないで捕らえることが重要になって来る」
「分かりました。取り敢えず凍結させて身動きを取らせない方針で行きましょう」
「助かるよ。君の術式は相手の動きを封じる策が有効だと聞いた。それは後で警察が来るまでの間でも拘束状態を保てる。実に素晴らしい術式だ」
「どうもありがとうございます。けど、まだ俺は準一級術師です。師匠や真介さんのレベルには達しないでしょう」
「それはしょうがないんだ。彼らは別格の魔術師に数えられる存在で、君はそこを目指して経験を積んでくれれば良いんだよ。そうやって一級術師に進級を決められる成果が出せるなら、そこまで急がせるつもりは私もないんでね? 取り敢えず着実に強くなってもらえれば良い」
「分かりました」
そんな風に俺は上層部から使命を授かった。これは準一級術師になった時点で受けられる任務で、それは犯罪者を相手にする内容が告げられる。今度は俺の術式で身動きを封じて警察官の到着まで持ち堪えると言った任務だった。
そして俺が車で現場に向かうと、そこには数人の存在が見て分かる。そいつらは纏めて捕らえる策で進める話が通っていた。始めはそこまで強くない魔術師を相手にすることに決まっていたので、俺は飛び出して凍らせる間の時間を稼げる余裕を持って挑んで行く。
(相手が固まった時に術式で複数の対象者を纏めて凍らせよう。それが俺に出来るベストだろ!)
そんな思考を巡らせてタイミングを図った。そして飛び出せる瞬間が来た時に俺は対象人物の下に駆け出す。
「そこのお前たちぃ! そこまでだぁ!」
「何だぁ⁉」
俺が出て行った瞬間に対象人物たちは驚いた様子を窺わせる。しかし、それを無視して俺はすぐに術式を展開させた。けれど、その氷結が放たれた瞬間を見計らっていた俺の認識外だった人物の手によって阻止される。
「何っ⁉」
俺の術式が炎で遮られてしまう。それは両者の術式がぶつかって打ち消し合った。俺が術式を展開させるタイミングを知っていた人物の手で阻止された瞬間に馴染みのある顔と声が驚愕させる。
「お、お前は……!」
「やぁ? 久し振りだね? 僕もあれ以来の修行で結構強くなったんだよ。それに話は聞いている。準一級術師になったんだってね? おめでとう」
「し、慎司! 何でお前がこんなところに!」
俺を妨害した人物がまさか慎司だったなんて予期することは決して出来なかった。師匠から追放された慎司はあの一件でどうなったのかは俺も知らなかったし、この場に現れた事実が嫌な予感を生じさせる。もしかすると津法を受けた後の慎司が辿った末路は不正術師だったのかも知れない可能性を感じさせた。そしてそれを確信に至らすために慎司から改めて不正術師になったことを告げられる。
「僕は追放された後で自分が追うはずだった犯罪組織に入ったんだ。やはり、術式を持ちながら活用できないなんて少し違和感があったからね? それに僕を追い出した師匠を見返してやりたかったんだ」
「バカ野郎! まさか法令に逆らうのか!お前が一番法令を破らない道を推奨していたはずだろ! なのに犯罪組織がどんな処分を受けることになるのかは知っているはずだ!」
「分かってはいたんだが、僕だって覚醒すれば正規術師に殺されることはないと踏んだんだ。それを犯罪組織側は受け入れてくれたよ」
「クソォ! お前って奴はぁ!」
慎司が怪しげな服装に身を包んでいるが、きっとそれは魔力を増量させる効果をもたらす術式が付与されていた。これは慎司の仲間が施した術式であることは一目で分かる。魔力が漲っている慎司の術式が強化されていた理由にもなっているのであった。そして俺は慎司と対峙した時から刑罰が小さいうちに彼を捕らえて罰則を受けてもらう手段を企てる。それしか慎司の助かる方法はないと思ってすぐ術式で応戦して行く決心を抱いた。
「ここでお前だけは逃さない!」
「僕を捕まえるつもりか? 面白い発想だな? なら、捕まえてご覧よ!」
(この場に居合わせているのは俺と送って来てくれた運転手が少し離れた位置で待機している。もし、運転手の要請で正規術師が送られて来た場合は慎司は逃走するに違いない。ならば、すぐに慎司を捕らえて逃げさせない方針を取るしかない!)
俺は内心で考えを巡らせてどんな方針で挑むのかを決めた。相手は魔力が強化されて術式にも影響があるけど、そこまで実力差が埋まった訳じゃない。ならば、すぐに捕らえることは可能だと考えた。
慎司は術式の効果で二つのコピーを擁していると予測する。それも一つは炎を起こす術式をコピーしていると見た。残りはきっと肉体を強化する術式で応戦して来ることは分かり切っている。
「さて、どれだけ強くなったのか拝見させてもらおうか?」
「お前が思った以上に強くなっている。お前が勝てる相手じゃないのは確かだ」
「僕だって鍛錬を積んで来た。君たちを見返すために!」
すると、そこで慎司は自らが向かって来るのではなく、まずは魔獣を作って襲わせる手段を取った。それは強化した魔力で寝られているため、以前よりは強い魔獣が作れている。しかし、俺が強くなった分が補えていない時点で大した相手でもなかった。
「フリージングランス!」
俺は冷気を凍らせて槍の形状を作った。それに魔力を注いで投げて見せる。投げられた槍は魔力で強化されているため、速度が上がっている上に通常よりも鋭くなっていた。それが魔獣に向かて放たれた瞬間に槍が突き刺さる。そして魔獣はあっという間に消滅して慎司を驚かせた。
「まさか一撃で仕留めるとはな。しかし、僕が自ら相手することになるなんてね」
「お前を待っていた。早めに凍結させて動けなくするしかない¥と思ってる」
「そんなに容易く捕まると思うなよ。これでも命が掛かっているんだ」
「だから、罰則が軽いうちに捕らえるんだよ!」
「それでは僕の術式が使えないじゃないか! そんな末路は辿らない!」
(きっとまだ牢獄で過ごせば、出してもらう期間はそんなに掛からないはずだ。ならば、確実に捕らえて本部に連れえて帰る!)
俺はかつて親友だった慎司を殺させたくなかった。やはり、親友に変わりはないのだと、彼には知って置いて欲しいと内心が訴えている。だから、罰則が軽くて済んでいるうちが捕らえるチャンスだった。
「これでも食らえ!」
俺が地面を凍らせて行き、慎司の足元から及ばせる手段に出た。しかし、慎司は炎の術式で対抗して来る。
「君の氷結は炎に弱い。この弱点をどうやって攻略するんだ?」
「その程度の火力なら魔力出量を増やせば対抗できる!」
再び氷結で凍らせる手段で挑んで行く。すると、今度は炎でも溶かし切れないで慎司を足元から凍らせた。
「よし! これでどうだ!」
「畜生ぉ! これまでなんて……!」
「これでお前は連れて帰る。その後で罰則を受けてもらうぞ」
「こんなところで終わって堪るかぁ!」
必死に術式を展開させようとするが、凍った身体ではどうにもならない状態を強いられていた。しかし、それで安心した瞬間に慎司を助けるために来た強敵が俺を凌駕する。
「どうやら心配して付いて来た甲斐があったようだな?」
「シャドウ!」
「何ぃ⁉︎ 仲間がいたのか⁉︎」
俺は声のする方を見ると、そこでいきなり鎖が飛んで来た。それは俺を拘束して動けなくする。
「これは何だ⁉︎」
「俺の術式が生み出した鎖だ。これで動けないだろ?」
(凄い魔力だ……! 魔力で鎖が強化させているから俺の抵抗では解けない。これはどんな術式なんだ?)
「まだ出てきて良い時じゃなかった。それはこのじょうきょうでわかっだはずだ。覚醒を迎えるまではお前を表舞台に上げることは止める。しかし、さらなる強化を施した状態で鍛えて行けば何とかこいつには勝てるだろう」
「それは本当か? 僕でも倒せるようになって見返せるかな?」
「もちろんだ。それにはまだ準備段階が終わってない。だから、これから強くなろう。覚醒した時がお前の本領が発揮される時だ」
「分かった」
俺が鎖で縛られることで術式が継続を断たれる。さすがに動けない状況でこの二人を捕えることは出来ないと判断するのが妥当だった。しかし、それでは慎司を救うことは出来なくなる。それだけは避けたいと思ったが、やはり現状がそれを叶えさせてくれなかった。
「では、こいつは俺が殺す。それで良いな?」
「惜しいような気がするが構わないよ」
「よし。お前が倒すべきは博間時政だ。こいつが倒せればお前を追放してことを悔やんで死ねるだろう。それ。もたらすことだけを考えて行動しろ」
「分かった」
(師匠が標的なのか? それよりもこの状態では殺されてしまう……! この現状を何とかしないと俺は生きられない)
すると、そこでシャドウの思惑に外れた展開が起きる。それは俺の帰りが遅くて心配していた運転手が現在の状況を見た時に助っ人を要請する行動をとっていたのであった。つまり、この場は正規術師河向かっているらしい。
「そこまでだ! お前たちは逃さないぞ!」
「ちっ。それだと囲まれたな? しかし、問題ない。こちらには転子がいる」
「呼んだか? どうやら外は警察と正規術師で固まっている。つまり、私の出番だな?」
「そのつもりだ」
「では、ご機嫌よう」
すると、シャドウと慎司を連れて瞬時に姿を消した。それは瞬間移動とも言える術式が使われていると思われる。それが二人を逃がしてしまう理由が生じていた。
「惜しかったな? あのシャドウが出るとは余程の期待が込められているようだな?」
「助かりました。まさか逃がしてしまうなんて思わなかったですけどね?」
「問題ない。正面から戦っていれば殺されていたかも知れない。シャドウは俺が追っていた人間だ。一級術師に相当する実力を誇っている奴は俺が相手して倒す必要がある」
「そんなに強いんですか? 危うく殺されるところでした」
取り敢えず俺は後から来た一級術師でもある稲妻電太の登場で殺されないで済んだ。そこで起きた最悪な展開を電太さんに知られてしまった時点で慎司の罰則はこれからさらに悪化して行くことが分かる。罪状が重くなることで殺処分を下される可能性が高まる心配をするが、それは慎司の立場上は仕方がない事実だと電太さんは指摘した。それを俺は泣きたくなる衝動に駆られる。その姿を見た電太さんが慎司を殺さないといけない時は自分で肩を付けられる機会を作ってもらえるように交渉してくれると口にした。慎司は俺が自分の手で息の根を止めることが良いと提案する。その方が慎司も本望だと電太さんの内心は示しているらしかった。ならば、その機会を利用して俺が殺せる状態を作る約束を電太さんと交わす。そうやって俺は決心を固めた。