第四話「進級試験2」
俺は二次試験を突破した。それは単に術式を使わないで勝つことが条件だが、それでも俺の戦闘能力は優れている。二次試験が通った時点で後は術式が扱える状態で交戦に臨んで行く三次時間に挑んでみた。
しかし、三次試験は明日の午後から始まるのは予定を知らされる。それまでの間は修行や筋トレなどは禁止する方針が取られた。これを破った場合は即座に不合格を言い渡される。
「暇ですよ。体操ぐらいは許可が出てますけど、それ以外はテレビの視聴や読書でもして暇を潰すなんて出来る訳ありません」
「その気持ちは分かるけど、魔力は温存する方が良いでしょう。それが君のためにもなる。それを推奨して置くことに意味があるから君は従うと良いよ」
「分かりました」
「しかし、監視を付けることまではしない。さらに俺が君に出した制限を破る行為に至ったとしても、それで試験から落とす判定を下すこともしない。つまり、制限を守ることは強制ではない。しかし、俺は君に出したアドバイスは聞いた方が賢明だと思うよ。だから、君の好きな方を選んで明日の試験に臨んでくれ」
「りょ、了解です……」
そんな選択肢を神門真介は提示した。それは俺をまるで試しているかのような助言に思える。それを破っても試験は落ちないことは約束された。つまり、与えられた猶予をどんなことに扱おうと勝手な話になる。しかし、実際に真介さんは聞いた方が優勢に立つことが出来ると言った助言をくれた。ならば、風真さんを信じて制限を守るに徹する道を選んで明日を待つのも良いかも知れない。それは俺に委ねられた判断であると言えた。
そして俺を迫った選択肢はどっちが懸命であるかを決める必要がある。やはり、一級術師でもある真介さんが出した方を選べば魔力は温存に繋がって明日の段階で発揮させられる範囲を伸ばせるはずだ。なら、ここは真介さんの言うことを聞いて魔力が温存される方を進んで行くのが適切かも知れなかった。
そんな判断を下した俺は魔力を消費する行動をすべて制限させる。それは魔力が無駄に消費しない手段を取って明日に備えた。それが明日の試験に臨むことに相応しい決断だと言える。だから、俺はとにかく魔力は使わないようにした。
そして俺は次の日を迎える。そこで会場には観客席が設けられて俺の対戦を見ることが出来た。やはり、進級試験の時は準一級術師の中でも上位を収める存在を招いて後で出された結果の評価をしてくれる。
「では、今回は敗退した時点で君の不合格を決まる。しかし、全員を戦闘不能に出来た場合は進級を認める。ルールは簡単。片方が気絶するか場外に出すことの二パターンを用意した。どっちの勝利を取るのかは君が決めてくれても構わないそれを踏まえながら対戦に臨んで来い!」
「はい!」
始めに俺の相手になる魔術師は水鳥雫だった。相手が女性であることは気にして交戦する余裕はないと断言された時点で俺は手加減は無用だと心得ている。俺としては相手の術式を知らないことが少し不利を強いられている現状だと思われた。あらかじめ対戦相手には俺が扱う術式の詳細が知らされていると師匠が教えてくれたことから警戒は怠らないで挑むのがベストであると助言をもらう。
「では、始め!」
(まずは先手を仕掛けて相手に攻撃の隙を与えない方針で行こう! きっとこの先手が勝率を底上げしてくれるはずだ!)
俺は即座に地面に手を突いて術式を発動した。始めは地面を通した氷結を広げて相手の足元から凍らせて行動を封じる策を実行して見せる。やはり、これに対抗できる術式は低確率でしか当たらない自信がこの策で挑んで行く理由だった。
「地面から氷結を広げる戦法か! なら、それは私には効かない!」
「なっ……⁉︎」
いきなり相手が鳥に変身して上空に逃げて行った。相手の術式から察すると、鳥の姿に変わる【獣化系】であると判断できる。この術式は鳥化することで空が飛べる効果は見るだけで分かった。空に逃げた相手に対してどんな対応で向かって行くべきなのかを考えさせられる事態が起こる。しかし、相手だって接近を余儀なくされることはその場ですぐに判断が下せた。なら、相手が近付いて来る瞬間を狙って攻撃することが妥当である。
「その術式を攻略する糸口はすぐに分かったぞ! 準一級術師なら逃げるだけで終わらせることはしないはずだ!」
「当たり前じゃないの! 以前まで二級術師だった貴方に負ける訳にはいかないわ!」
すると、そこで相手はいきなり俺の足場から水を発生させた。水が足元から一気に俺を包み込んで呼吸が出来ない状況を作り出す。そして俺は窒息するまで水中に閉じ込められることを知った時からどんな対応で向かって行くのかは判断が出来ていた。
バキンッ!
俺を包んだ水が凍り付いた。そして凍らされた水中を粉砕して逃げ出すことに成功する。水は凍結がしやすい性質を持つことから自身の術式で逃れる手段は簡単に掴めた。
「これで俺を閉じ込めたつもりか!」
「くそっ! さすがに相性が悪い!」
「これでも食らえ!」
俺は冷気を槍の形状に変化させて凍らせる。氷で槍が出来た瞬間にそれを相手に向かって発射した。それを避けようとするが、槍は翼に的中して相手が落ちて来る。そしてそこを狙って再び地面を通して落ちてしまった相手を凍らせた。俺が考えた策が通用した瞬間に観客席で見ていた人たちから歓声が上がる。やはり、見事に攻撃が決まったことが歓声を巻き起こしたのだろう。その結果を迎えた俺は勝利したことに満足感を抱いた。残りの四戦で俺の進級を決めることになる。だから、気を引き締めて次の一戦に臨んで行った。
(今回は相性が良かったことが勝因かも知れない。しかし、次は前に見せた攻撃はすでに警戒されていることは明白だ。ならば、手持ちの戦法は後で残して置く必要がある。なるべく明かした攻撃法で倒せれば良いぜ!)
そうやって水分補給の時間だけを与えられた俺は口に水を含んでからステージに向
かった。そこではすでに次に対戦する相手が俺の到着を待っている姿が窺える。今度は男性が相手だが、フィジカル面で俺が優勢に立っている事実がはっきりしていた。やはり、こう言った相手は術式で体格を補って戦うスタイルであることは予測した
通りだろう。果たしてどんな術式を使って挑んで来るのかを警戒して俺は一戦に挑んで行った。
「見た目はひ弱に見えるから勝てると思っただろ? そうはいかないことをこの一戦で味合わせてやるよ!」
「別に体格で判断することはしない。この場合は術式を有効に使って挑戦することを警戒して戦うまでだ」
「ほう? 術式に注目したのか? なら、見込みがあるな!」
(こいつの発言で術式を警戒する必要があることは分かった。体格を補う術式か相手の弱体化が妥当かも知れない。あるいは相手を戦闘不能に陥らせる術式を使って来る可能性も考えられる。もはや、油断は敗北を意味することは確かだな……)
そして俺は普通に隙を見せない構えで相手の前に立った。しかし、相手は余裕を窺わせる姿勢で俺と向かい合う。これは少し焦りを覚えさせる一瞬だった。
「では、始め!」
(始まった!)
俺は以前の一戦で見せた氷結で相手の足元を狙った。すると、そこで相手はその場から動かないで俺の術式を打ち消す。それは一体どんな術式が俺が下した攻撃を無効化させたのかが分からない瞬間だった。しかし、俺は効果がないと分かった上で接近を試みる。それを相手はやっと行動を開始した。そこで俺が冷気を帯びた拳で殴り掛かると、その攻撃を再び打ち消して見せる。これは術式を無効化させる効果を担っていることが分かった。しかし、その発動条件が謎の状態では攻略が出来ない。これをどうやって攻略すれば良いかが迷った。
「どうした? 術式は発動しないのか?」
「うるさい!」
俺は術式が消されたことを察しても、攻撃を止めないで殴打を彼の顔面を狙う。しかし、それを簡単に避けて反撃を加えた。
「はぁっ!」
「ぐぅっ⁉」
腹に強烈な殴打が決まって怯んだ隙を狙って二度目の攻撃が下される。今度は蹴りで顔面に一撃を加えるが、それだけでは攻撃は収まらなかった。
「ここで畳み掛ける!」
(これじゃあ負ける⁉ 反撃しない限りは逆転は望めない!)
俺は相手の攻撃が少し遅れた隙を狙って蹴り上げて来た足を受け止める。そして即座に足に触れることが出来た瞬間に凍らせた。
「そんなぁ⁉」
「これでお終いだぁ!」
足が凍った時を利用する手段に出た。術式が作用した箇所から広げて全身に渡って凍り付く。それが決まって相手は動けなくなって窒息を恐れた俺は顔の部分だけ凍らせないで降参を言える状態を作った。すでに行動が取れない状況を迎えた相手は降参の他に選択権はないに等しい。これで審判は俺に勝利を掲げた。
(これで二勝目だ。しかし、攻撃に転じた時は術式を封じられなかったみたいだ。しかし、あの時に反撃が出来なかった場合は俺の敗北は決まっていたかも知れない。今度は術式を封じられることはないから二戦目よりも勝ちやすいだろう。きっと次だって勝って見せる!)
そんな気合いを入れながら二分間の休息が与えられた。しかし、実際に大した長期戦でもないため、そこまで体力は消耗していない。けど、気持ちの整理をする時間としては丁度良い機会だったかも知れなかった。
そして三戦目は俺を超える体格を持った奴が待ち構えている。こいつはフィジカル
面で優勢を取っているような相手だった。しかし、俺の術式は相手の身体を冷やして身体機能を低下させる効果を発揮できる。つまり、相手が体格で勝っていても、こちらは自分に匹敵する値まで低下させれば優勢はお互いになかった。後は戦闘技能で勝敗を争うだけである。
「では、始め!」
「うがぁぁぁ! それじゃあ勝ちはもらうぞ!」
(速攻で攻撃を仕掛けて来るか! ならば、触れて凍らせるまでだ!)
俺に接近して来た相手の身体を触れる距離に迫る瞬間を狙った。相手は俺に触れられた瞬間に凍らされることを考慮した上で攻めているのかが謎である。しかし、こんなに勝ちやすい相手と当たるなんてラッキーにもほどがあった。
すると、そこで相手は俺の予測を覆す攻撃に出る。それは腕をハンマーに変えて振り上げた状態から叩き付ける要領で攻撃を仕掛けた。それを咄嗟に回避すると、ハンマーが地面にめり込んでいることに気が付く。それだけの威力を誇る攻撃が及ぼうとしていたことに驚きを覚えた。そして攻撃が避けられた時に考えた策に行動を変化させる。
(こいつは肉体の形状を自在に変える術式だな。術式で変形した部位は硬度を上げることが出来ると噂で聞いたぞ。これは数々の犯罪者を狩り尽くした魔術師だ。正面からでは勝てない!)
俺は相手の駆使する術式を理解して攻略法を探す。攻略法はこちらも術式で対抗しながら探る他に見付ける隙は作れないと判断した。やはり、肉体の形状を変えてどんな攻撃を仕掛けて来るのかは分からない中で戦うのは少し厳しいと思われる。
(とにかく相手を凍結させば動きを止められる。なら、攻撃を受けないで触れる必要があるな!)
次に相手の攻撃が及ぶ前に攻略法を考え出した俺は回避しながら接近する手段を実行する。それは相手が下す攻撃を見極めて避けて行く他は手段がなかった。これが通じなければ勝ち目はないと思われた。
相手がハンマーに変形させた腕を振るって攻撃に出る。それを避けながら俺が接近して行くと相手に触れられる距離に達した。そして俺は相手に触れて一瞬で凍結を試みる。
「ぐぁぁぁあああ⁉」
「よっしゃぁぁぁ!」
俺は今度の一戦も勝利を収めた。この勝利は凄く大きな結果だと思われる。三戦目を制覇した俺が次に水分補給の時間を与えられた時点で師匠が一言だけ助言をくれた。
「よぉ? どうやら順調に試験が進んでいるようだな?」
「はい。お陰様で俺も三勝しました」
「それは良かった。しかし、今度の相手は侮れないだろう。きっと君をこれまでよりも追い詰めて来る。それを乗り越えた上で君は進級を果たしなさい」
「了解です」
「では、期待しているよ」
俺は師匠の助言を受けて謎が生じたが、今度はそう簡単に倒せる相手ではないことが分かる。しかし、これを勝ち抜かなければ俺の進級は果たせないことは確かだった。この場で俺が負ける訳にはいかないのである。
そして水分補給が終わった後で俺は相手と向き合った。今度は女性が相手になるみたいだが、師匠から受けた助言でこれまでのように一戦は進まないことを警戒する必要がある。そこで彼女は余裕を持った態度で俺に言葉を送って来た。
「どうやらこれまでの一戦は余裕が持てたみたいだね? しかし、準一級術師の実力はこれからが恐ろしい」
「それでも俺は勝ちます。きっと勝利を収めて最終戦に挑みたいです」
「良いだろう。私で良ければ君をさらに成長させる一戦を交わそう」
彼女は俺に成長を促してくれると言うが、実際にそれが示す意味が分からなかった。しかし、この一戦はこれまで以上に厳しくなることは警戒して臨んで行く姿勢を見せる。そして彼女がこれから扱う術式は俺に苦戦を強いる効果を発揮させて追い詰める一戦を迎えさせた。
「では、始め!」
(まずは先手を打つ! 相手の攻撃を待っていては、一瞬で倒される可能性があるからな!)
俺はこれまでに扱って来た戦法で相手を動けなくする方針を取った。しかし、今度の相手はそれを簡単に溶かして来る。
「私に君の術式は効かない。有効打を加えるには私以上の冷気で挑まない限りは幾ら術式を展開させても溶かしてしまうだろう」
「何ぃ⁉ まさか俺の術式は相性が悪いのか⁉」
「相性で攻めることは卑怯だと思うかい? 実際に術式を駆使する上で相性に優劣が決まることは仕方がないわ。それはどんな魔術師を相手にしても勝手に定まる運命なんだよ。だから、そこまで相性は気にしないで交戦に挑める奴が真に等しい最強の魔術師だ!」
(彼女の発言は正しい。術式を扱う上で相性が伴うことはどうにもならない事実は受け入れる必要がある。ここで彼女を倒すためには術式を使わなくても問題を解消に至らせることが勝敗を決するだろう。なら、せめて接近した隙を狙って術式の使用する必要性があるかも知れない! とにかく接近することが優先だ!)
俺は内心で彼女の攻略法を見出した。しかし、師匠の助言が俺を油断させないための警戒心を抱かせる。そして俺が接近を試みた瞬間に彼女は予測から外れた箇所に炎を起こした。
「どうしたの? 君が私に接近する理由は触れるためでしょ? 攻撃手段は割れてるわ」
「クソォ⁉ 後で残して置くべきだったか⁉」
「君の攻撃手段ならすべて見切ったわ。後はゆっくり体力の消耗を待とうかしら?」
「何で倒せるだけの攻撃を下さないんだ! どうせ戦うなら確実に攻めれば良いだろうが!」
「バカね? 君のために開かれた試験に興味なんてないのよ。それに付き合ってあげている私の判断を否定するなら、もっと頑張って足掻きなさい」
(完全に舐められている気がする。けど、接近できない現状では勝利は望めない。ここは何とかして攻撃の隙を作らないと⁉)
そんな風に内心で迷いが生じた瞬間に俺ほ腹部に向けて炎を帯びた拳で殴打を放って来た。それが腹部に食らわされて大きなダメージを受ける。そして彼女がさらに炎を放出して俺を燃やして見せた。
「ぐはっ⁉︎」
「これでお終いかしら? この程度で準一級術師になれないわ。しかし、前の対戦で相手した魔術師はどんな処分を受けるのかぐらいは覚悟してもらわないとね?」
俺が膝を付いて意識を失い掛けた状態に陥った瞬間に審判が判定を下す。それは俺の判定負けが下されて、これ以上の交戦は望めなかった。
俺は敗北の判定になった時に保っていた意識が失われる。そうやって耐えていた力を抜いて気が付いた頃には医務室で寝かされていた。